融合世界
トノサマバッタ
第1章
第1話
白い空間で5人の男女たちが等間隔で置かれた椅子に座っていた。
椅子は全部で六つある。空席のひとつが5人の正面に置かれていた。
ほんの少し前までは言葉を発していた彼らだったが、今では誰一人として声を発っすることはなく椅子で項垂れていた。
彼が黙っている理由はただ一つだ。一人として共通した言葉を使うものがいないのだ。身振り手振りでなんとかしようとした彼らだったが今では疲れて椅子に座って時間が過ぎるのを待つだけだった。
ふとしたときに彼らのため息が重なると突然彼らの誰も座っていない最後の椅子が輝きだした。
その光は一瞬部屋がさらに白くなるほどに強くなると彼らの視界を奪った。
白くぼやけた彼らの視界が元に戻るとそこには茶髪の青年がいた。
青年は椅子に深く腰掛け目をつぶっていて動き出す気配はない。最初にいた五人のうちの一人の女性は立ち上がると恐る恐る彼に近づき声をかけた。
「あ、あの。大丈夫?ですか?」
彼女の言語は当然ほか4人にはわからないはずだった。しかしほかの4人はその言葉の意味をしっかりと理解し驚きのあまり四人全員が立ち上がった。
「わかるな」
「わかりますわね」
「お〜わかる」
「わかるようになったわね」
ほぼ同時に四人がしゃべると声をかけようとした淡い桃色の髪の女性も驚いた表情を見せた。
「わ、わかります。でもどうして?」
自然と5人の視線は椅子に座ったままで目を覚まさない青年へと向けられた。少し茶色っぽい髪を持つその青年は皆の声に反応したのかゆっくりと瞼を開き「朝?」とだけ一言呟いた。
彼は半目を開けて周りをゆっくりと見た後にまた目を閉じてピクリとも動かなくなった。しばらくするとすーすーという寝息が聞こえてきて五人のうちの一人の男が口を開いた。
「起こすべきか?」
「あ、あたしに言わないでよ。そっちのあんた起こしたらいいじゃない」
「え?ボク?気持ちよさそうに寝てるしなぁ」
「わたくしもそのままのほうがいいと思います」
「それじゃあ話が進まないですよね?」
灰色の髪の男が緑髪の女性へ、緑髪の女性は藍色の青年へ藍色の青年は金髪の女性、そして桃髪の女性へと順番に目配せをしたところで話は止まった。
灰、緑、藍、金の四人は頷いて話が進まないと言った桃色の女性の方を見た。
彼女は少し慌てた表情を見せたが、一瞬で覚悟を決めたのか真顔に戻ると全員に向かって頷き返し中央で眠る青年へと近づいていく。
「あ、あの。貴方は一体?」
「すーすー」
声をかけても起きる気配はない。女性が青年を起こそうと手を伸ばし触れようとした瞬間に頭上から大きな声が聞こえてきた。
「起きろー?」
空から降ってきた何かは少年の頭の上に乗ると彼の髪の毛を荒らす。彼は驚きの声をあげて立ち上がると頭の上にいる何かを掴もうと髪の毛に伸ばすが、何かはすばしっこくて彼の手を避けていく。
しばらく何かと青年の戦いは続いた。何かはきゃっきゃっと子供のように笑い、青年は叫んでいる。しっかりと起きた茶色の髪の彼が疲れ果てて息を整えていると彼はとある存在が目の前にいることに気がついた。
「………妖精?」
「起きたー?」
茶髪の青年は視界に綺麗な半透明を羽根をつけた小さな少女の姿を捉えていた。
桃髪の女性は彼の目の前で浮いていた少女を優しく包むようにして掴むと自身の目の前に手を掲げた。
「カチュア!どうしてここに!」
「リル、大きい声出されると耳が痛いよー」
小さなが少女は耳を塞ぐ仕草をしてみせるととリルと呼ばれた女性は「ごめんなさい」と謝ると再び小さな少女に話しかける。
「カチュアどうしてここに?」
「それは今から説明するから待ってー」
リルの手からふわりと浮かんだ少女は茶色の青年の近くで止まると輝き始めた。淡い光はゆっくりと人の形となっていく。
「突然このような形で呼び出したことを謝罪する。しかし時は待ってはくれない。君たちは世界を救うためにこの場に集められた。まずはこれを見てほしい」
淡い光は大人の女性へと変化した。見た目は先程の少女から大きくなっただけだが、雰囲気が異なるその女性がゆっくりと手を振ると白い空間から一気に宇宙空間へと変わった。そこには中心の一際青い星の周りに似たような形をした星が5つ回っていた。その星たちは少しずつ中心の星に近づいていっている。
「この中央に星が何であるか、君はわかっているな?」
羽の生えた女性は茶髪の青年の方を見る。彼はゆっくりと頷くとつぶやいた。
「地球」
「そう地球だ。周りを浮かぶ星たちはそれぞれの星だ。これは君の、これは君の、これは君の、これは君の、そしてこれが君のだ」
女性が星を指差すと6つの星はそ動いてそれぞれの前で止まった。
「よく見ておくといい。君らの世界だ。」
皆が星に注視する中、一人の女性が口を上げる。緑の髪をした、少し目のつり上がった女性だ。
「ちょっと待ってよ!確かにこれは私がいた星ではあるけど、それが世界を救うだどうかとかに何かが関係するの?だいたい怪しいのよ、ここにいる全員で私を騙そうとしてるんじゃないの?」
「――確かに、信用できないだろう。普通ならそうだ。でも君は知っているね。君たちは世界の違和感をその身で感じていたはずだ。よく知る道がなくなったり、今までの常識が違っていたり、違う地名があるような気がしたり。そういうのを感じなかったか?」
羽の生えた女性の言葉で緑髪の女性は黙った。彼女にはその覚えがあったのだろう。他の五人も皆が少し考え込むような仕草をしている。
「世界融合。それが君たちが感じていた違和感の正体。世界は常に一定ではない。時には繋がり、時には離れたりしている。世界とは揺らいでいるものなのだよ」
灰色の瞳を持った藍色の髪の青年が人差し指を上げた。
「いい?」
羽の生えた女性は頷いた。
「仮にだよ。世界融合とやらがあるとしてだ、常に起こっていることなら別に問題にする必要ないよね?」
「確かにその通りだ。しかし今回は違う。先程見せた通り、地球と言う星一つに5つの星が融合しようとしている。仮にもし融合してしまった場合だが、どうなるか見せよう。」
それぞれの前にあった星が再び元のように地球を中心に5つの惑星が回り始めると5つの惑星は地球へとゆっくりと近づいていく。地球以外の星はゆっくりと粒子へとなっていき、地球に集まったあと地球は突然消えた。
「消えてしまったね」
「そう消失してしまう」
灰髪の青年は腕組みをし眉間に皺を寄せた。
金髪の女性が睨みつけるような強い視線で羽の生えた女性の前に出た。
「仮にこれが事実だとしましたら、わたくしたちに何ができるというのでしょうか?ただの人間に世界を巻き込む事象が解決できるとは到底思えません」
「正しい判断能力だ――しかし君たちはただの人間ではない。選ばれし人間たちだ。限りなくゼロに近い可能性を引き当てることができる人間たちだ。これ以上は時間の無駄だろう。それぞれに直接情報を流し込む。そのあとは自分たちで考えてほしい。誰もが世界を破滅させたいだなんて思わないだろう?」
羽の生えた女性が再び淡く光はじめたかと思うとその光がゆっくりと彼らを覆っていく。空間を満たした光が収束し光がやむころには六人の姿は消えて、その場には羽がある女性だけが残っていた。
「やはり収束してしまうものなのだな」
女性の羽根が1つ砕け散り小さい光がスっと浮かぶと消えていく。
「頼んだよ」
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