第11話 焦り
クリスマスまで一ヶ月を切っていた。
どうしよう、ずっと片想いしてた相手じゃ勝ち目ないよ。てかあの時の話は本当だったんだ、てっきり断り文句で言ってみたかったのーとかかと思ってた。
僕だってやっと叶った恋手放したくないよ。でもたいちくんはゆいちゃんの幼馴染だし今となってはまあまあイケメンだし僕よりも背が高くて‥‥って僕は何考えてんだろ。ゆいちゃんを信じないと。
でも正直ゆいちゃんならあっさりオッケーして僕なんかポイってされそう。
あー!迫り来るクリスマス!楽しいはずのクリスマスがたいちくんのせいで地獄だー!
とにかくゆいちゃんには僕にぞっこんになってもらうしか方法はない!!
でもどうやったら‥‥。
僕は考えた、考えたけどそんな都合のいい方法なんてない。ゆいちゃんとたいちくんには長年一緒にいた時間がある。僕との時間よりよっぽど長い。クリスマスまで毎日一緒にいても届かない程の月日を二人は過ごしてきたんだ。
そう言えば、ゆいちゃんは僕のどこを好きになってくれたんだろう。今度会ったら聞こう。答え次第では僕にも希望があるかもしれないし。
クリスマスになるまで、僕ははたいちくんと会っても話をしなかった。
普段からたいちくんはあんなだからゆいちゃんも気付いてはいなかっただろうけど、たいちくんのゆいちゃんを見る目がどことなくいやらしく思えて気が気ではなかった。
クリスマス当日、今日は朝からゆいちゃんと約束をしていた。まずはショッピングをして、夜はイルミネーションを見に行く予定だ。
いつもの公園で僕は待っていた。
「ごめん遅くなって!」
小走りで来るゆいちゃんは、赤いワンピースに黒いブーツを履いていた。
正直ダサいとは思ったけど、そんな所も愛おしく思えるほど僕はゆいちゃんに惚れていた。
「今日は僕の方が早かったね」
「なかなか服が決まらなくてさ、どう?」
「うん、似合ってるよ!」
僕はあまり顔に出ないタイプでよかったとホッとしていた。
「じゃあ行こっか!」
いつも僕を引っ張っていってくれるゆいちゃん。
しっかりものに見えて実は天然で嘘がつけない、素直な子だ。
僕はそんなゆいちゃんが大好きだ。
「あっそうだ、今日の六時頃たいちが話があるからって言ってた!」
はっ!!僕はクリスマスの雰囲気で半分忘れかけていた、難関。
「そうなんだ、なんだろうね話って」
「なんか、大事な話だから私一人で来いって言われた」
「えっどこに?今日はイルミネーション見るんじゃなかったっけ?」
「場所は教えてくれなかった、また電話するって」
「僕はどうしたらいいの?」
「すぐ終わると思うから近くで待っててよ」
「分かった」
出来れば話も聞きたい所だけど、帰ってと言われるよりはマシかな。
僕は街にある時計という時計を見るたびに時間を確認していた。ゆいちゃんのスマホも、いつ電話がかかってくるんだろうとヒヤヒヤしていた。
時刻は五時五十五分。
ゆいちゃんのスマホが鳴った。
「もしもし?うん、わかった」
短い電話が終わる。
「ちょっと行ってくるから、そこのベンチで待っててね」
「うん、分かった」
僕はその時いた場所の近くのベンチで待つよう指示された。
小走りでどこかへ消えていくゆいちゃんの背中を見ながら、まるで呪いをかけるかのように、たいちくんを振れー振れーと唱えていた。
すぐ終わるわけないよな、たいちくんも粘るだろうし。僕はいてもたってもいられなくなり、ゆいちゃんを探す事にした。
外はすっかり暗くなりイルミネーションが輝いていた。
しかし、なかなかゆいちゃんが見当たらず僕は焦っていた。
あぁ、僕がたいちくんだったらな。こんな心配しなくていいのに。
‥‥いや、僕は僕でいいんだ。
ただ、もし時間が戻せるなら、ゆいちゃんから離れなかったのに‥‥。
その時、交差点の向こう側にゆいちゃんを見つけた。どうやら僕の事を探してるように見えた。ウロウロせず待っておけばよかった!
僕は大きな声で
「ゆいちゃん!」
そう言い人混みをかき分けてゆいちゃんの元へ走る。
しかし人混みを抜け交差点に差し掛かった時、ゆいちゃんと目が合った。
何か言ってるな。
ゆいちゃんは必死に何かを言いながら、目を見開いて手をブンブン横に振り回している。
えっ?僕に言ってるんだよね。車の音で聞こえない‥‥。
車の音‥‥。
その瞬間。
ププーー!!!と言うクラクション音と、
キキーー!!!というブレーキ音。
僕は悟った‥‥やってしまったと。
体に強い衝撃を受けたと思った時には既に空中にいた。綺麗なイルミネーションの中、スローモーションのように落ちていく僕を見るゆいちゃん。
ゆいちゃんは何て返事したんだろう。
たいちくんを選んだのかな‥‥‥‥。
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