第39話 僕とクリスマス⑥
「ねえねえ」
宮村さんが見たいものというのはスマホのケースだったらしい。今使っているのが古くなったから買い替えたいんだとか。
よくよく考えると、ここでマフラーを買うと言い出されたらマズかったな。
いや、その場合はそのときに渡せばいいんだろうけど。
ともあれ、僕らはスマホケースを求めてヨドバシキャメラにやってきた。
ヨドバシは偉大である。あらゆるものが揃っているので一日暇を潰せる。
「はい?」
「丸井はどんなスマホケース使ってるの?」
言われて僕は宮村さんにスマホを見せる。別に見られて困ることはないし、何なら以前一度スマホを渡しているので見られている。
「そういうこんなだった。普通だなーって思ったの思い出したよ」
僕が使っているのは本当に普通のケースだ。透明で最低限の衝撃から守ってくれるだけのもの。
それにスマホリングをつけて使っている。
「なんかもっと変なの使ってそうなのにね」
「変なのって」
なにを想像されているかはだいたい予想つくけど。
僕みたいな見た目のやつがそれこそアニメ柄のケースを使うと「やっぱりな」と思われる。
それが何だか腹立たしくて抗っているのだ。
「宮村さんはどんなの使ってたんですか?」
「手帳型のやつ。カードとか入れれるから楽なんだよね」
「ああ、確かに。でもあれポケットとかに入れるとかさばるんですよ」
「あたしはポケットに入れないから」
確かに宮村さんはスマホをカバンから出すことが多い。スカートの場合はポケットとかないからなのかな。
そうであればかさばるという心配もないか。確かにカード入れれるのは便利だしな。
「今回も手帳型にするんですか?」
「んー、そうしようとは思ってたけど。なんか可愛いのあったらそれにするかも」
可愛いというとなんだろう。
女子の感性はどうしても理解できないし、僕にできることは何もないな。
そう思っていたのだけど。
「丸井はどれがいいと思う?」
「え、何でもいいと思います」
「そういうこと言わずに。選んでよ」
「はあ」
あれか。
こういう他愛ない会話を楽しむというやつか。でもこれで僕のセンスが露見してしまうしなあ。
万が一にもダサいの選んでしまったら終わりだしなあ。
どれがいいだろう。
さっきの言い方的にやっぱり手帳型がいいんだろう。手帳型は普通のケースに比べると柄のバリエーションは少ない。
となると大事なのは色と機能か。
カードを入れるところがあって、なおかつ可愛らしく、あわよくばそれ以外にも便利な機能があるもの……。
「これとか、いいんじゃないですかね」
僕が指差したものを宮村さんが手に取った。
それは薄い水色のケースで中にはカードホルダーがある。そこに小さな鏡がついていた。
「へー。あ、鏡ある。ほーん」
小さく声を漏らしながら宮村さんがあちらこちらからケースを眺める。そして、こちらを見て一言。
「うん。これにする」
「え」
なにそれ聞いてない。
「なに?」
「いや、僕が選んだものなんかでいいのかなって」
「いーよ。これがいいの」
ふふ、と笑いながら宮村さんはスマホケースを見つめて、そしてそのままレジの方へ向かった。
宮村さんが会計を済ませている間、僕は少し離れたところで待っていることにした。
このあとどうしよう。
僕はスマホをシュッシュッと操作しながら悩む。
この近くでイルミネーションのイベントがやっている。結構な規模のものらしく、調べてみると評判もいい。
以前、遊園地に行った日の帰りに宮村さんが電車の中で見ていたポップにあったのもこのイベントだ。
実際に誰かと行った可能性はある。誰とも行っていないという保証はない。
けれど。
もし行ってないのだとしたら、この先誰とも行く予定がないのだとしたら、僕は宮村さんにイルミネーションを見せてあげたいと思った。
いや、そんな言い方は止めよう。
僕自身が宮村さんとイルミネーションを見たいと思っているのだ。
どうして?
どうして僕は宮村さんとイルミネーションを見たいんだ?
「お待たせ」
「あ、いえ」
結局考えがまとまる前に宮村さんが戻ってきた。僕はスマホをポケットに入れて顔を上げる。
「……」
「……」
そして、再びあの時間だ。
このあとどうしよう的なやつ。
覚悟を決めろ、僕。
どうせどうやっても僕一人の力じゃ上手くやることなんてできない。
どれだけカッコつけても失敗するんだ。他の男みたいにスマートに女の子をエスコートするなんてできないのだ。
だから。
「あ、あの」
格好悪くてもいいから、恥をかいてもいいから、悪あがきをしろ。
「なに?」
「今日って、このあと予定とかありますか?」
バクバクと心臓がうるさい。
ここまで緊張したことはかつてなかっただろう。
人はどうして緊張するんだろう。
分からないけど、きっと失敗するのが怖いからだ。
もし宮村さんが「このあと予定ある」と言ったらどうしようか、という不安がこみ上げてくる。
どころか「彼氏と会うの」なんて言われた日には僕は引きこもって涙を流すかもしれない。
ああ、そうか。
僕は宮村さんに彼氏がいると辛いと思っているんだ。
それって。
つまり。
「ううん。ない! ないよっ!」
不安に押し潰されそうになっていた僕をまっすぐ見て、宮村さんは大きな声でそう言った。
「えっと、それじゃあもうちょっと付き合ってもらってもいいですか?」
「うん!」
即答だった。
嬉しそうにはにかむ宮村さんを見て僕は確信した。
いや、気づいてしまった。
僕は、宮村さんのことが好きなんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます