第27話 僕と遊園地④


 ジェットコースターでライフが尽きた綾瀬さんの介抱を宮村さんがしている間に、僕と五十嵐さんは展示会に行った。


 綾瀬さん、結局バレたなあ。

 

「まるっち、写真撮って!」


 フォトスポットがいくつか用意されており、五十嵐さんはその全ての前でそのセリフを吐いた。

 僕が写真を撮ると、「ほら、まるっちも」と僕の写真も撮ってくれた。オタク仲間っていいなあと思いました。


 その中でも一つ困ったのは、


「一緒に撮ろーぜー」


 という五十嵐さんの発言だ。二人とも写真に入るとなるとシャッターを誰かに頼むのかと思いきや、自撮りだったのだ。


「もうちょい寄って!」


「は、はい……」


 めちゃくちゃ顔が近い。

 自撮りとか慣れてないからそもそも分からないのに、その上五十嵐さんの顔がすぐそこにあると思うと照れる。


 何とか顔から目を逸らそうとすると、僕の視線は自然と五十嵐さんの胸元に下りるし。所詮は僕も男ということか。


 展示会の内容自体は満足の行くもので、結局三十分くらいいてしまった。

 慌てて二人のもとへ帰ると綾瀬さんはだいぶ体力を回復していた。


「どうだった?」


「すごい良かったですよ」


「……だろうね」


 宮村さんはテンション最高潮の五十嵐さんを見ながら言った。


「えりぴも復活したことだし次はどうする?」


 その後、幾つかのアトラクションを楽しんだところでお昼を挟む。園内にキッチンカーがあったのでそこで買うことにした。


「こういうとこの焼きそばって美味しそうに見えるよね」


「祭りとかと同じですかね」


 五十嵐さんと綾瀬さんは場所取りのために先にベンチの方へ向かい、僕と宮村さんはキッチンカーへやって来た。


「焼きそば四つお願いします」


 こういった注文も得意じゃないのでその辺は宮村さんに任せることにした。

 キッチンカーのおじさんは「あいよ!」と元気な声で返事をしてチャカチャカと焼きそばを作り始める。


「二人はデートかい?」


 突然そんなことを聞かれたので僕は「あ、や、いや」と言葉に詰まってしまう。


 しかし、そこはさすが宮村さんだ。すぐに切り替えしていた。


「あはは、そう見えますー?」


「見える見える。兄ちゃん可愛い彼女ゲットしたじゃあねえか」


「うぇへへ」


 訂正しようよ。

 いや、そちらがいいなら僕としては何も問題ないんですけど。

 一度恋人のふりしてくれてるし。


「可愛い彼女さんにおまけしちゃおうかな!」


 ご機嫌な様子のおじさんがもりもりと焼きそばを盛る。嬉しいことだけどそんなにいっぱい食べれないだろ。


 焼きそばを受け取った僕らは綾瀬さん達の待つベンチに戻る。


「あたし達もそういうふうに見えるんだね」


「そういうふう?」


「だから! その、カップル?」


「ああ。でも、あの調子だとどのお客さんにも言ってそうですけどね」


 僕は冗談めかして笑って言った。

 するとなぜか宮村さんはむすっとした顔をしている。そんなに面白くなかったかな。

 まあ、ユーモアセンスは一欠片もないだろうけどさ。


「そういうときは素直にそうだねって言えばいいのに」


「は、はあ」


「丸井は乙女心を一ミリも理解してない!」


「……勉強します」


 そりゃ理解できないよ。勉強する機会がなかったんだもん。

 ギャルゲーやってラブコメ漫画読んで理解できるなら僕はもう百戦錬磨だもん。


「それがいいと思うよっ!」


 確かに、今では宮村さんを始め五十嵐さんや綾瀬さんも僕と話してくれるわけだし、失礼なことがないように勉強した方がいいか。


 昼食を終えると再びアトラクションを回り始める。スタンプラリーのスタンプはおおよそ集め終わったので五十嵐さんのテンションが少しだけ落ち着いた。


「付き合ってもらってたし、次はえりぴの乗りたいもの行こうよ」


「……別に何でもいいけど」


 言いながら、綾瀬さんは僕が広げていた園内マップを覗き込んでくる。距離が近いし、なんかいいにおいもする。


「室内がいいかな。行ってないし、お化け屋敷でいいや」


 まあ、外は結構寒いですしね。

 お化け屋敷も遊園地の鉄板アトラクションだ。案に上がるのは自然なことだ。


 が。


「え゛」


 濁った声を漏らした者が一人。

 宮村さんである。


「どったの?」


 綾瀬さんが訊くと宮村さんは青ざめた表情のまま首を横に振る。この表情はさっき別の人で見ましたねえ、全く同じ顔をしてる。


「べ、別にお化け屋敷はいいんじゃない?」


 僕でさえ、お化け屋敷嫌なんだろうなというのが分かるのだから、付き合いの長い二人が察さないはずがない。


「いや、せっかくだし行こーよ」


「そうだよ。遊園地といえばお化け屋敷だよ。ねえ、マルオ?」


「え、ああ、そーですねー」


「ねえ、マルオ?」


「……はい」


 迫力に負けた。

 宮村さんが恨めしそうに睨んできているが、綾瀬さんに比べると月とスッポン。いや、ライオンとチワワだ。


「で、でも」


「あーしだってジェットコースター乗ったんですけど?」


「うう」


 それ言われると宮村さん何も言えないよ。

 

 というわけでお化け屋敷へ行くことに。


「二人ずつみたいですけど?」


「じゃあ沙苗、一緒に行こうか?」


「さなち、私と行こーぜー?」


 二人ペアだと分かった瞬間に楽しそうに宮村さんを誘う二人。何をするかはわからないが何かをしようとしているのは明らかだ。


 それを察したのだろう。宮村さんはスタスタと僕のもとへと歩いてきた。


「あたし、丸井と入るから!」


 綾瀬さんも五十嵐さんも、こうなることは分かっていたのか、ちぇーっとつまらなさそうな顔をするだけだった。

 

 もちろん、僕には何の発言権もないのだ。

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