第12話 僕とテスト勉強②
昼休みにでも勉強をするのかと思っていたが、了承したあと「それじゃ、放課後よろしくね!」と言われた。
訊くと、学校の昼休みくらい勉強のことを忘れて自由にいたいらしい。
ということで放課後だ。
「それじゃね、沙苗」
「さなち、がんばれー」
「二人は勉強しなくていいの?」
「あー、まあね」
「ぼちぼちしてるから」
ひらひらと手を振って、綾瀬さんと五十嵐さんは教室を出ていく。僕らは教室に居残って勉強をしようと思っていたのだが。
「中々帰らないね」
部活が休みになった野球部やサッカー部がいつものフラストレーションを解放するかのように放課後に居残っている。
しかも騒いでいる。
とてもじゃないが、勉強できる雰囲気ではない。
「図書室にでも行きましょうか」
あそこなら確実に静かだろう。
そう思い、移動したところで僕らは驚いた。
いつもはほとんど人のいない穴場スポットなのに、テスト前になると満員だ。
テーブルは一つも空いていない。
「ここもダメそうだね」
「……他に勉強できそうなところはないですね」
諦めるしかないかな。僕がそう思っていると、宮村さんは思いついたように手を合わせる。
「別に校内じゃなくてもいーじゃん。適当にどこかのお店でやろうよ。マックとか」
「え」
寄り道じゃん。
なんか放課後に、しかもテスト前に寄り道とかいけないことしてるような気分になる。
でも、勉強するという名目があるから何もやましいことはない。
「ほら、行こ」
「あ、はい」
断る理由もないので、僕は宮村さんについて行く。学校を出て駅に向かう。この辺の店はダメなのかと訊くと「どうせどこも多いよ」とのこと。
最もな理由だ。
ということで、電車で数駅移動したところで降車し、駅前のマックに入る。
どうやらここは宮村さんの家の最寄駅なようだ。
「なんか食べよっかな」
「そうですね。せっかくですし」
実は誰かとマックに来るのはこれが初めてのことで、内心結構わくわくしている僕だった。
僕はカフェラテとナゲット。宮村さんはオレンジジュースとポテトを注文する。
商品を受け取った僕らは適当に空いているテーブルに座る。そこまで混んでいないようなので、四人がけの席を贅沢に使わせてもらうことにした。
「あ、ナゲット一つちょーだい」
座るや否や、ポテトを口にする宮村さんがそんなことを言う。そんなことを言われて無理と言えるはずもなく、僕はナゲットを差し出す。
「ポテトも食べていーよ」
すると、宮村さんはポテトをドバドバと箱から出す。これが伝説のシェアというやつか。まさか実在するものだとは。
それでは遠慮なく。
僕はパクリと一本つまむ。
「って、そうじゃない! 勉強するんですよ」
友達との放課後の一時を堪能しかけていた。僕はハッと我に返ってノートを広げる。
「そうだね。そうだったね」
さっきまでのテンションはどこへいったんだというくらいにガックリと肩を落としながら宮村さんもノートを広げた。
「普段勉強とかって」
言いかけて、宮村さんのほけーっとした顔を見た瞬間に口が止まった。
「いや、何でもないです」
「最後まで言おうよ!? でもお察しのとおり勉強は全然してないよ!」
「ですよね」
そもそも日頃勉強している人は酷い点数取らないよな。宮村さんの赤点の多さに普段の勉強に対する姿勢が現れている。
「ですよねって言われるのも腹立つなあ」
ぶつぶつと言いながら宮村さんはくちびるを尖らせる。
「勉強といっても新しいことを覚える必要はないんです。大事なのは復習で、習ったことを忘れないようにするのが大事なんです」
「でももう忘れてるけど」
威張るな。
「では、もう一度覚えるところから始めましょう」
「ええー」
心底嫌そうな声を出す宮村さん。
とはいえ、そこから始めないと進めることはできない。
「日頃から勉強しているとテスト前に焦ることはないんですよ」
「ううう」
ということでテスト範囲の最初から一つずつ復習をしていく。彼女の言うとおり、やったはずのことの半分以上は忘れており、それを教えることにほとんどの時間を費やしてしまう。
なにより厄介だったのは、宮村さんの集中力のなさだった。
「……もうだめ」
呟いて、パタリと机に突っ伏した宮村さん。こうなってしまうと無理に勉強をしても頭には入らない。
やる気どうこうの問題ではないので、僕どころか宮村さんでさえこれはどうしようもない。
「今日は終わりにしましょうか」
「え、でも」
「集中が切れた状態でしても頭には入りません。やるときはやる、休むときは休む。これは大事なことですよ」
「そっか。そうだよね!」
終わりとなったからか、宮村さんは元気を取り戻す。それくらい元気ならまだ続けれそうな気がするけど。
まあいいか。
初日だし。
「ねえ丸井。クレープとか食べたくない?」
「え、別にですけど」
「食べたくない?」
ほぼ強制だと思う。
「勉強したあとは糖分補給! これは大事なことなのだよ、丸井くん!」
「はあ」
「さ、行くよ」
その後、無理やりクレープ屋まで連行された僕はクレープの美味しさに震えたのだった。
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