趣味と仕事の二刀流
霜月かつろう
第1話
「じゃあ。お疲れさまですー」
就業終了時刻になった瞬間に声を上げるのは週3回。いつものことと言えばいつもの事。それでも。いやそれだからか、数人の同僚からは好意的でない視線を向けられる。
「水曜からあんなに急いで」
「週末の合コンも断られたよ」
「なにしてるんだろ」
「仕事終わってるんでしょうね?」
「昨日は遅くまで残ってたみたいよ」
「どうせ男でしょ」
「へー。ロクでもなさそうだけど」
そんな会話を聞こえないふりして、目的地へとひた急ぐ。
あんた達とはやりたいことが違う。
そう誰にぶつけるでもなく。自分の中で消化もできず。誰にも聞こえない言葉を地面へとぶつけるように落とす。
仕事の納期はちゃんと守る。クオリティも文句を言われる筋合いのないところまでは持っていっている。だいたい、仕事内容で上司から文句を言われたことはないのだ。横から色々言われたところで痛くも痒くもない。
そのはずだ。
自分に言い聞かせないとならないのはそれを思い込みたいからかもしれない。それをなるべく考えないようにして歩く街中はいつもより灯りが少ないように見えてしまう。
そんなことないはずなのにな。
いけない。そう自分を鼓舞するようにしっかりと前を向く。平日の夜更け前はそれなりに人通りが多くて、冬も終わりを迎えるのか、薄着な人たちも目立ち始めている。
そんな人たちを避けながら向かうのは駅から少しだけ離れた大きな建物だ。
繁華街とは反対側。段々と静かになっていく道をひとり歩く。肩には駅のロッカーから回収したひと荷物を下げてだ。
スーツ姿に不釣り合いなのか何人か不思議そうな視線を送ってくるが。それももう慣れてしまっている。
どこに行っても奇異なものを見るような目で見られているな。
どこまで行ってもそうなのだとしたら。もう諦めるしかない。そう思っている。
そうして、ようやく大きな建物が目の前に現れた時、心がホッとする。その大きさはまるで自分を包み込んでくれるような存在。
『アイススケートリンク』
大きく書かれた文字はいつだって迎え入れてくれる。
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