第5話 料理名が短過ぎても気になる……

 

「食べ過ぎたな」

「そうですね」


 食事を終え、満足してテオと笑い合っていると、皿を下げに来たクリスティアが訊いてきた。


「デザートはいかがですか?

 本日のオススメは『魔王様のタルトタタン』です」


「……急に名前、短くなったが。

 長いときより気になるぞ。


 魔王が入ってんのか?

 魔王が作ってんのか?

 それとも、魔王がなにか採ってきてくれたのか?」

と言いながら、アーレクは、そのどれも嫌だな、と思っている自分に気がついた。


 アーレクの頭の中では、美しく強大な力を持つ魔王がクリスティアにベタ惚れで、自ら料理を作ったり、素晴らしい食材をせっせと運んできたりしていた。


 クリスティアは微笑み、そんな魔王を見守っている。


 現実のクリスティアはその言葉を聞き、

「あー、魔王様が作ってくれたら、レンチンより簡単そうですよねー」

と言い出す。


「今度、魔王様に頼んでみますね」


「いや、頼みに行くなっ」


 っていうか、ほんとうに魔王様と知り合いなのかっ、とアーレクは思った。




 結局、頼んでしまったタルトタタンには、魔王は入っておらず、魔王の森付近でこの国の王子が採ってきてくれたというリンゴが入っていた。


「いや、王子の名前を入れてやれっ。

 っていうか、王子も常連客なのかっ」

と言いながらも、テオと二人、タルトタタンを味わう。


 酸味が強いリンゴに、『可愛いうさぎが住み着いている家のおじさんが絞った牛の乳』を使って、子リスがたまに訪れるおうちのおばさんが朝作ってくれたというバターがよく染みていた。


 王子が持ってきてくれた異国の酒というのも効いている。


「……王子、大活躍じゃないか。

 名前に入れてやれ」


 『魔王様のタルトタタン』は、シナモンやキャラメリゼのほろ苦さとのバランスもよく、アーレクたちは大満足した。


 ……だから、また来たいと思っても、それは料理のせいで。


 クリスティアに会いたいからとかでは、決してない、とアーレクは心の中で言い訳をする。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る