第十一話 祝賀会

 再び戸を叩く音。3人が振り向くと、体格の良い男と、高身長な男が部屋に入ってきた。

「お、君達が『傷の戦士』か」

 長身の男が言う。

「初めまして。俺はラティスと言う。君達と同じ『傷の戦士』で、国王陛下の側近をしている」

「同じくオキシオだ。皆と相まみえることが出来たことを嬉しく思うよ」

「というか、君達突っ立ってないで座りなよ。陛下たちはお忙しいからこちらにいらっしゃるまでもう少し時間がかかる。座って少し話そう」

 ラティスに促され、皆、ソファに腰を下ろした。


「久しぶりだなジュナイン。元気にしてたか?」

 そういったのはオキシオだ。

「あ、あぁ…元気だよ。というか普通に君と話していいのかい?」

「構わないさ。俺達は兄弟みたいなものだからな」

「驚いた…オキシオ、彼とはどういう関係なんだい?」

 ラティスは目を丸くしながら二人を交互に見る。エリシアも驚いている。ジュナインが国王陛下の側近と知り合いとは…。

「僕の両親が亡くなった時、同じ『傷の戦士』だからと言って、1年くらいオキシオの家で世話になってたんだよ。そのあと子供が欲しいって悩んでた今の両親に引き取られたんだ。すごいだろ、オキシオも当時10歳。そんな進言が出来る10歳なんて、お前と会わなきゃ、今頃僕は死んでいたかもしれない」

「小さいころから『傷の戦士』については気にかけていた。荷運び中の落石が原因で君の両親が亡くなり、取り残された君が『傷の戦士』だと聞いた時、助けたいと思ったんだ」

「オキシオの両親は嫌がってたみたいだけどな…でも感謝してる。厳しいご両親だったけど、あの1年で得られた知識と教養は、僕の人生の宝だ」

「最初は嫌がってたけど、君が今の両親に引き取られた後、両親はさみしがっていたよ」

「本当かい?」

「あぁ、両親には君が元気にしていると伝えておく」

 ほぉ、とラティスは関心の声を上げた。

「お前は本当にすごいな!強いし頭もいいし優しい!お前にまだ嫁さんがいないのが不思議なくらいだ」

「お前はもうちょっと真面目に働け」

「これでも真面目な方さ。今の地位は気に入ってる。衣食住は文句の付け所ないしな」

 ラティスは深いため息をつく。

「いつもにこにこしてるだけで大した進言もしなければ、国民が苦しんでいるのに何の対策もしない国王陛下、それをいいように操る女王陛下…。せめてもう少し人望があれば、俺も命を賭して国王陛下をお守りするさ」

 シン、とその場に沈黙が落ちた。


 国民だけではない、兵士たちも感じている。現国王、女王への不満。つい先日も、少数の反乱因子が城に攻め込む計画を立てていたらしい。未然に阻止されたが、反乱因子が処刑されたのはもちろん、その家族にも厳しい処罰が下ったらしい。

「いつか国王陛下も、女王陛下も、国民の苦しさがわかる日が来る。必ず」

「そう信じてるのはお前だけだぞオキシオ。あぁすまない、俺達だけで話をしてしまって」

 エリシア達にラティスは申し訳なさそうに謝った。

「いいえ、とんでもないです」

「同じ年なんだから敬語はいらないよ、俺は君達のことも気になる。同じ『傷の戦士』なんだ。君達にも“特別な力”があるんだろう?俺は【ロックオン】という力でここまでのし上がってきた。だから君達のこともぜひ聞かせてほしい」

「そういって、探り入れようとしていないかい?」

 ジュナインが聞くと、ラティスが苦笑する。

「ばれたか。君達が『傷の戦士』である以上、能力によっては俺と立場が入れ替わるだろうからな。まぁ君達を見れば、城で働こうなんて気がなさそうだからそんなに心配はしていないが、やはり気になるだろう?」




「その話、私達も一緒に聞かせてもらっても構わないかい?」



 庭から声がする。全員がそちらを見ると、豪華にドレスアップされたマティスとユーリィが立っていた。

 オキシオとラティスが立ち上がり、その場に膝をつく。それを見たエリシア達も慌てて立ち上がり、頭を下げた。

「みな、頭を上げてくれ。待たせてすまなかったな。庭を通った方が早くここに到着できるからこちらを通ってきたんだ。驚かせてしまってすまないね」

「とんでもございません」

「このような席をいただけたこと、このラティス、感謝の極みでございます」

 軽口だったラティスから、信じられない言葉が出てきて、エリシア達は目を瞬かせた。

「まぁみんな、その場に座ってくれ、『傷の戦士』同士、ゆっくりと話そうじゃないか」

 マティスは上機嫌に城へとあがり、ユーリィは不機嫌そうにそれに続いた。エリシアが身に着ける物より何倍も重そうなドレスも、信じられないほど高いヒールもものともせず闊歩していた。



『傷の戦士』だけの祝賀会の始まりである。





 部屋に入ってきた女中たちが、ソファ席からテーブル席へと案内する。各々が席に着くと、テーブルに料理が並べられていく。

 ふと、エリシアはマティスの料理を運ぶ女中だけ、服の色が違うことに気が付く。皆が黒いワンピースなのに対し、彼女だけワインレッドの服を着ている。その女中は料理を運び終えると、マティスの後ろに立った。それ以外の女中は部屋から出ていく。女中一人残されたことに違和感を覚えた。


 マティスが両手を組むのをみて、同席している皆も手を組んだ。

「守護神様、今日も同士と食卓を囲める幸せに感謝いたします。いづれ我々も守護霊としてお仕えするまで、どうぞ我々をお守りください」

 言い終えると、マティスは目の前に置かれたグラスをゆっくりと持ち上げた。

「今日は私と正妃のために来てくれてありがとう」

 来てくれてって…強制的に呼び出したくせに、とエリシアは内心で悪態をつく。

「皆もグラスを持ってくれ、乾杯しよう」

 言って、マティスは左手でグラスを持つ。その手は手袋をして、同じ『傷の戦士』の証が見えない。

「承知いたしました」

 言って、オキシオとラティスはすぐにグラスを持つ。エリシア達も、おずおずとグラスを持った。

「乾杯」

 マティスが音頭を取り、一口シャンパンを飲んだ。

 その隣、ユーリィはグラスに手も付けず、ずっと扇子で鼻を覆っている。

「ユーリィ、どうしたんだい?祝賀会は疲れたかい?」

「いえ、そのようなことはございません。とても素晴らしい祝賀会でしたわ。ただ、ここは少しばかり土臭い気がいたしまして。とても食事の気分にはなれませんの」

 エリシアの耳がカッと赤くなる。エリシアは農家の子だ。肥料や土の匂いが染みついている自覚があった。

「まぁそういうな、こういう機会でもなければ、同士と話す機会もあるまい」

「陛下がどうしても同士に会ってみたいとおっしゃるからご一緒いたしましたが、私はやはり、同士とは思えませんわ」

 ユーリィがチラリとエリシアを見る。

「焼けた肌にツヤのない髪。不釣り合いなドレス。目も当てられませんわ」

 ふん、とユーリィはエリシアから顔を逸らした。

 エリシアが唇をかみしめる。

「彼女は家族でリンゴ園を経営しておりまして。国内のリンゴのほとんどは彼女の家のリンゴです。彼女が日に焼けているのは、リンゴを一生懸命育てている証ですよ」

 そうすかさず言ったのはジュナインだった。ユーリィがジュナインを睨む。

「おまえ、誰の許可を得て進言している。許可なしに言葉を発するな、空気が汚れる」

 よいか、とユーリィは続けた。

「国内の安いリンゴなど私は口にしていない。海外のリンゴはお前たちが食べたこともないような、甘い蜜がたっぷりと含まれておる。そなたの作る、甘みがなくパサついたリンゴなど、私の元に届くわけもない」

 悲しいを通り越して腹が立ってきた。エリシアの額に青筋が浮かぶ。年々リンゴが美味しくなくなってきたのは誰のせいだと思っているんだ。と叫びたい。

「ユーリィ、今日は楽しい席にしたんだ。進言に許可など必要ないよ。楽しく食事をしようじゃないか」

「…陛下はどうぞご自由に。私はこれ以上話す気などありませんので」

 ユーリィは再びそっぽ向いた。


 やれやれ、とマティスが苦笑する。

「さきほどの話の続きをしようか。我々は、『傷の戦士』として、それぞれ守護神様に“特別な力”…我々はそれをスキルと呼んでいる。みな、どのようなスキルを持っているのか興味がある」

 ちなみに、とチラリとマティスはオキシオを見た。

「オキシオはスキルに目覚めていないんだったな」

「はい」

「ユーリィ、嘘はないかい?」

 面倒くさそうにユーリィがオキシオを見ると、小さく頷いた。

「ユーリィにはね【嘘を見破る】スキルがあるんだよ。だからみんな、ぜひ正直に話してほしい。もちろん、オキシオのようにスキルに目覚めていないなら、それはそれで正直に話してくれ。そうした方がオキシオもいいだろう?自分だけスキルに目覚めてないと思うとさみしいじゃないか」

「おっしゃる通りでございます」

 たぶんそんなこと思ってないとエリシアは思った。


「ではまずお嬢さん、エリシアと言ったかな?教えてくれ」

「はい、私は【守護霊が見える】スキルがあります」

「それはすごい!我らが称える守護霊様が見えるのか!なんと羨ましい能力か!」

 ユーリィがエリシアを見たが、何も発さなかった。肯定と取ってよいのだろうか…。

「私にはどのような守護霊様がついている?」

 マティスが興味津々にエリシアに尋ねる。

「女性ですね。30代くらいに見えます。背の高い女性です」

「女性か!面白い。てっきり父上がいるかと思ったが、きっとあの人はあの世でも戦争していて、私に付こうなど思っていないのだろうな」

 マティスは楽し気に笑った。

「して、ジュナインと言ったかな?君は?」

 今度はジュナインに話を振る。

「僕は【音を消せる】スキルです」

「【音を消せる】か…」

 あまり興味がないのか、マティスはジュナインから目を背けた。

「それは良い、兵士として羨ましい能力だ」

 そう言ったのはラティスだ。

「やめてくださいよ。僕も戦争に駆り出すつもりですか?」

「そんなつもりで言ったわけではないよ。純粋に羨ましいと思っただけだ」

「僕からしたら、あなたの【ロックオン】とやらも気になります」

「【ロックオン】は相手の急所を見定め、そこに的確に武器を当てるスキルだ。兵士にはもってこいのスキルだろ?」

「【音を消せる】よりずいぶん良いスキルをお持ちじゃないですか」

「まぁ、これはこれで気に入ってはいるがな」

 二人の会話を他所に、マティスはワイトに顔を向けた。ワイトの肩が跳ねあがる。

「ワイトだね、君のスキルはなんだい?」

「え、あ、えっと、【スキルが見える】です」

「おぉ、それも面白い。相手の力を見極めるとは、便利なスキルだ」


 マティスは目を細めた。

「では私のスキルが何か当ててみてくれ、ワイト君」

 ワイトは少し目を泳がせたあと、ちらりとマティスを見た。

「【人殺しの年表が見える】です」

 

 シン、と部屋が静まり返った。


 素晴らしい、とマティスが拍手した。

「その力は本物だな。ユーリィに確認せずともわかる。その通りだよ」

 マティスは自分の目を指さした。

「私にはね、その人が殺した人がわかる。何年に、いつどこで、誰を殺したか見えるんだよ。しかしこんな能力なんの役にも立たない。私が警備兵で殺人事件の調査をする国民であったなら、大活躍だっただろうね」

 おや、とマティスがジュナインに顔を向けた。エリシアもジュナインを見る。顔が真っ青になっている。

「ジュナイン、どうしたの?」

「随分顔色が悪いね。何か嫌なことでも思い出したかい?」

 マティスが微笑みかけると、いや、とジュナインは小さく首を振った。

「そうかしかし残念だったねオキシオ、スキルに目覚めていないのは君だけの様だ」

「そのようですな」

「まぁいづれ君も目覚めるだろう。いや、目覚めずとも君はすでに私の右腕として、誰よりも信頼できる兵士となってくれている。それで十分だ」

 ラティスは興味なさそうに、ため息をついた。


「いやいや、良いものを見た。本当に楽しい夜だ」

 マティスは上機嫌にシャンパンを飲み干した。





 それから会話と食事は進んだが、マティス以外、皆ほとんど料理を口にしなかった。食べても味がわからなかった。何もかも美味しく感じなかった。

 マティスがふと、外を見る。外は真っ暗になっていた。

「これは申し訳ない。話が楽しくてつい長引かせてしまった。同士よ、今日は私とユーリィの祝賀会に来てくれてありがとう。私とユーリィはもう休むから、同士も家に帰りなさい。それぞれが安全に帰れるように兵士をつけよう」

 エリシアはホッと胸を撫でおろした。息の詰まる祝賀会がやっと終わる。

 マティスとユーリィは立ち上がる。

「もし」

 マティスの声が部屋に響く。

「もし大事な人が殺されたら、私に頼ると良い。同士には特別に私のスキルを行使しよう」

 そう言い残し、女中と共に二人は部屋から出て行った。




 残されたオキシオ、ラティスも軽く挨拶をかわし、早々に部屋を出て行った。エリシア達はドレスアップした部屋に戻り、私服に着替え、兵士に連れられ城を跡にした。

「なんかすっっっごく疲れたね」

「同感」

 エリシアとジュナインの会話に、ワイトも頷いた。

「でも、僕は嬉しかったよ」

 ワイトの言葉を聞き、二人は彼を見る。

「同じ境遇の人の話を聞けて。僕一人が変だったわけじゃないんだって…あ、いや!二人が変って思ってるわけじゃなくて!どういえばいいんだろ…」

「陛下の言葉を借りるなら、これが同士ってことじゃないかな?」

 ジュナインがいうと、ワイトは嬉しそうに頷いた。


 あの、とワイトが小さな声で言う。

「もし、二人が良ければ、ま、また、会いたいな…僕は、話がうまくないから、何も話せないかもしれない、けど、二人の話を聞いていたい」

 エリシアとジュナインは顔を見合わせ、クスリと笑った。

「聞くだけならいくらでも聞いていいけど、面白い話なんてないわよ」

「い、いいんだ。一緒にいるだけで、きっと、楽しいと思う」

「わかった。ワイトの家族が経営している酒屋に行くよ、どこにあるか教えてくれるかい?」

「もちろんだよ!」

 ワイトは目を輝かせていた。





 約束を交わしたワイトと先に別れ、しばらくしてジュナインの家につく。

「兵士さんが一緒でも、暗くて危ないから気を付けて帰るんだよ、エリシア」

「うん、でも今夜は眠れそうにないや」

「俺も」

「ねぇ、明日また来て言い?」

 愚痴が山ほどあるの!と言わんばかりに、エリシアは顔をしかめている。ジュナインは笑った。

「わかった、また明日」

「うん、また明日!」

 二人は、そういって手を振って別れた。




 ジュナインの帰宅に両親は安堵した。無事に帰った。良かったと何度も繰り返した。大袈裟だよとジュナインは苦笑する。

 心配で疲れて切っていた両親は、少しジュナインと話した後、寝室に向かった。ジュナインは一人、作業部屋に戻り、ランプに火をつけた。

「あ」とジュナインは声を上げる。テーブルには、食べかけのリンゴパイが残っていた。

「せめて片付けといてくれよ…」

 ため息をつきながら、リンゴパイをひと切れ持ち上げ食べる。

「旨い」

 今日食べてきた晩餐なんかより、ずっと美味しい。


 食べながら、今日のことを思い出す。マティスのスキルについて…。

「俺は、どう見えたんだろう…」


 10歳の頃に起こった落石事件。自分はかろうじて助かったが、母を除いて、父親と商人は皆死んだ。そして、母親の虐待に苦しめられていたジュナインは、動けない母親の頭を石で砕いて殺したのだ。

 あの時は何の感情も抱かなかったが、オキシオの家に引き取られ、色んなことを学ぶにつれわかった。自分がどんな愚かしいことをしたのかを…。

 虐待をしていた母親を許すつもりはない。しかしそれを裁くのは自分ではなかった。自分は母親よりも重い罪を背負ったことに気が付く。あんな母親でも、慕っている商人がいるのは知っていた。どんな人でも、勝手に誰かが殺していい命などない。母親も、父親も…商人たちも…!

 あの落石の日、本当はもっと早く出立する予定だったが、ジュナインが任された交渉が遅れ、予定より遅く出立したのだ。もしあの日、自分がちゃんと順序良くやっていれば、落石に遭うことはなかった…みんな、今も生きていた。


 ジュナインは再びリンゴパイを嚙み締めた。もしオキシオの家に引き取られることがなければ、このリンゴパイの美味しさにも気づかなかっただろう。

「美味しいよ、ありがとうエリシア」



 ジュナインは、背後から近づく人影に気づいていない。









 翌日、朝の仕事を済ませ、エリシアは早々に町に下りた。ジュナインに会うためだ。

 昨夜は意外とよく眠れた。相当疲れていたのだろう。おかげで目覚めはとても良かった。早く昨日の話がしたいと、エリシアは足早だった。


 ジュナインの家に近づくと、その周辺を人々が囲っているのが分かった。その中に、石窯を貸してくれたおばさんを見つける。

「おはようございます。おばさん、どうしたんですか?」

「あ、エリシアちゃん…」

 おばさんの顔は真っ青だ。

「おばさん大丈夫?いったい…」

 何が、と聞こうとしたとき、兵士たちが走り寄ってきた。

「みな下がれ!この場を調査する!」

 命令通り兵士から距離をとりながら、エリシアはおばさんに尋ねる。

「この場って…もしかしてジュナインの家?おばさん!何があったの?」

 おばさんは口をつぐみ、涙をこらえながらエリシアを抱きしめた。

「どうして守護霊様はこんな惨いことをお許しになったの…」

「おばさん?」

 おばさんはエリシアを離し、彼女の肩を持つ。


「エリシアちゃん、落ち着いて聞いてね…今朝、ジュナイン君が、亡くなっていたの」



「…へ?」

「ご両親が作業部屋を見に行ったら、血を流して倒れていて…すでに亡くなっていたそうよ」

「うそ」

 おばさんはうつむく。エリシアの顔を見ていられない。

 エリシアは呆然と、ジュナインの家を見る。

 無意識に、走り出していた。

 止めるおばさんの声は届かない。

 兵士をかき分け、無理やり家に入り、作業部屋に飛び込んだ。


 中では、横たわるジュナインの脇で、両親が泣いていた。物音に気が付いた両親が顔を上げ、エリシアを見る。

「エリシアちゃん…」

 その声も聞こえない。エリシアはゆっくりとジュナインに近づいた。

「ねぇ…うそでしょ、起きてよ、なにも聞こえないよ…ジュナイン、スキル使ってるんでしょ、冗談止めてよ」

 エリシアは彼の前に膝をつく。大粒の涙が床に落ちる。

「なんで、どうして、ちょっと前まで、話してたじゃない、明日も会おうねって」

 息をせず、眠るジュナインは、何も返さない。

「ねぇ、聞こえないよ、なんて言ってるの?スキル解いて、ちゃんと話してよ」



「何もっ……聞こえないよ……」



 エリシアは、声を上げて泣いた。

 

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