2021年度・九州大学文藝部・追い出し号

九大文芸部

ねえねえ 作:杏埜雲

げんかんにタンポポのかざりがあった。ぼくはお母さんに聞いた。

「ねえねえ、タンポポ前からあったっけ」

お母さんはおさらをあらっていたが、やさしく答えてくれた。

「きのうかざったの」

ぼくは、そうだったのかと思った。


ごみばこにプリンのからがあった。ぼくはお母さんに聞いた。

「ねえねえ、プリンいつ食べたっけ」

お母さんはおさらをふいていたが、やさしく答えてくれた。

「おととい食べたね」

ぼくは、そうだったのかと思った。


かけ時計がいつもとちがった。ぼくはお母さんに聞いた。

「ねえねえ、時計あんなんだったっけ」

お母さんはせんたくものをもっていたが、やさしく答えてくれた。

「こわれたからかえたの」

ぼくは、そうだったのかと思った。


トムジェリのDVDがなかった。ぼくはお母さんに聞いた。

「ねえねえ、トムジェリどこにあるっけ」

お母さんはアイロンを当てていたが、やさしく教えてくれた。

「さい近見ないからしまったの」

ぼくは、そうだったのかと思った。


しゅくだいがむずかしかった。ぼくはお母さんに聞いた。

「ねえねえ、8かける7どうすればいいの」

お母さんは掃除をしていたが、やさしく答えてくれた。

「がんばって九九をおぼえようね」

ぼくはまだ九九がおぼえられない。


ぼくは新しい時計を見て、お母さんに聞いた。

「ねえねえ、お父さんいつ帰ってくるっけ」

お母さんは夕食を作っていたが、やさしく教えてくれた。

「少し遅くなるみたい」

ぼくは、お父さんとあそびたかった。


ぼくはゆりかごの中をのぞきこみ言った。

「ねえねえ、この赤ちゃんどうしたの」

お母さんはりょう理していたけど、教えてくれた。

「ケンくんの弟ね」

赤ちゃんはすやすやと眠っていた。


ぼくは、ふ思ぎに思った。

「ねえねえ、ぼくは?」

お母さんはやさしく教えてくれた。

「きょ年、ケンくんは・・・」

お母さんのほっぺたになみだがつたっていた。

ぼくは、そうだったのかと思った。

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