ホオズキ___後編

@cakucaku

第1話 

 数ヶ月後。


 アイビーは施設を訪れていた。


「すっかり顔色よくなったな!」


 蓮は以前の姿に戻っていた。


「アイビーのおかげだよ。ここに来て穏やかに過ごせてる」


「よかった」


「まだ辛いけど、アイビーがこうして来てくれるから頑張れるよ」


「うん」


「最近そっちはどうなの?」


「新しい仕事見つけた。柴さんの紹介だけどな」


「柴さんも一緒に働いてるの?」


「ううん、柴さんこれからはゆっくりして過ごすって」


「そっか。どんな仕事?」


「探偵だよ。自分にはそれしか出来ないから」


「アイビーは向いてると思うよ!新しいとこでも頑張ってね」


「おぅ。蓮はここを出たらどうするつもり?」


「まだそこまでは考えてないよ」


「蓮がよかったらまた一緒に働かないか?柴さんに言ってもらうからさ」


「アイビーが一緒なら俺も安心して働けるよ」


「待ってるから」


 アイビーは時々蓮に会いに来ては、近況を報告していた。


「いつも来てくれてありがとう」


「自分が来たくて来てるだけだし」


 そう言って笑うアイビー。


「そうだ、最近ボランティアの人たちが来て、社会復帰できるように交流する機会があるんだ」


「そうなんだ、どんな感じなんだ?」


「色んな人がいて、中には俺と同じくらいの子とかといたなぁ」


「知らない人と喋るのも対人関係を築く練習になるからな」


「今日も昼からあるんだ、何も問題を起こさなかったら、交流出来る回数が増えていくらしい」


「早く出てこれるといいな」


「気長にいくよ、焦ってもいい事なんてないから」


「大人になったな」


「色々経験したからね」


「じゃあそろそろ行くわ!またな!」


 そう言って帰るアイビーの背中を窓から見つめる蓮。


 お昼ご飯を済ませ、ホールに向かう。


「こんにちは」


 ボランティアの人たちが来ていた。基本誰と話をしてもいい為、みんなそれぞれ雑談を始めている。


「隣、座っていいですか?」


 そう言って来たのは蓮と同じくらいの女の子だった。


「あっはい」


 蓮は久しぶりの女の子に緊張していた。


「初めまして、あんずって言います。お名前伺ってもいいですか?」


「蓮って言います」


「蓮君ですね、多分私と同じくらいですかね?」


「俺は17です」


「私が19だから、私の方がお姉さんですね」


 そう言うとあんずは笑った。


 (なんて、可愛い人なんだろ)


 蓮は一目であんずの事を気に入った。


「あの、ボランティアはいつからやってるんですか?」


「1年ほど前からしてますよ。あっタメ口でいいですか?蓮君も敬語はやめましょう?」


「はい、あっ、うん」

 

「私堅苦しいのは好きじゃないから」


 ニコニコしているあんずに蓮はつい見惚れてしまっていた。


「なにか顔についてる?」


 あんずが聞いた。


「えっいやなんでもない」


「蓮君はいつからここにいるの?」


「もうすぐで半年かな」


「ここの生活にはもう慣れた頃だね。でも退屈じゃない?」


「今は毎日感謝して生活してる」


「そうなんだ、また来るから喋ろうね!」


 あんずはそう言うと他の人の所に行ってしまった。


「うん」


 遠目にあんずの事を見ている蓮。あんずは誰とでも喋れるような明るい子だ。それからというもの蓮はあんずとよく話をするようになっていた。


 気付けばあんずと出会って半年が過ぎようとしていた。


「あんずさん、俺、来月ここを出る事になったんだ」


「そうなの?」


「今まで話し相手になってくれてありがとう。同世代はあんずさんしかいなかったから会えてよかったよ」


「寂しいな‥‥」


 あんずは悲しそうな表情をしている。


「そんな事言わないでよ、俺だって寂しいんだから」


「ねぇ‥‥よかったらここを出た後も会わない?」


「えっ?」


 蓮は予想外の事にビックリしていた。


「ダメかな?」


「ダメっていうか、俺は嬉しいけど‥‥あんずさんは嫌じゃないの?」


「なんで?」


「俺なんかしょうもないやつだよ」


「そんな事ないよ、蓮君は素敵だよ。だから、ね?」


 蓮は少し考えて答えた。


「わかった」

 

「ありがとう!今まで出来なかった事いっぱいしようね!」


 そう言って微笑むあんず。


「うん!」


 蓮の顔からも笑みが溢れる。


 

 翌日アイビーが蓮に会いに来ていた。


「俺、来月出る事になったから」


「そっか。おめでとう」


「アイビーには感謝してるよ、こんな俺の事見放さなかったんだから」


「当たり前だろ。その日は迎えに来るから、その足でうち来いよ」


「その日は約束があるから、迎えだけで大丈夫だよ」


「約束?」


「実は、ボランティアに来てた子と仲良くなって、ここを出た後も会う事になったんだ」


「そぅ」


 アイビーは少しがっかりしたような顔をした。


「どうしたの?」


「いや、蓮の好きなようにするのが一番だからな!」


 作り笑いを浮かべるアイビー。


「それでさ、アイビーの服貸してくれない?俺こんなんしか持ってないからさ」


「分かった。時間とか聞いて帰るから、またな!」


「うん、よろしくね!」


 アイビーは施設の人に迎えの時間を聞いて、帰って行った。


 

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