Sweet 16
2月14日のお話。真幸(17)、博人(16)
バレンタインは結構しんどい。
手渡ししてくれる子には、出来るだけクラスと名前を聞くようにしているが、恥ずかしがって答えてくれないこともあって、お返しが出来ない。
それはまだいい方で、下駄箱に入ってるものはカードも何もない場合も多い。
そもそも、誰がチョコを下駄箱にいれ始めたんだ。衛生的に問題あるだろ。
「真幸、モテモテだね」
博人は半分呆れながら、チョコを限界まで詰め込んだ紙袋を手に横を歩いている。
「おまえの方が多いだろ。ちゃんと誰からもらったか把握してんのか?」
「大体はね。俺は全部義理だけど、真幸のは本気のもあるんじゃないの?」
どうすんの? と目を吊り上げているけど、どうもこうもあるか。
「断ったに決まってんだろ」
受け取れないと返したものもあれば、それでもいいから受け取ってほしいと言う子もいた。
断るのにもパワーを使うから、精神的に結構クるものがある。
「真幸は適当にあしらうことが出来ないからね。ま、それがモテる要因なのかもしれないけど」
横目に博人を見る。通った鼻筋と口元から顎までのラインがきれいで、色白も手伝って人形のようだ。
俺が女だったら、博人の方がいいけどな。それとも、整い過ぎてると横に並ぶのは躊躇するのかな。
「どうしたの?」
「いや…。コロッケ買ってかえろうぜ」
商店街の肉屋に立ち寄ると、お店のおばちゃんにバレンタインだからとコロッケを兄弟分4個おまけしてくれた。甘いものが苦手な俺は、チョコよりこっちの方が何倍も嬉しい。
「お返しって、何をするん?」
潤一も同じピアノ教室に通う女の子達からチョコを貰ってきていた。老齢のピアノの先生からも貰っていたからお返ししないと、と言ったのだ。
「真幸が焼いたクッキーを、ホワイトデーに渡すんだよ」
「まーくん、お菓子つくれるん!?」
潤一が驚く顔がおもしろくて、つい赤いほっぺたを摘まんだ。ぷくぷくとして子供らしくなった潤一は、素直で大人しいから意外と年上の女の子に可愛がられているようだ。この顔立ちだと、なかなかの美少年になりそうだな。
「その前に、ホワイトデーを知ってんのか?」
「知らん。なに?」
笑う俺らの横で、好彦は博人が貰ってきたチョコを物色している。
好彦も、そこそこ貰ってきてるから結構な量のチョコが山積みになっている。
「しばらくは、おやつはチョコだな。いつもの2倍の時間、歯を磨けよ」
「よしくんは食べ過ぎると鼻血を出すから、一日二個までね」
えー、と不満そうだが、既に高級そうなやつを手にしている。ホント、舌が肥えてるな。
夜、部屋でお返し用のリストを作っていると博人が上から覆いかぶさってきた。
「結構いるね」
「ああ。おまえが貰ったやつ、ほとんど名前が入ってたぞ」
添えられたカードにクラスと名前が書かれていた。俺が貰ったのには3分の1くらいか。
「去年、お返ししたクッキーの評判が良かったから、それ狙いだよ」
だから義理チョコだって言ったでしょ、と耳元で笑う。
そして、目の前に小さな紙袋が差し出された。
「ん? なんだ?」
「俺から真幸に」
二人でベッドに移動して、封を開けると、まん丸のラムネ。
「懐かしいな」
「これなら真幸も食べられるでしょ」
キレイな包装紙を見ると、ただの駄菓子じゃなさそうだ。博人のことだから、きっとどこかのお取り寄せなんだろうな。
白くて丸いラムネを口に放り込むと、シュワッと弾けて甘酸っぱい味が口いっぱいに広がった。
「うまいな、これ」
当然、というように笑う博人の口元にピンクのラムネを持っていくと形の良い唇が開いて、ぱくりと食べる。
「いい味」
博人も満足そうだ。
「もったいないから、一日一個ずつ食べるよ」
「よしくん達に見つからないようにね」
それから、顔が近づいて唇同士が触れた。舌が絡まると、互いの甘酸っぱい味が広がって、懐かしいようなうずうずするような感覚に、自然と腰を引き寄せていた。
End
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