第16話
場所は博人が決めた。
当然、ラブホは初めてなので、物珍しくてうろうろと部屋中を歩いてみた。
「あ、バスルームがガラス張り。丸見えじゃねぇか」
「どうせ一緒に入るんだから関係なくない?」
それもそうか。
バッグを置くと同時に手を引かれてバスルームへ移動。一緒に入るのは2年前の夏以来だ。
「結局、あれっきり機会はなかったもんね」
去年の夏は好彦たちも鎌倉へは行かないと言って、両親だけが墓参りと家の手入れのために鎌倉に行った。
それはそれで楽しかったけれど、二人だけの時間はなかなか取れずにいた。
いつもなら、ふたりの時間がないと不平を言いそうなものなのに、この一年、博人は文句ひとつ言わなかった。
俺の受験勉強が佳境に入ったときには、潤一の面倒も見てくれたし、中学生になった好彦にも言い聞かせていろいろ手伝わせた。
「ん? なに?」
俺の身体を丁寧に洗いながら小首を傾げている。
「いや…」
今日も全部自分がする、と博人は宣言していた。
俺の身体がどれほどの価値があるのかなんて分からないけど、おまえが欲しいと言うならなんでもやるよ。
博人の手を取り、挟間へと導く。驚いた博人の手が動きを止めた。
「え…真幸…いいの?」
触っていいの? とぱちぱちと瞬きをする。
「そのために来たんだろ?」
それは、想像を絶する感覚だった。
身体が引き裂かれる、と思ったとき、博人の唇が口元、頬、耳元に触れてきた。
力が抜けた瞬間をついて、ずるりと入り込んできた大きなものが身体の奥を満たした。未知の感覚に、頭がくらくらする。
「真幸…」
博人の少し掠れた声に、無意識に閉じていた目を開くと、熱を孕んだ目が俺を見ていた。慣れた博人の手が、胸元から腰を辿る。
苦しい。でも、違和感はすごいけど、耐えられないほどじゃない。詰めていた息を吐くと、満ち足りた顔をしている博人の視線を感じて、思わず笑みが漏れた。
つられたのか博人の表情も柔らかくなった。
「ひとつになったね…」
「ああ…」
奥から感じる鼓動が、もうどちらのものか分からない。これが混じり合うってことなのか。苦しくて痛くて、でも温かくて気持ちいい。
身体をぴたりと重ねて、何度もキスを繰り返す。
眼尻を博人の舌が這って、初めて自分が涙を浮かべていることに気付いた。
すべて後始末をしてもらった後、ベッドに転がっていると博人が身体に負担をかけない程度に抱きしめてきた。
「痛くない?」
「ん。…やっぱ、自分でやるのと違うな」
「……自分でしてたの?」
博人の顔がぐっと近づいた。
「いきなりは無理かと思って、少しずつ慣れ…んっ」
噛みつくようなキスに言葉が遮られた。不意打ちに息が継げずに博人の肩を叩く。
離れたかと思ったら、すごい力で抱きしめられた。
「もう、早く言ってよ。手伝ったのに」
「言えるか!」
もがくと、ますます拘束する力が増す。諦めて、大人しく腕の中に収まると手が腰に優しく触れた。
「でも、ほんとに大丈夫?」
心配しているのはホントらしい。
「へーきだ。丁寧にしてくれたから。……やけに優しかったな、おまえ」
「そりゃ、そうだよ。またシたいって思ってもらわないといけないんだから」
そういうとこ、ホント敵わないなって思うよ。
「でも…離れてるあいだ、辛いかも」
もう残された時間が少ないことを思い出したのか、きゅっと眉を寄せている。でも、それはお互いさまだ。
髪に触れると、子犬のように頭を擦りつけてきて、胸がぎゅっとなった。
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