7杯目~宴の夜の出来事~

~前杯までのあらすじ~

再びノンダ・クレの町を訪れた勇者ハング・オーバーマン。

無事に到着したのもつかの間、彼が目にしたのは、自分に対して殺意むき出しの怒れる町人たちと、半壊し見るも無残な状態になってしまった町の姿だった…。

怒れる町人を説得する上で、戦闘は避けられないと思いハングは剣を抜くが、なぜか身体に力が入らない。

そんなハングを町人たちは容赦なく痛めつける。その時1人の少女がハングの元に駆け寄ってきた。

果たして少女は正体は!?そして彼の運命は…!?



絶対絶命のハングの前にひとりの少女が駆け寄ってきた。


「皆さん、どうかお願いいたします!彼と話をさせてくださいませ~っ!!プリーズウェェェェェイトですわぁああああああッ!!!」


ボロボロになったハングの前に現れたのは、あの晩の宴以降行方不明になって

いた仲間のひとり『ノンノ・ベーカー』だった。


「よ、よかった…無事だったんだね…!ノンノ、これは一体どういうことなんだい?僕たちが町を無茶苦茶にしたって、その、町の皆さんスゴくお怒りの様子なんですけど……」


ハングはノンノにたずねると、彼女はあの宴の夜のことについて語りだした…。


「実はワタクシもあの夜のこと、あまりよく覚えてないんですの。なのでこれからお話することは、町の人たちから聞いたこと、ワタクシの身に起こった不幸についてですわ…。まずあの晩のことですが、ワタクシたちが宴会で魔王殺しを飲んだあと、その…、突然ですね、お、大暴れをして、ノンダ・クレの町を無茶苦茶にしてしまったそうなんです……」


「僕たちが町の人たちに危害を!?そんな…。あ・あ・あ・あ・あ・あ・あっ!僕はなんて取り返しのつかないことをしてしまったんだ……。僕は勇者、勇者失格だぁぁあああぁああっ!!!!!!!」


ハングは激しく動揺しながら取り乱し、自らを責めはじめる。


「あっ!でも安心してくださいませハング!!確かにケガ人こそ沢山出ましたが、幸い死人は出ておりませんわよ!まぁでもこのとおり町は、この有り様ですがアハハ…」


「よかった~。もし町の人たちをひとりでも殺めてしまっていたとしたら、勇者としてもう完全に終わりだったよ。先代の勇者さま達にも申しわけが……って!例え死人が出ていなかったとしても、この状況大変よろしくないよね!!」


「…話を戻しますわね。その、ワタクシに『まったく記憶がないの』で、本当なのかどうかワカラナイのですが、え~、何と言うかですね~。ワタクシが特にひどく大暴れしていたみたいで……。もう神の奇跡の力を使って大暴れ!!『聖女大無双状態』だったそうです!そして目を覚ましたらまぁビックリ!なんと檻の中でしたわ!!てへぺろ☆」


ノンノは顔を赤らめながら可愛いらしく舌を出して笑ってみせた。


「いやいやいや!『てへぺろっ☆』じゃないよ!可愛く言っても許されないから!

ちゃんと反省してるのかい!?……アッ!そうだ!ヨーイツは!?マーダさんは無事なのかい!?」


「ヨーイツの行方は分かってませんの…。彼のことが心配で、ワタクシ、ワタクシ…っ!『食事も1日3食しか喉を通りません!もう夜しか眠れてませんわ!!』」


(…本当に心配してるのかな?これはツッこむべきだろうか?いや、話がめんどくさくなりそうだしやめておこう…)


「そしてマーダさんなんですが、ワタクシが町を無茶苦茶にした責任を取らされそうになった時、ボロボロになった姿で現れて、こう叫ばれたんですの」


「みんな落ちついてくれ!保護者的立場の私が力及ばず、彼らの暴挙を止められなかったことが、そもそもの原因だあっ!!ここは『聖シュゴール王国騎士団副団長マーダ・ノメール』の名に免じて、どうか彼らを許してくれないだろうか!!この通りだあッ!!!」


「マーダさんのこの言葉に皆さん落ちつきを取り戻されました。多分ですが、マーダさんがいなければきっとワタクシ、この町の男の人たちに、とても口では言えないような辱しめをお…ッ!ハレンチ極まりない恥辱の限りをこの身にうけ…ッ!!…もうお嫁にいけない体にされていたことでしょうね……ッ!そしてペット兼オモチャとして、これからも、これからもずっと、性欲のはけ口としてエンドレスで………アアアアアア!考えただけで、考えただけでもう…、恐ろし過ぎて夜しか眠れなくなってしまいますわああああああああんッ!!!!!」


「ノンノ、ちょっと落ちつきなって…。流石かにそれはちょっと考え過ぎじゃないかな?」


「『落ちつけ』ですって!?『考え過ぎ』ですって!?あの時のワタクシは、本当に、ほんっっっとう〜に怖かったんですのよっ!想像出来ますか!?怒れる屈強な男たちに迫られて、このベリーキュートなお顔が恐怖に歪んでいく様を…。この千カラットのラブリーお目目だってもう、うるうるのキラキラだったんですわよ!いいですかハング『軽く小突かれただけで壊れてしまいそうなくらい儚い存在』それがワタクシ、ノンノ・ベエーカーなんですわよ…。ドゥーユーアンダースタンド?」


(なんだろう、スゴくイラッとする…)


ノンノの口から容赦なく飛び出す暴言(?)の数々に、黙って聞いていた町の男たちも激しく動揺しはじめる…。


「お、おい!ちょっ、ちょっと待ってくれよ!さっきから黙って聞いてればよ~。随分と人聞きの悪いことばかり、言いたい放題に言ってくれやがって!!」


「なぁ、落ちついてくれよお嬢ちゃん!仮に本当に魔王の手先だったとしても、そんな外道な真似はしねェーよ!!」


「そうだ!そうだ!了承なしでそんな野蛮な行為に及ぶほど、俺たち落ちぶれちゃいないぜえッ!!」


「お、俺は今も昔もずっと嫁さんひとすじだからよ~!頼むから誤解をうけるような変なことは言わないでくれっ!!只でさえウチの嫁さん、嫉妬深くて超おっかないのに……って!ほら見ろ〜っ!お嬢ちゃんが変なこと言うもんだからよ…『鬼のような怖い顔』して、…俺のことずっと睨んでるぅぅぅぅぅッ!!」


「……おうっ!もうこれくらいで勘弁してやろうぜ!あの女騎士さんが、復興資金の方はなんとかしてくれるみたいだしよ!俺たちも一刻も早く、元のノンダ・クレの町戻せるようにガンバらねェ~とな!作業に戻るぞ~!!」


そう言って町の男たちは、ハングのもとを離れていく。


「た、助かった…。ありがとうノンノ」


ハングは力なくその場に座り込んだ。


「ハング、ワタクシたちいったい、これからどうすれば良いのでしょうか?」


「とりあえずヨーイツとマーダさんを探さないとね。魔王ワルヨイ・カラムに勝つためにも…!ノンノ、さっそく旅支度を!危険な旅には、君の奇跡の力が大きな助けになるからね!これからも頼りにしてるよ!!」


しかしハングのこの言葉対し、ノンノは意外な言葉を返す。


「ハング、ごめんなさい。ワタクシはあなたの旅に同行出来ませんわ」


「えっ!?どうしてだいノンノ!?みんなのことが心配じゃないのかい?世界の平和だってかかっているのに!聖女ノンノ・ベエーカーの力が、どうしても必要なんだよ!!」


「違うんです!『今のワタクシ』は…もう『今までのワタクシ』とは違うんですわ!!」


「えっ!?どういうことだい!?」


「ハングは、今のワタクシに何か違和感を感じませんか?」


(…?違和感だって??いや、違和感ならしょっちゅう感じてるけど…。主にそのぶっ飛んだ言動や態度に…。まぁ言わないけどさ)


「いつもワタクシ『聖女○○ですわ!』とキュートな口癖を言ってますわよね…」


「あっ!あれか~。確か『自分みたいなおとなしめの清楚系美少女キャラでは、ちょっといまひとつパンチが足りないから、聖女としてのアイデンティティーを確立したいから』とかいう変な理由で、旅の途中から急に言いはじめたよね。それがどうかしたのかい?」


「使ってませんよね今、これが何を意味するのかお分かりですか?」


「いや、全然わからないけど…」


「この鈍感んっ!そんな乙女の気持ちを全く持って理解出来ない可哀想なハングのために、お答えしましょう!それはワタクシが聖女ではなく『ただの女』になってしまったからですうわあああああ〜〜〜んッ!!」


「アイエエエ!?セイジョジャナイ!?セイジョジャナイナンデ!?」


衝撃のあまりちょっと変な喋り方になってしまうハング。


「うぇ~~~~ん!ヒック、ヒック……ですわ~」


「泣かないでよノンノ、まずは詳しくワケを聞かせて…」


「ワタクシが神界にアクセスし、そこに住まう神々たちとの交流を通し親睦を深め、

相互フォロー状態になった神の偉大なる力を御借りし、様々な奇跡を起こしていると以前にもお話しましたよね?まぁつまり、『神々のフォロワー』が多いほどワタクシは強くなるんですの」


「うん、詳しく解説されてもイマイチよくわからなかったけど、なんとなくわかったつもりになって聞いていたと思うよ。それで?」


「…フォローを外されました。しかも追撃でブロックまで…。『アイツら』この聖女であるワタクシを『フォロー解除&ブロック』したんですのよぉぉぉッ!そしてトドメの一撃ぃッ!と言わんばかりに、神界にまでアクセス不能に……。もう、信じられまんわ!!そ、そりゃ~今回の件はぁっ…、い、色々とやらかしてしまったと思いますわよ……で、でもそれにしたってですよぉっ!この仕打ちはあんまりですわあああああああッ!!!」

 

「いやいや!さんざんお世話になってきた神様たちを『アイツら』呼ばわりするなんてさ(汗)そういうところだと思うよノンノ…」


「そんな神々の無慈悲な仕打ちに対し、普段絶対に怒らないワタクシも、さすがにドタマにキテしまい……」


「えっ!?まだ続きがあるの!?」


「続きがありますの!先ほど『少々』非合法で強引な手段を用いて、神界に無理矢理アクセスしてやりましたわ!そしたら神界の掲示板に『神使いが荒い』だの『ダメダメ聖女(笑)様』だの『あの寒い口癖が超イラつく』だの『ワガママ過ぎてムカつくからぶん殴りたい』だの『もう付き合いきれない。マジで勘弁して~(涙)』だの、

誹謗中傷の書き込みの数々…!!もう泣きそうですわあああああ~~~ん!!!」


「いや、もうさっきからずっと泣いてるじゃん……」


「泣いてません!これは…ええっと……『お聖水』ですわ〜!!」


(どう言う強がりだよ…ってか一番最後のは誹謗中傷じゃないと思うけどね…。でもこれは、相当神様たちからヘイトを買ってたな……)


「それでワタクシ、決心しましたの!!今からまた『徳』をつんで元の聖女に戻ってみせると!幸いワタクシのことブロックしてるだけで、相互フォロー状態だけはしっかりとキープしてくださっている神たちも、まだ数神(すうしん)おりますの!まず手始めに、その神たちからの信頼を取り戻しますわよ!ワンチャン、ワンチャンありますわ~~~♪DA・KA・RA、今はこうして健気に町の復興作業のアレやコレやをですね『聖女が如く』懸命にお手伝いしていますのよおおおおおッ!!!」


(聖女が如く…?)


「…そうだったんだね。じゃあヨーイツとマーダさんのことは僕に任せてよ!そしてなくなった伝説装備もすべて回収して、この町を無事復興したら、今度こそみんなで魔王をやっつけようね!!」


「ちょっと『なくなった伝説装備もすべて回収』ですって?リピートアフターミー、ハング、もしかしてアナタ……苦労して手に入れた伝説装備をすべてなくしてしまったというの!?ってか今気がづきましたわ!なんですのその貧弱な装備はあっ!?そんな装備で大丈夫ですのおおおッ!?」


ノンノは怖い顔しながらハングに詰め寄る。


「ご、ごめんよノンノ。僕もあの夜ことまったく覚えてなくてさ…。しかも何か

身体の調子もオカシイし……」


「言い訳はよして!耳が腐りますわあっ!!」


「ひ、ヒドイよ~ノンノ。そんな言い方はないだろ?…自分だって意識なくして、町で大暴れしたクセにさ(小声)」


「何か、…言いましたか……?」


「何も言ってません……」


(昔から自分に否定的な言葉に対してだけは、やたら地獄耳なんだよなノンノは…)


「あら?そんなことありませんわよ♪ねぇ~、ハング……?」


「!?」


こうして無事仲間のひとりと再会を果たした勇者ハング・オーバーマンは、残りの行方不明の仲間2人と消えた伝説装備の捜索を開始するのであった…。

果たしてこの波乱に満ちた旅の行方は!?そして世界の運命は!?(つづく)




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