Double Head Dual Wield
あんころまっくす
1
森の外で馬を休め、火を焚いて腰を下ろす。
荷の中から燻製肉を取り出して炙り、やや硬くなったパンと共に薄めた葡萄酒で流し込んだ。
「そろそろ出てきてはどうだね」
複数人につけられているのは分かっている。恐らくは私の持つ親書を追っているのだろう。
荒事になれば多対一かもしれないが私は職業騎士、並みの戦士とはレベルが違う。この誘いには乗ってこないかもしれないな。
そう思っていた。
束の間を置いて、焚火を挟むようにふたりの人間が姿を現した。似たような背格好、同じ髪色の男女。目元口元も似通っている。
「十一年前、二刀流の騎士を屠った覚えはありますか」
女が問うた。
騎士と言えば盾と剣、あるいは槍が主流だが、二刀流の騎士も珍しいというほどではない。
十一年前と言えば世はまだ戦乱の真っ只中だった。何人か斬った覚えがないでもない。
「ああ、幾人かは」
私の答えを聞いて男が右腕を、女が左腕をそれぞれ差し出す。
「そのいずれかの子らの腕を落とした覚えはあるか」
男が問うた。
前腕半ばから失われたその二本を目の当たりにしてようやく思い出す。
「ああ、ああ。あのときの子らか」
一騎打ちを挑んできた二刀の騎士の両腕と首を落とし、そのあと挑んできた年端も行かぬ子らに、命までは取らぬとそれぞれの右腕左腕を落としたのだったか。
「ままならぬその身で修練を積み、父の仇討ちに来たわけだ。任務中の身とはいえ、そのような事情であれば受けぬわけにはいくまいな」
私はゆっくりと立ち上がって焚火を避けるようにふたりと相対し剣を抜く。
「二対一で構わないぞ。勝負になるほどの腕前なら良いのだが」
ふたりは目配せひとつもせずにそれぞれが剣を抜く。なかなかサマになっているようだが、それにしても立ち位置が近い。いや、これは……。
「それじゃ遠慮なく」
「参ります。お覚悟を」
男と女が口々に言い、それぞれの失われた腕を組み駆け足で間合いを詰めてきた。まさかそのまま戦うつもりなのか?
こちらはそれなりの覚悟と礼を持って相対したつもりなのだが、仇討ち気分のままごとに付き合わされるとは。まあ……彼らの命は彼らのものだ。好きにさせておこう。
ギリギリまで引き付けると剣を内へ構えながら右前の半身に踏み込んで距離を潰し、女の側から胴を横薙ぎに払った。
間合いの狂った女の剣はもう私の剣閃には間に合わない。男の剣も打点がズレて腰抜けの一撃だ。肩当で十分受けられる。
あっけない終わりだった。
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