第18話「弟子たちとダンジョンへ」
後日、ベルナールはバスティたちと共にダンジョンに潜り、久しぶりにその感触を楽しんだ。
さほどの魔物は現われず。時折出現するB級程度はバスティのパーティーが難なく倒す。
ベルナールは時折アドバイスをする程度だ。戦ぶりを見ながら新階層では彼らと共にどう戦おうか、などと考えていた。
そしてある日の朝、ベルナールと弟子たちの三人はダンジョンの入り口へと立つ。
今日は休日なのか鉱山労働者の姿は見えなかった。
「よう、本当に来たのか?」
遠くから三人を見咎めたマークスはわざわざ走って来た。
弟子の二人はダンジョン入り口を目の前に、緊張して棒立ちになっている。
「ああ、今日の様子はどうだ?」
強力な魔物が何体も現れている激戦日なら、引き返すつもりのベルナールは尋ねる。
「平和なもんだよ。朝から十以上のパーティーが潜って行ったが、半数が大した獲物もいないって戻って来た」
魔物の出現、発生にはムラがあるのだ。
「最近はこんな日ばかりさ」
「なら俺たちでも行けるか……」
「気をつけな。まっ、おまえさんがいれば大丈夫だけどな。いらん心配だが」
「行ってくるよ」
「ああ、戦果を期待しているぜ」
「ああ」
ベルナールはそう言って笑う。マークスの言葉は嫌みではない。
経験を積ませるため、駆け出しの若い冒険者たちを連れて潜る、色々な意味での戦果なのだ。
ベルナールは弟子の二人を伴い、ダンジョンの第一階層へと足を踏み入れた。
「これがダンジョンの中ですか……」
「明るい~」
天井や壁がぼんやりと輝き足元を照らしていた。
陽光の恩恵に授からない、この影の空間は少し涼しげに三人を迎え入れる。
「細かい魔核が張り付いていて、地から湧き上がる魔力に反応して光っているんだ」
その魔核は魔力をまとい、時に魔物となる。地上ではスライムになる場合も、ダンジョンでは時には強力な魔物に育つ場合があった。
静まり返っている地上よりも天が低い空間は、人間が暮らしている場所より湧き出てくる魔力が多い。
それ故に魔物は多くより強力になり出現する。そして体内に凝縮した魔核を狙い冒険者が足を踏み入れ戦いが始まる。
それがダンジョンだった。
三人は奥へ奥へと進む。
「この第一階層にはもうほとんど魔物は出ないそうだ」
緊張した面持ちで付いて来る二人を従えて、ベルナールは足早に進んだ。
「ここが下への階段だ」
若い頃はただの下る岩の通路だったが、階段の形状に整えられて久しい。
第二階層に降りると更にひんやりとなった空気が頬を撫でた。
ベルナールたちが侵入した入り口の他にも、人や魔物が通れない無数の小さな開口が地上と繋がり、まるで息をするように空気を循環させているのだ。
「さて、この辺で適当な獲物を探すか」
第二階層の支道を探せば何かしらの小物がいる。
「はい……」
「はい~」
アレットとロシェルは変わらず緊張の極致といった表情だ。
「この辺りは地上とたいして変わらない小物ばかりだ。心配するな。肩の力を抜け」
二人を安心させるように言った後、ベルナールは迷路のような静寂の道を、勝手知ったる我が家のように迷いなく歩く。脇にはいくつもの支道が口を開けていた。
辺りからは冒険者が戦っている声や音などは聞こえない。他のパーティーは稼ぐ為にもっと下に行っている。
広いメインのダンジョンを外れて支道へと進んむ。
「さて、ここにするか」
そこは初心者の鍛錬場とも言うべき、広い空間が行き止まりになっている場所だ。
ベルナールが若い頃はもっと若い、まだ少年少女と呼べる若き駆け出したちが、ここで小物を狩っていた。
「理由は分からんがC級より弱い魔物ばかりが一定数出る。鍛錬にはもってこいの場所だ」
第五階層への壁を始めてぶち破り、A級を三体倒して他のパーティーに獲物を譲ろうと引き上げたベルナールたちは、そんな時でもこの場所に顔を出していた。
流れる汗を拭おうともせず剣を振るい、弓を引き魔法を連続して行使する将来の勇者たちを眺めていたのだ。
必死に、無心に戦うその姿を見て当時のベルナールは、己の身を引き締めていたと昔を思い出す。
今、自分を師匠と慕う若き冒険者を従えて、ベルナールはその懐かしい空間に足を踏み入れた。
「珍しいな。ビックスライムか……」
中に鎮座していたのは人の背丈ほどもある巨大なスライムだった。横幅はその三倍もある。
ここまで育ったのはこの空間に久しく冒険者たちが訪れていない証だ。
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