第16話 「商隊護衛」

 ベルナールは護衛仕事の為、早朝の街道へと向かう。


 この街への入り口。街道近くには倉庫が建ち並び、商工ギルドといくつかの商会の事務所がある。


 今回のヘルプは各商会が受注した物資を、ギルドがとりまとめて護衛を付け、一括で輸送する仕事だった。


 商工ギルドの前には、すでにバスティのパーティーがいた。


「おはよう……」

「「「「おはようございます」」」」


 バスティたちはまるで計っていたように一斉に返事を返す。ベルナールは一瞬たじろいだ。


「今日は一緒に仕事ですね」

「ああ、しかし、おまえたち。よくこんなワリの悪クエストなんて受けたな?」


 このパーティーならば森で魔物を追った方が稼ぎは良いはずだ。


「ええ、まあ、王都では新たな開口部を探す部隊と、共同で作戦に参加したりもしました。知り合いがいるかもしれませんしね」

「なるほどね」

「あっ、いえ……。こんなクエスト誰も受ないだろ、って皆は言ってましたけど――」


 バスティは少し言い訳がましく続ける。


「――軍の同年代と毎晩酒場で飲んだりしていたし、そいつらもいるのかな――と」


 若い冒険者なのだからそんなものだろうと、ベルナールは納得する。世の中稼ぎが全てではない。


「そう言えば名前の紹介がまだでしたね。俺の仲間たちです」


 バスティは微笑を湛える三人の少女を順に紹介する。皆は口々によろしく、と言いペコリと頭を下げ、ベルナールはそれに返した。


 剣闘士グラディエーターの少女、パーティーのリーダーアレクはまだ若い少女だが風格さえ漂う。


 青い髪で青い瞳の少女は、魔法も操作する魔道具の剣を持つ。弓矢も背負っていた。名前はイヴェット。魔導闘士ソーサエーターだ。


 リュリュと言う緑の髪色と瞳の少女は魔法使いウィザードで、ローブを着、水晶球の付いた魔導の杖を持っている。


「こちらこそよろしく」


 このパーティーは本当に良い。直感的にそう思った。オーラがそう感じさせた。


 ベルナールは眩しそうに目を細める。かつての自分たちがそうだった――と。



 商工ギルドの職員の案内で倉庫に移動する。馬車が待機し荷が積み込まれ、出発の準備は整いつつあった。


 五人で馬車の荷の隙間に分散して乗り込む。ベルナールとバスティは最後尾の馬車に乗った。


 隊列は十以上のとなり、それなりの規模だった。


「イヴェットとリュリュの探査魔法はなかなかでしてね。二人が見つけて俺が狩りますから」

荷馬車に揺られながらバスティは今日の戦術を説明した。



 馬車はゆっくりと街道を進む。空は晴れていて雨の心配はなさそうだ。道のぬかるみに車輪をとられることもないだろう。


 そんなことを考えていたベルナールは、忘れていたギルドマスターの話を思い出す。


「おまえたちはここに来る前はどこにいたんだ?」

「王都で戦っていました。その前、エーグ・モルトで冒険者になりました。三人は俺の先輩で、もっと前から冒険者をやってましたよ」

魔境大解放ダンジョン・クライシスは?」

「もちろん戦いました。それで王都に招集されたんですから」

「そうか……」


 エルワンの話と全て一致する。別段素性を隠すふうでもないし、特に何か隠し事があるとも思えない。


 街道を進む商隊は、開拓地への分岐路へと曲がる。


 左右には農地と牧草地が広がり、農家の家屋などが点在していた。


 この奥で軍の小部隊が活動しているのだ。十年ほど前、王都の貴族が資金を拠出して切り開かれた場所だった。


 その辺が事情ならエルワンの取り越し苦労だなと、ベルナールは周囲を見渡す。


「あっと、早速探知しましたね。ちょっと行ってきます」


 バスティはそう言って立ち上がり、まるで飛ぶように跳躍した。


 先頭の馬車に乗る魔導闘士ソーサエーター魔法使いウィザードが探知してバスティに情報を伝えているだ。


 程なくして戻ったバスティは魔核を見せる。


「F級程度でしたね――、あっと、また見つかった。今度はあっちが行きますよ」


 先頭の馬車から魔導闘士ソーサエーターが飛び、森の奥へと消えて行く。


「で、ダンジョン攻略を極めてみようかと思いまして……。仲間とも話して決めました」


 バスティは話の続きを始めた。


「ところで、前にも言いましたが今度ウチのヘルプを頼めませんか?」

「構わんが俺みたいなロートルの助けはいらんだろう。お前たちは強いよ」


 バスティは少し俯いてから、息を吸い込んで顔を上げた。ベルナールの顔を真摯な目で直視する。


「第六階層にアタック・・・・しようかと考えています。俺たちにはダンジョンでの経験、知識が圧倒的に足りないのです」

「むうっ……」


 ベルナールが突入した第五階層以降、攻略は長きに渡り停滞していた。


「どうですか? 報酬ははずみますが……」


 このダンジョンの街はいつのまにか弛緩し停滞していた。ベルナールもそうだった。


 王都の戦いがどれ程だったのかは分からない。そして、そこを経験しダンジョン攻略の面白さを感じたのだろう。


 デフロットのようなやから程度を若手の旗手、新進気鋭などと持ち上げていたのがこの街だった。ベルナールのような元勇者も含めてそうだったのだ。


 停滞しているこの街に、この若きパーティーが新たな風を吹き込んでくれるに違いなかった。


 湧き上がるような衝動が起こり、ベルナールは気持ちを落ち着かせる。


「いいだろう。ただし条件がある」

「条件?」

「報酬は相場でいい。それが条件だ」

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