第2443話 愛する者の帰還 Ⅸ
夕飯はカレー大会だった。
石神家のカレーのレシピは行き渡っているので、ブランたちが楽しそうに作っている。
みんな、カレーが大好きだ。
が、石神家と蓮花たちは別だ。
栞と士王、六花と吹雪、鷹もいる。
何故か斬までが同席している。
柳の新技についてと、もう一つは外壁修復のことだ。
折角栞と士王を蓮花研究所に呼んだのに、いきなり防衛システムが大破した。
外壁は敷地の防衛線であるとともに、タヌ吉の結界も通っている防御の要の一つだ。
もちろんヘッジホッグやその他の防衛システムもあるが、外壁で敵の攻撃を防ぐことは重要なことだった。
それが破壊された。
しかも二度も。
本来は柳の新技の誕生を祝いたいところなのだが、みんな沈痛な顔をしているのは、そのせいだ。
「あー、まずは柳の新技についてだ。ルー、ハー、解析は終わってるな?」
「「はい!」」
二人が身体の動きを解析し、一応「オロチブレイカー」が撃てる人間は習得出来そうだった。
ただし、あまりにも破壊力が大きいので、伝える人間は考えなくてはならないかもしれない。
多分、石神家に教えた魔法陣での攻撃に匹敵する威力だ。
タヌ吉の結界まで吹っ飛ばすということは、《地獄の悪魔》や《神》にも通じることだろう。
また、あの技が広範囲に拡げることが出来るのが双子の解析により判明し、数で押して来る敵にも大いに有効だ。
今後の習得者のことを話し合い、俺の意志でここにいる人間には許可することにした。
斬もだ。
「斬、やたらに撃つなよな!」
「ふん! 分かっておるわい」
ほんとかよ。
でも信じている。
「あなた、アラスカのソルジャーたちにはどうするの?」
栞が言った。
栞はアラスカで訓練教官もしており、彼らには親しい感情がある。
「まあ、教えてもいいとは思うんだがな」
「何か不安があるの?」
「ああ。まず威力が今までのものとは桁違いだ。だから、ややもすれば自軍の結界すら破壊してしまうからな」
「でも、運用に制限を設ければ……」
「そうなんだが、敵に誘導されることもあり得る。核兵器と同じだ。戦闘時に自軍が侵食された場合、判断を誤って使う奴が出るかもしれない。都市部が襲われて、そこへぶち込むかもしれんしな」
「なるほどね」
「運用制限は難しいよ。咄嗟の判断でどうしたって迷う。上に確認しようにも、上も判断出来ない場合もあるだろう。使えば大殺戮だしな」
「でも、「花岡」の技もそういうのがあるよね?」
「そうだ。だから基本的には公開したいんだがな」
「何かもっと不安があるのね?」
栞は何かを察した。
「ああ、これは俺の全くの勘というか思い込みなんだけどな。余りにも威力が大き過ぎるんだ」
「でも、それはさっきも言った「花岡」でもそうじゃない。ブリューナクのレベルでも、とんでもない威力だよね?」
「物理的にはな。でも今回の新技は、妖魔や神相手、つまり人類がこれまでほとんど触れて来なかったエネルギーだ。だから人間が扱うには危険だと感じているんだ」
全員が黙った。
俺の言った感覚が理解出来たのだろう。
「核の力を手にした人類がどうなった? アメリカだけが握っていた力を、世界中が何とか夢中で欲した。その結果、超大国が世界に君臨し、そうでない国家は常に下に置かれるようになった」
国連などというものは、超大国の体制維持のためにある。
「今は「花岡」がそれを上回っている。しかし俺たちは君臨するつもりもない。それに「業」が台頭してきたことで「花岡」を有する俺たちが世界中から頼りにされるようになった。でもな、もしも「花岡」を解禁すれば、「核」と同じだ。俺たちはそれを考えて行かなければならない」
「タカさん、「花岡」以上に今回の新技は危険だということですね?」
皇紀が言った。
「その通りだと思う。「花岡」はあくまでも物理だ。「核」の延長線上にあると言ってもいい。「核」も人類は持て余しているが、「花岡」も「核」も何とか制御が出来る日が来る。でもな、「オロチデストロイ」は……」
「あー、名前がぁー!」
泣きべそをかいていた柳が叫んだ。
柳は技名を「オロチ大ブレイカー」にしたがっていた。
ダサいので却下。
「うるせぇ! 「オロチデストロイ」はちょっと違う。未知のエネルギー過ぎて、人間には制御できないかもしれない」
「多くの人間が習得すれば、収拾がつかなくなる可能性がありますね」
「そうだ。だから、俺たちは真摯にこの「オロチデストロイ」を考えなければならないと思う」
俺は別な角度からも説明した。
「俺たちの攻撃力は随分と高くなった。これは嬉しいことだ。攻撃力に関しては、俺はここまで来れば十分なものがあると思う。まあ、もちろん今後も進めては行くけどな。でも、今の俺たちは昔の海軍で言えば巨大戦艦のようなものだ。強力な大砲を積んで、敵艦を簡単に破壊出来る威力を有している。しかし、航空機がその巨大戦艦を沈めるようになった。小回りが利く沢山の攻撃機が簡単に巨大戦艦を沈める」
「私たちはスピードが必要だということですね!」
亜紀ちゃんが言った。
「まあ、そういうことだ。先日「アドヴェロス」が迎え撃った《デモノイド》は高機動で翻弄した。策を練って地面に油まみれのベアリングを撒いたことで、そのスピードを殺した。でも、常にそういう作戦は取れない。高速で移動する敵を確実に撃破する技が必要だ」
「敵は黙って立っててくれませんものね」
「今、敵の速さに対抗できる人間は少ない。俺たちは強くて弱いんだ」
全員が俺の言っていることが分かったようだ。
「今後はだからハイスピードバトルの訓練が必要だ。そのための技もな」
『はい!』
「さて、次は外壁補修の問題だ」
「ごめんなさいぃぃぃーーー!」
柳がまた泣く。
「もう泣くな、鬱陶しい!」
柳が涙目で俺を見ている。
「もうしょうがねぇだろう! いい加減にしろ! お前は物凄い技を編み出したんだ。それでいい! そのために起きたことは俺が何とかする!」
「石神さぁーん!」
柳が泣きついて来るので参ったが、頭を抱き寄せて撫でてやる。
めんどくせぇ。
「それで、困った問題はあの防壁は相当特殊だということだ。本来繋ぎ目はなく、四方を同時に構築させないと一律の防御力を持たせられない。
「じゃあ、もう一度全部やるんですか!」
柳がまた責任を感じて泣きそうになるので、一層抱き寄せた。
お前のせいではないのだ。
可愛そうに。
「しょうがねぇな。それに加えて、技術者の不足だ。あの防壁を築いた人間たちは、今パムッカレやフィリピンなどに散ってる。麗星の力も必要だしな。もう一度集めるにはちょっと問題がある。パムッカレなんかでも同時に構築しなきゃならんから、途中で呼び戻せないんだよ」
柳がまた泣きそうになるので頭をはたいた。
「もう一つ、タヌ吉の問題だ。一時的にタヌ吉の結界が乱れたのかと思っていたが、どうやら再構築しなければならないらしい。これはタヌ吉のせいではなく、地球の磁場や星の巡りの関係があるんで、いつでもというわけには行かないようだ」
柳が今度は震え出す。
タヌ吉が相当脅したようだ。
「あなた、私たちはもう一度アラスカへ戻るわ」
栞が言った。
みんなが驚く。
「栞さん!」
柳が叫ぶ。
「まあ、待て。明日からしばらく栞たちは俺たちと一緒にいる。防壁は数か月かかるだろうが、何とかする。今考えているのは、専門家を常駐させることだ」
「専門家?」
「石神家本家だ。あの人たちが来てくれれば、何が来ても大丈夫だ」
「「うわぁー!」」
双子が叫んだ。
「そうだよ! 虎白さんたちがいれば絶対大丈夫だよ!」
「いいよ! それいいよ!」
双子が大喜びだった。
お前らは関係ねぇだろう。
「技術者を集めるのは何とかする。皇紀、お前にも手伝ってもらうからな」
「はい!」
「まあ、タイミングがなぁ。防壁の工事と同時に道間家の結界、それにタヌ吉の結界を融合させる必要があるからなぁ」
「石神さん、すみません! 私に出来ることは何でもします!」
「だから柳よ、お前は責任を負い過ぎるな。もうお前はちゃんと謝ったんだ。それでいいんだよ」
「すみません! みなさん! ほんとうにご迷惑を!」
みんな柳を見て困っている。
タヌ吉や《ロータス》は柳を責めたが、それは大事な物を破壊されたからだ。
仕方がない。
しかし、他の連中は柳のやったことをちゃんと分かっている。
突然手にした大技に翻弄されてしまったのだ。
「柳、お前はやるべきことをちゃんとやっただけだ。これは快挙なんだ。だからお前に感謝こそすれ、俺たちは何も責めてはいない」
「石神さん!」
「お前は大した奴だ。ありがとう、柳」
「そ、そんな! 私本当に大変なことをしてしまいましたから!」
「それは違うって。だからもう気にするな」
「は、はい!」
柳が涙を零しながら笑顔を作った。
「じゃあ飯を食いにいくか。今日はカレーだったよな?」
「はい、もう準備は出来ていると思います」
斬が立ち上がって柳に言った。
「娘、お前は大した奴だ。お前が戦友で本当に良かったと思っているぞ」
「え! 斬さん!」
「これからも宜しく頼む」
斬が頭を下げた。
みんなが驚き、そして拍手をしながら笑った。
柳がやっと涙を止めて笑った。
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