第2440話 早乙女家 初キャンプ

 石神たちは夏休みに、蓮花さんの研究所に行くらしい。

 前から言われているのだが、石神はよく俺に雪野さんや子どもたちをどこかへ連れて行けと言う。

 確かにその通りだと思うのだが、どうにも思いつかない。

 石神からは、俺が雪野さんがいることだけで満足してしまっていることが原因だと言われる。

 全くその通りなのだが、俺も雪野さんや子どもたちを楽しませたいとは思っているのだ。

 しかし、やっぱり俺はダメな奴だ。


 あちこちへ家族を連れ歩く石神は流石だと思う。

 旅行ではなくても、よく誰かをドライブへ連れて行ったり、外に食事や飲みに連れ歩いている。

 そういう中で楽しい話、感動する話をよくする。

 本当に凄い奴だ。






 来週から夏季休暇を取る予定の金曜日。

 夕飯の後片付けを一緒にしながら、雪野さんに言った。


 「雪野さん、キャンプに行ってみないか?」

 「え、キャンプですか?」

 「うん。ほら、石神たちが時々やってるだろう?」

 「ああ、丹沢ですよね?」

 「今、キャンプって流行ってるらしいじゃない」

 「そうらしいですね」


 テレビでキャンプの番組を見たせいだ。

 自然の中で、ああいうものをやってみたいと思った。


 「でも、あなたも私も経験はないですし」

 「いいじゃないか。火を起こしてご飯を作るだけでも楽しいよ」

 「そうですねぇ」


 雪野さんも、キャンプが嫌なわけではない。

 普段忙しくしている俺に、休みの間はゆっくりして欲しいと思ってくれているのだ。

 その心に甘えてはいけないと俺は思った。


 「ルーちゃんとハーちゃんに聞いたんだけどね。夜にテントに入ると本当に楽しいんだって」

 「ええ、それは面白そうですよね」

 「ね!」

 「でも、初めてですと、やっぱり不安が……」

 「じゃあさ、石神たちに聞いてみようよ」

 「え?」

 「俺たちにも出来るやり方があるかもしれないよ?」

 「そうですね!」

 「怜花も久留守もきっと楽しいよ」

 「はい!」


 雪野さんもやっと賛成してくれ、俺は早速石神に電話した。

 

 「キャンプかぁ! いいじゃないか」

 「うん。でも初めてだから、少し教えてもらえればと」

 「ああ、じゃあうちの丹沢の土地を使えよ」

 「え!」

 「あそこなら近いし一通り道具や設備も揃ってるしな」

 「いいのか!」

 「もちろんだ。一応小屋でも寝れるし、ああ、テントにするならうちのを貸すぞ?」

 「是非お願いします!」

 「アハハハハハ! じゃあ、明日テントや道具を持って行くよ。お前の家の庭で試してみればいい。なに、簡単だよ」

 「ほんとかぁ! ああ、ありがとう石神!」

 「いいって。楽しんでくれよ」


 雪野さんに話すと喜んでくれた。

 キャンプのやり方も教えてくれるということで、ありがたく思う。

 






 翌日、午前中に石神がルーちゃんとハーちゃんを連れて来てくれた。

 二人はキャンプのベテランなのだと、自分たちで言う。

 頼もしい。

 石神はちょっと難しい顔をしていたが。


 「これがテントだ。じゃあ早速張り方を教えるな」


 石神がテントを拡げ、俺と雪野さんに張り方を教えてくれた。

 本当に簡単だった。


 「一応エアマットも持って来たけど、シートの下に草を敷くと一層快適になるんだ。冬場は温めた石とか入れるといいんだよ」

 「なるほど!」

 「枯れ木を拾って来て燃料にする。まあ、枯れ木はその辺に一杯あるし、着火剤を使えば火もすぐに点く」

 「うん」

 「向こうに竈もあるし、小屋の中にテーブルなんかも置いてあるから自由に使ってくれ」

 「ありがとう、使わせてもらうよ」

 

 雪野さんと、飯盒の炊き方を教えてもらった。

 難しいようならば、パスタや蕎麦、うどんでもいいのだと言われた。

 丹沢の小屋には鍋釜もあるらしいが、何しろ石神家仕様で大きいらしい。

 だからダッジオーブンなども石神が持って来てくれた。


 「ああ、露天風呂もあるんだけどなぁ」

 「そうなのか?」

 「気持ちいいんだよ。でも、お前らは「花岡」を使えないしなぁ」

 「タカさん! デュールゲリエにやってもらえばいいよ!」


 ハーちゃんが提案してくれた。


 「ああ、なるほど! 向こうにいるんだよな?」

 「うん! 掃除もしてもらうから。後でプログラムを送っとくね」

 「そうだな。ところでお前ら、いつ行くんだ?」

 「8月の15日から一週間の休暇を予定している。15日から一泊でどうかな」

 「じゃあ、ハー、そのスケジュールだ」

 「はーい!」


 本当に石神はありがたい。

 そして、更に嬉しい誘いを受けた。


 「おい、良かったら、その後でうちの別荘に来ないか?」

 「「え!」」

 「栞たちも来るしよ。一緒にどうだ?」

 「い、いいのか!」

 「もちろんだ」

 「是非伺うよ!」

 「じゃあ、17日の午後に来てくれ」

 「ああ、分かった!」


 「じゃあ、キャンプを楽しんでくれよな」

 「いろいろありがとう!」

 「そうだ、お前らハマーで行くんだろ?」


 うちでも家族全員で移動出来るように、ハマーH2を買った。

 石神の真似なのだが、石神は笑って自分の真似を許してくれた。

 石神はハマーの改造が得意な店を紹介してくれ、内装や乗り心地が良くなるように手配してくれた。

 何から何までありがたい。


 「うん、そのつもりだよ」

 「だったら、麓に家を買ってあるから、そこで止めて置けばいいよ」

 「そうなのか!」

 「じゃあ、詳しい資料はまた後で」

 「石神ありがとう!」


 石神は笑いながら手を振って帰って行った。

 何から何まで、本当にありがたい。

 ホームセンターで炭を買って来て、雪野さんと一緒に飯盒の炊き方を試し、上手く炊けたので二人で喜んだ。


 「飯盒の御飯って美味しいね!」

 「そうですね!」


 雪野さんとキャンプに持って行く食材や道具を買い揃え、キャンプが楽しみになってきた。







 8月15日。

 朝食を食べてから、丹沢に出発した。

 雪野さんを助手席に乗せ、後ろのシートに怜花と久留守を座らせた。

 ハムちゃんも一緒だ。

 うちのハマーH2は7人乗りで、運転席と助手席、後ろに3人掛けのシート、後ろの荷物置き場にベンチシート。

 あれもこれもと思って荷物を積んだら、結構な量になってしまった。


 「あなた、あれ、担いで登れますか?」

 「うん、頑張るよ」


 出発してしばらくすると、石神から電話が掛かって来た。

 雪野さんがオープンにしてくれる。


 「よう!」

 「石神!」

 「もう出発したか?」

 「ああ、さっき出た所だ」

 「一応さ、デュールゲリエに麓まで行かせてるんだ」

 「え? なんだ?」

 「荷物を担いで山を登るのは大変だろう。怜花も久留守もまだそうそう歩けないだろうしな」

 「え!」

 「3体で待ってるから、荷物は預けてくれ」

 「石神!」

 「余計なことだったかな。キャンプは荷物の重さも味わいの……」


 俺は石神の心優しい手配に泣きそうになってしまった。


 「いや、ありがとう! 本当に助かるよ!」

 「そうか。じゃあ楽しんでくれな!」

 「うん!」


 雪野さんも喜んだ。

 石神は本当に何から何まで考えてくれる。

 俺たちが楽しめるように、またいろいろと考えてくれたのだろう。

 ありがとう!

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