第2400話 あの日、あの時: 過激派襲撃事件 Ⅳ
何度も手製銃が発射され、俺は出来る範囲で手製銃を蹴り上げて天井が破壊されて行く。
しかし、あちこちで手製銃の銃声が響く。
毎回ではないが、何人かの警官が倒れて行った。
外に残った連中が赤いガロン容器を荷台から降ろすのが見えた。
火炎瓶も持っている。
一瞬で何をやろうとしているのかが分かった。
あれは不味い!
「佐野さん! 消火栓!」
「なんだ!」
「あいつら、ガソリンを撒くつもりです! 火炎瓶もある!」
「わ、分かったぁ!」
佐野さんが慌てて消火栓に走り、扉を開いてホースを持って走る。
佐野さんを手製銃で狙う連中を俺が阻止するが、離れた場所で狙っているので全員は潰せない。
何発か佐野さんに向けて撃ったが、幸い当たらなかった。
「誰か! 栓を開けろ!」
「おう!」
佐野さんが入り口に走り、壁に身体を隠し、ノズルを表に向けた。
火炎瓶が投げられ、俺は咄嗟にキャッチした。
「あ」
俺は球技が苦手だった。
火炎瓶を取りこぼし、床で割れた。
ガソリンの炎が拡がる。
「アッチィぃー!」
制服の垂れ下がった布やズボンに火が付き、俺は慌てて脱いだ。
「トラちゃん!」
「カナさん! 大丈夫!」
俺はまた過激派に突っ込んで行って潰して回る。
一人一人は強くはないのだが、距離を取って俺から逃げ回るので時間が掛かる。
逃げながら、署内に手製銃などで攻撃して行く。
何本も火炎瓶が投げられ、警察署の1階に燃え広がった。
署員が消火器を持って来て鎮火して行くが押されている。
備え付けのものでは足りないので、何人かが他の階のものを取りに行く。
何人かが玄関の佐野さんにジュラルミンの楯を持って走って行くのが見えた。
多分、あれで手製銃は防げるだろう。
佐野さんは脇の壁からノズルを出して放水していた。
慌てているのと見えない位置で放水しているので、上手く火を消せないでいる。
中の過激派をようやく全員潰し、俺も玄関へ走った。
あちこちで燃えている炎は署員の方々に任せる。
佳苗さんは署員の方々によって避難したようなので安心した。
署員によって、俺が潰した連中が拘束されていくのも見た。
ようやく状況が落ち着いて来た。
もう一息だ。
俺は佐野さんからノズルを奪い、火炎瓶を持った男に放水した。
火炎瓶に火を点けようとして油断していた男が、放水の勢いでぶっ飛ぶ。
ガロン容器を抱えていた男の頭にハイキックを入れてぶっ飛ばす。
全員が放水を浴び、もう着火が出来ないことを確認し、俺は佐野さんに消火栓を戻し、連中を潰して行った。
佐野さんが今度は署内の消火に専念して行く。
ほとんどが俺によって倒されたが、一人が運転席に乗って逃走しようとした。
荷台で戦闘の途中で割れたか、火炎瓶が燃えていた。
「逃がすかぁ!」
俺は転がっていたパイプ爆弾を拾い、軽トラに投げた。
爆発音がし、盛大な炎を上げる。
「トラ!」
「一人逃げました」
「おう!」
佐野さんが出て来て、逃げる軽トラを二人で走って追いかけた。
荷台の炎がますます大きくなる。
「トラ、あれまずいんじゃねぇか?」
「はい?」
追いかけた。
軽トラの荷台の炎は物凄いことになっている。
「おい、まずいぞ!」
「はい!」
もう荷台全体が盛大に燃えている。
積んでいた火炎瓶に引火したのだろう。
「「あ!」」
軽トラが爆発し、横転した。
必死で走り、佐野さんと運転席に回った。
「アッチィ!」
俺が上からドアを手で持って固定し、佐野さんが運転席の男を引きずり出す。
まだ運転席には炎が回っていない。
佐野さんと俺が荷台の炎に焙られる。
何とか男を救出し、佐野さんと一緒に男を交互に蹴った。
「てめぇ! 死ぬかと思ったぞ、このバカ!」
「アッチィんだよ、このクサレぇ!」
男が意識を喪った。
パトカーが来て、男を乗せて行った。
消防署の車両も到着し始め、軽トラに消火器を撒き始めた。
俺はパンツも燃えて全裸になっていた。
「トラ、その恰好は不味いぜ」
「しょうがないじゃないですか! 燃えちゃったんですもん」
「でもなぁー」
「俺、慣れてますし」
「そういやそうだな!」
二人で笑いながら警察署に戻った。
沿道に集まっていた人たちが、俺たちに拍手をしてくれた。
もう警察署の方も鎮圧が済んでいて、消防車が1階に放水していた。
佳苗さんが足に包帯を巻いて、玄関脇で俺たちを待っていた。
「トラちゃん!」
「カナさん、大丈夫ですか!」
「何言ってんの! トラちゃんこそ、大怪我じゃないの!」
「おい、トラ! 怪我してんのかよ!」
「大丈夫ですよ」
夢中だった佐野さんは、俺の背中に気付いていなかった。
背中を見て慌てた。
「おい! すぐに病院に行くぞ!」
「また歩いて?」
「バカ!」
もう救急車が来ていて、俺も乗せてもらった。
佳苗さんが急いで毛布を持って来てくれる。
他の署員の怪我人も多く、パトカーも使って搬送されて行く。
大騒ぎであり、周辺に人垣が出来ていた。
病院はごった返しており、俺は最後でいいと言った。
顔見知りの看護婦たちが俺の状態を確認した。
「トラちゃんの怪我が一番酷いよ!」
「エェェー! 早くしてぇ!」
「バカ!」
真っ先に処置してもらった。
一緒にいた佳苗さんが大笑いしていた。
後から分かったことは、過激派「日本赤軍派」の中でもさらに過激な連中が集まったものらしかった。
リーダーの日浦重信を俺が別荘で拘束して警察に引き渡したため、それを取り返そうとした襲撃らしい。
あの別荘以外でも拠点があったようで、そこで襲撃を準備し実行した。
警察署を襲うなど、とんでもない連中だった。
俺の怪我は鉛パイプの破片を取り除くことだけで終わった。
幾つか傷口を縫ったが、それほどの怪我は無かった。
他の警察官も同じような状況で、その他火炎瓶の火傷もあったが、深刻な怪我を負った人間はいなかった。
警察署の戦闘の中で、もしもガロン容器のガソリンが撒かれた場合には大惨事になっただろうと言われた。
ずっと後になるが、あるアニメ会社がそのような状況で襲われ、ほとんどのビル内の人間が死んだ。
その後過激派による警察署襲撃事件は、マスコミに大きく扱われたが、俺の名前は出さないように頼んだ。
警察としても、後々過激派たちから俺が狙われる可能性を憂慮し、そのようにしてくれた。
警視総監から表彰を受けたが、それよりも後日和久井署長が奢ってくれた鰻重、佐野さんのカツ丼、そして佳苗さんのプリンの方が嬉しかった。
それと、俺の破れた制服を警察の方ですぐに新調してくれたことが何よりも有難かった。
お袋に申し訳なかったからだ。
それまでは、「ルート20」の仲間に学ランを借りていた。
襟が高い長ランとボンタンだった。
それも気に入っていたのだが。
保奈美が大興奮で、毎日デートした。
「トラ! それいいよ!」
「そう?」
過激派は全員が襲撃に加わって捕まったようで、街は平和になった。
警察署も焼け跡は残ったが、すぐに復旧された。
署員たちが迅速に鎮火した功績が大きかった。
その後、俺が問題を起こして捕まった時には、みんなが俺にいろいろ奢ってくれるようになった。
「トラ! 待ってたぞ!」
「すいませんでしたー」
「今日はカツ丼でいいか?」
「え、いいんですか!」
「おう、大盛りにしてやる!」
「ありがとうございます!」
「ラーメンもどうだ?」
「いただきます!」
佐野さんと佳苗さんが大笑いしていた。
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