第2389話 佐野健也 Ⅱ

 「空振りでしたー」

 「え、そうなの!」

 「一江さんの情報、全然違いましたよ」


 私は住所の場所がオフィス街であることと、「暁警備」が小さな事務所だったことを柳さんに伝えた。

 柳さんも不思議に思っていた。


 「おかしいね?」

 「はい。あの一江さんが、間違った情報を持ってるとは思えません」

 「うん、なんだろうね」


 二人で考えたけど、全然分からない。

 取り敢えず、ご飯にした。

 柳さんとトマトと生ハムの冷製パスタを作った。

 ステーキは薬味。

 一応下痢は止まったけど、ステーキは1枚だけにした。


 「亜紀ちゃん、これからどうする?」

 「うーん、どうしましょうかねー」

 「一江さんには聞いてみる?」

 「でも、さっきは断られちゃったし。それに《セラフィム》にハッキングしたなんて言いにくいですよ」

 「そっか」

 

 食事を終えて洗い物をしていると、一江さんから電話が来た。

 びっくりした。


 「亜紀ちゃん」

 「一江さん! さっきはすみませんでした!」

 「うん、これからそっちに行っていいかな?」

 「え!」


 もしかしてハッキングがバレた?


 「え、ええ。大丈夫ですよ」

 「じゃあ、大森と一緒に行くから」

 「は、はい!」


 慌てて柳さんに報告した。


 「り、柳さん! これから一江さんと大森さんが来るって!」

 「えぇ!」

 「もしかしてバレたんですかね!」

 「そ、そうかも!」

 「どうしましょう!」

 「ちょ、ちょっと落ち着こう!」


 身体から血の気が引いて来た感じがする。

 これは不味いかもしれない!

 柳さんもちょっと不安そうな顔になってる。


 15分ほどで、一江さんと大森さんが来た。

 今は仕事中のはずなのだが。


 「い、いらっしゃいませ」

 「うん、ごめんね。あのね、仕事を抜け出して来たからあんまり時間がないんだ」

 「す、すいません!」


 すぐにリヴィングに通し、お二人にアイスコーヒーを出した。


 「あのさ、正直に言ってね。《アイオーン》で《セラフィム》に何かやらせたでしょ?」

 「……はい」

 「もう! まあ、なんでやったのかは分かるけどさ。もうあんなことしちゃダメだよ?」

 「はい、すみませんでした!」


 やっぱり一江さんは全部分かっていたのだ。

 柳さんも真っ青になっている。


 「《アイオーン》と《セラフィム》はね、相互に信頼関係にあるの。部長の戦いのためにあるものだからね」

 「はい……」

 「そもそもハッキングなんて出来ないのよ。あの子たちはコンピューターだけど、仲間同士なの」

 「はい、すみませんでした……」

 

 一江さんから言われて、本当に申し訳ないと思った。


 「部長には黙っててあげる。でも、どうして急に佐野さんのことを調べたかったの?」


 私たちは正直に、掃除をしていて偶然に佐野さんからタカさんへの手紙を見つけた話をした。


 「佐野さんは、タカさんが高校を卒業して行方不明になっていると思ってるんじゃないかって。だからタカさんが無事で立派にやってることをお伝えしたくて」

 「ああ、そうかー」

 

 一江さんと大森さんも分かってくれた。

 二人で顔を見合わせて笑っていた。


 「うん、でもね。部長は佐野さんに会う気はないよ。いつも言われていることでしょ?」

 「はい、そうですね。佐野さんに会えば、佐野さんが危険な目に遭うかもしれませんもんね」

 「そういうこと。だからこの話はもう終わりね」

 「はい、分かりました」


 お二人が話を終えてすぐに帰って行った。

 本当に忙しい中を私たちのために来てくれたんだ。

 ごめんなさい!


 その日は柳さんとまた家の中の掃除をし、ちょっと鍛錬もした。

 明日はタカさんたちが帰って来る。

 まー、怒られちゃうけど仕方ないかー。

 一江さんは黙っていると言ってくれたけど、やっぱり全部タカさんには話そう。

 タカさんに秘密は持ちたくないもんね。

 柳さんにそう言うと、柳さんも笑ってそうだねと言ってくれた。

  





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■






 俺たちは途中のサービスエリアで休憩しながら、夕方の5時半には帰れそうだった。

 無事に石神家から帰れて、物凄くいい気分だった。

 酷い怪我してないぞー。

 上機嫌で千鶴と御坂に、うちで夕飯を食べて行けと言うと、二人とも喜んだ。

 亜紀ちゃんに連絡し、二人の食事も用意するように言った。


 門を開き、ハマーを中へ入れる。


 「ん?」


 ガレージに行く前に庭を見ると、見慣れないものがあった。

 ハマーを入れてから、庭に回る。


 「……あんだこりゃ」


 双子たちも驚いている。

 四角錐を底面で合わせた、菱形の巨大な水晶。

 中に剣のようなものがある。


 「……」


 玄関が開き、亜紀ちゃんと柳が飛び出して来た。


 「た、タカさん! お帰りなさい!」

 「おい、なんだよ、これは!」

 「あの、それは真夜が……」

 「またあいつかよ!」

 「違うんです! 庭で草むしりをしてたら、突然!」

 「バカヤロウ!」


 あいつは庭に出すなと言っていたはずだ。

 亜紀ちゃんと柳が土下座した。

 だが、出てきてしまったものはしょうがねぇ。

 千鶴と御坂もいることだ。


 「とにかく後だ!」

 「「はい!」」


 双子がハマーから荷物を降ろして運ぶ。


 「あの、タカさん……」

 「もういいよ、あー、あれどうすっかなー。早乙女の家に……」

 「あの、違うんです、あのですね」

 「あんだよ?」

 「あの、実は、今リヴィングに……」

 「あ?」


 亜紀ちゃんの顔面が蒼白になっていた。

 要領を得ないので、とにかく家に入る。

 玄関に見知らぬ男性物の靴があった。


 「おい、誰か来てるのか?」

 「はい! あの、大変なことでして!」

 「誰だよ?」

 「あ、あ、あ、あ、あのですね」

 「誰だ!」

 「あ、あ……」

 

 いつもの亜紀ちゃんじゃねぇ。

 俺は放っておいて上に上がった。


 「トラぁー!」

 「え、なんで!」







 佐野さんがいた。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る