第2358話 退魔師 XⅨ
翌朝。
8時に起床し、朝食を食べた。
9時に榊と久我が来る予定だった。
柏木さんたちも起きて来て、一緒に食べる。
夕べ双子が千鶴と御坂を誘って、朝早くにコッコたちの卵を獲りに行ったようだ。
二人が興奮してコッコ卵のスクランブルエッグを食べていた。
「石神さん! あのニワトリ、スゴイですね!」
「俺じゃねぇよ! 双子が勝手にやったんだ!」
「挨拶されましたよ!」
「それも双子だ!」
千鶴が柏木さんに、2メートル越えのニワトリが5羽いることを話した。
柏木さんが驚いていたが、目の前でコッコ卵を見てまた驚いた。
双子が千鶴と御坂に生ハムを振る舞い、スクランブルエッグと一緒に食べろと勧めた。
「「美味しー!」」
柏木さんには塩気が強いのでやめておくように言った。
「石神さんと一緒だと、食が贅沢になってしまいますね」
「俺が食べるのが好きですからね。まあ貧しい子ども時代の反動ですよ」
柏木さんが笑った。
退魔師というのは、徹底的に節制が常態になっているのだろう。
「やはり美味い物を喰わないようにしたり、食べすぎることはダメですよね?」
子どもたちを見ながら言った。
「「「「「……」」」」」
柏木さんが笑って言った。
「そんなことはありません。私がこれまで興味が無かっただけですよ」
「そうじゃないでしょう。人間は欲に溺れるとろくなことはないですから」
「いいえ、みなさんの楽しいお食事は良い物です。私も自然に楽しく頂きましたから」
子どもたちが盛大な拍手をした。
ちきしょー、思い通りにはならんか。
楽しく食事を終え、コーヒーを飲んでいると、榊と久我が来たようでチャイムが鳴った。
亜紀ちゃんが出迎えに行く。
待っていると、亜紀ちゃんが下で大声で俺を呼んだ。
「タカさん! 大変です!」
「どうした!」
俺が降りると、亜紀ちゃんが俺の手を引いて門の所まで引っ張っていく。
榊が久我を抱えていた。
久我は真っ青な顔で息も荒く、気絶していた。
「なんだ!」
「分かりません! 突然久我が門を入ると倒れました」
「!」
俺は咄嗟に思い当たり、タマを呼んだ。
「タマ!」
「なんだ」
「こいつが突然倒れた! 分かるか?」
「ああ、結界に拒まれたんだな」
「なんだと!」
「こいつ、主に敵意があるぞ」
「そうなのか?」
「奥深い所で、何かされているな。ああ、郷間という男に暗示を掛けられたようだ。解くか?」
「やれ」
「分かった」
久我がすぐに意識を取り戻した。
「おい、大丈夫か?」
「え、ええ。一体何が……」
「とにかく入れ」
「は、はい」
久我は榊に礼を言い、自分の足で立ち上がった。
少しフラついたが、歩けるようだ。
玄関へ案内し、中へ入った。
まあ、俺の家の大きさに驚いていたが。
ロボが降りて来て、榊の脚に額をぶつけた。
久我には何もせずに、そのまま階段を上がって行った。
双子が二人にコーヒーを淹れる。
「さて、朝から来て貰って悪いな」
「いいえ。でも、あなたが石神高虎だと聞いて驚きました」
榊が俺に言った。
「知っているのか?」
「はい、少しは。うちは小島将軍に仕えて来た家系ですので」
「なんだと!」
「昔からです。だから自分も星蘭高校に入ったんです」
「そういうことかよ!」
まあ、小島将軍は榊の名は言わなかったが、関係者があの高校にいてもまったく不思議は無い。
むしろ最初から考えておくべきことだった。
自分の私兵や組織のポジションにつけるべき人材を育成していたのだ。
「今日はな、お前たちに「虎」の軍に入ることはどうかと確かめたかったんだ」
「自分は問題ありません。是非お願いします」
榊はそう言ったが、久我は迷っていた。
「久我はどうだ?」
「私はお力になれそうもありません」
「そうか」
俺の予想通りだった。
先ほどの結界に弾かれたことで、確信していた。
「病葉衆は「業」に侵食されているんだな?」
「……」
久我には応え難いことなのだろう。
「郷間だけでは無かったようだな。もう上の連中も「業」になびいている」
「先日の事件の後で、私も知りました。本家や一族の上のほとんどの人間が、既にもう」
「そうか」
千鶴や御坂が緊張している。
久我は今も星蘭高校で絶大な権力を握っているからだ。
「お前はどうしたいんだ?」
「私はどうにも出来ません。本家がそうなっていれば、もう何も逆らえない」
「……」
俺は久我の左目を見ながら威圧した。
「じゃあ、お前は敵だ。ここで殺す」
「ま、待って下さい! 私は石神さんに何もしません」
「信じるわけねぇだろう」
「違います! 本当に何も!」
柏木さんが千鶴と御坂の背後に移動した。
印を結んでいる。
俺の威圧に影響されないように護ってくれているのだろう。
俺は威圧を強めた。
「病葉衆は皆殺しだ。すぐにやる」
「ま、まって……」
久我が苦しそうに呻いた。
もう自分の死が目の前にあることを悟っている。
榊までも苦しそうに顔を歪めている。
俺は威圧を解いた。
久我が肩で息をしながら、安堵の表情を浮かべた。
まさに死を目の前にしたのだ。
「久我、お前は弱い」
「はい、その通りです。私は病葉衆の本家に生まれましたが、幼い頃から能力は……」
「そうではない。弱いのはお前の心だ。能力は関係ない」
「……」
久我が顔を伏せ、汗を流した。
「お前は自分のことが可愛い。それが弱いということだ」
「……」
「お前の弱さに付け込んで、郷間はお前に暗示を掛けた。まあ、俺が思うにお前だけのことではないよ」
「はい?」
久我が顔を上げた。
だが目に光りは無かった。
「病葉衆は暗殺集団だ。精神的な攻撃を得意とし、人を操る。周囲の人間を操って殺させるんだな?」
「はい、そのような術もあります」
「自分が戦わず、誰かを利用する技だ。だから弱くなった」
「……」
「有効なこともあるだろう。だが根本的に弱い。他者を操ろうとする連中はみんなそうだ。久我、お前の弱さはそのまま病葉衆の弱さだ。だから簡単に「業」に堕ちた。「虎」の軍は病葉衆とは手を組めないな」
「……」
久我が両手の拳を握りしめ、身体を震わせていた。
「久我、お前も気付いていたんだろう?」
「!」
「お前は病葉衆が弱いことを知っていた。社会の影に回り、他人を操ることで存続して来た。そんな自分の家系に疑念を抱いていたんじゃないのか?」
「はい……」
久我が重い表情で語り出した。
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