第2355話 退魔師 XⅦ

 『虎は孤高に』が始まり、亜紀ちゃんのハイテンションに柏木さんたちが驚く。

 マンロウ千鶴と御坂は大笑いした。

 テーマソングを亜紀ちゃんが大声で歌い、ロボが一緒に鳴くと、更に二人は爆笑する。


 「すいませんね、こういう騒ぎになるんです」

 「はぁ、まあ楽しいですよ」


 柏木さんはそう言ってくれる人間だ。

 まあ、最初からドラマ鑑賞には、それほどの興味も無いだろうが。

 今週は御堂と富士山へ登山に行った話と、俺と聖のニカラグアでの傭兵時代の活躍が描かれた。

 御堂へ俺の傭兵時代を語るという回想シーンだ。


 俺と聖は傭兵業界で有名になっており、聖がソ連の「ハインド(Mi-24)」をM16で撃破したことがメインになる。

 それがどれほどの奇跡なのかが、番組の中で上手く表現されていた。


 「聖さーん! 最高!」


 亜紀ちゃんが大騒ぎだ。

 ドラマが終わり、みんなで拍手した。

 別にそういうものでもないのだが、石神家のしきたりだ。


 「タカさん! 聖さんは最高ですよね!」

 「そうだな!」


 強力なガンシップに追われ、俺たちは絶体絶命の危機だった。

 俺がガンシップを誘導し、聖が一点集中の神懸かり的なショットで撃墜したのだ。

 防弾シールドをそうやって撃ち抜いた奇跡だった。


 「石神さんは、やはり過酷な生き方をして来たのですね」

 「そうですね。まあ、聖やいろんな人間に助けられてのことですけどね」


 千鶴も聞いて来た。

 

 「石神さんは傭兵だったんですよね?」

 「まあな」


 「本当に戦場に出たんだぁ」

 「そうだよ。18歳の時にな」

 「その時は、石神家の剣技はどうだったんですか?」


 御坂も聞いてくる。


 「まだ全然知らねぇよ。親父は石神家の当主だったらしいんだけどな。俺には全然そんなことは言わなかった」

 「じゃあ、剣は?」

 「全然。ああ、子どもの頃に親父の同田貫をへし折ってなぁ。そんだけだ」

 「えぇ!」


 「石神家当主の証だったんだと。知らねぇもん、俺」


 みんなが笑った。


 「親父が家の貯金全部と、家まで抵当に入れてどっかへ消えたんだ」

 「ああ! 「高校篇」の最期がそうでしたよね!」

 「あの時は親父を恨むしか無かった。でも親父の行動は全部俺のためだったんだよ」


 俺は道間宇羅との確執を話した。

 「業」に操られ、宇羅は親父を騙してその肉体を奪った。


 「親父は「業」に改造された。魂を喪い、俺を殺しに来た」

 

 斬の屋敷での戦闘を掻い摘んで話した。


 「俺は親父を殺せなかった。亜紀ちゃんが瀕死の重傷を負いながら、親父を殺してくれたんだ」

 

 柏木さんたちが亜紀ちゃんを見た。

 亜紀ちゃんは下を向いていた。


 「俺たちの戦いはそういうものだ。愛する人間を相手に戦わなければならないこともある。敵は外道だからな。何でもやるんだよ」


 俺は上に上がるように言い、子どもたちが飲み物と料理を「幻想空間」へ運んだ。

 柏木さんたちが「幻想空間」の雰囲気に驚いてくれた。


 「柏木さん、俺たちの「虎」の軍に入って下さい」

 「はい、是非お願いします」

 「でも、さっきも言った通り、俺たちの戦いは過酷です。死ぬことよりも辛い目に遭うこともある。柏木さんは退魔師という素晴らしい仕事がある。そっちを全うする方がいいですよ?」


 柏木さんは微笑んでおっしゃった。


 「ありがとうございます。でも、私はもう決めているんです。石神さんと運命を共にしたい。この命をそのために使いたいんです」

 「そうですか。ありがとうございます」


 柏木さんの気持ちは分かっていた。

 でも、もう一度確認したかったのだ。


 「「虎」の軍では、妖魔との戦い方を担って欲しいと考えています。これまで「花岡」や石神家の剣術などもあるのですが、また違ったアプローチを柏木さんが出来るのではないかと」

 「はい、承りました」

 「それに、先ほどもお見せしましたが、吉原龍子の残した遺産についての解析もお願いしたい」

 「はい、喜んで」


 柏木さんとの話は一応終わった。

 次はマンロウ千鶴と御坂だ。


 「君たちは「虎」の軍に入りたいか?」

 「「はい!」」

 「それは嬉しいんだけどな。「業」の軍と戦える力を持った人間は大歓迎だ。だけどな、君たちはまだ若い。そんなに急に決めなくてもいいんだぞ?」

 

 千鶴が言った。


 「私は最初から「虎」の軍に入るつもりでした。杉田校長にもその旨は以前からお話ししています」

 「そうなのか?」

 「杉田校長から、小島将軍にもそのお話は行っていて、了承も得ています」

 「小島将軍がかよ!」

 「はい。一応百目鬼の人間は小島将軍の意向を優先しますから」

 「とんでもねぇ高校だな!」


 千鶴が笑っていた。


 「最初は石神さんは、小島将軍の命令で入って来たのかと思ってましたよ」

 「ああ、小島将軍も状況は分かっていたようだけどな。「アドヴェロス」にやらせるつもりだったようだよ」

 「「アドヴェロス」?」

 「警察公安内の特殊部署だ。妖魔とライカンスロープを相手にする部署だ。早霧家の人間や、葛葉家の人間もいる。他にもな」

 「そういうものがあるんですね!」

 「だから千鶴や御坂も、「アドヴェロス」に入ってもいいんだぞ? そっちは日本国内警察内部の「虎」の軍だ」

 「そうですか。でも私は石神さんと一緒の方がいいです」

 「お前なぁ、一緒ったって、アラスカでのソルジャーに組み入れられるということになると思うぞ?」

 「それで構いません。石神さんの指揮下での戦いを希望します」

 「そうか、分かった」


 千鶴との話もこれでいいだろう。


 「御坂も同じか?」

 「はい。出来れば警察ではなく、同じくソルジャーでの方を希望します」

 「そうか。まあ、御坂の場合、一度盛岡の石神家へ行って欲しいんだが」

 「石神家ですか!」

 「ああ。実はお前のことを虎白さんに話したら、一度連れて来いってさ」

 「コハクさん?」

 「虎に白って書くんだよ。俺の叔父さんな。当主代行をしてくれてる」

 「私なんかがいいんですか?」

 「虎白さんが来いって言うんだからな。ああ、俺も同行するよ」

 「ほんとですか!」


 「石神さん! 是非私も一緒に!」

 「千鶴は剣技は関係ねぇだろう!」

 「えー、でも!」

 「お前はいらない! 御坂、どうだ?」

 「是非お願いします! 「虎眼流」の本流に触れる機会ですから!」

 「うーん、まあそうだな。できるだけ守ってやるけどな」

 「え?」

 

 やはり御坂は石神家のことは詳しくは知らない。


 「あの人ら、一年中剣を振り回して稽古している狂信者の集団なんだよ! 常識はねぇのな」

 「はぁ」

 「その気になるととんでもねぇ試練をやらされる! マジで死ぬからな!」

 「そうですか」

 

 実感は湧かないだろう。


 「じゃあ、夏休みに入ったらな。俺もスケジュールを調整するから、悪いけど俺に合わせてくれ」

 「分かりました!」


 大体話し合うことは済んだ。

 千鶴が俺に聞いて来た。


 「榊と久我はどうします?」

 「明日、二人が来るからな。そこで話してみてだ」

 「どういう話し合いですか?」

 

 「榊は「虎」の軍に入るつもりがあるかどうかだな。本人が希望するならお前たちと同じような話し合いになるよ」

 「じゃあ久我は?」

 「久我の場合は本人の意向もあるが、ちょっと確認しなきゃならないこともある」

 「どういうことでしょうか?」

 「あいつは精神が弱い。郷間に操られていたということもあるが、それ以前に弱い部分があると俺は感じた」

 「なるほど」


 千鶴にも思い当たる節はあるようだ。

 やはりそうだったか。


 「本来はあいつの能力から指揮官を担ってもらいたいところだけどな。でも、どうにも不安がある。その辺を話し合う必要があるだろうな」

 「分かりました。私も同席していいでしょうか?」

 

 俺は少し考えたが、何年も一緒にいた千鶴がいた方がいいかもしれない。


 「よし、同席してくれ。俺と千鶴、久我と榊の四人で話すか」

 「はい!」

 「ああ、柏木さんも一緒に宜しいですか?」

 「もちろんです」


 そういうことになった。


 「よし、じゃあ今日の話し合いは終わりだ」


 亜紀ちゃんがニコニコして俺に言った。


 「じゃあ、そろそろですね!」

 「あんだよ?」

 「タカさんのお話ですよ!」

 「今日は違うだろう!」

 

 「柏木さん、マンロウさん、御坂さん。ここでは毎回タカさんがいいお話をしてくれることになってるんです」

 「だからそんなものはねぇって!」


 亜紀ちゃんが拍手し、他の子どもたちも拍手し、柏木さんたちまで拍手をした。


 「おい!」

 「さあ!」


 「何話すんだよ!」

 「星蘭高校の時にタカさん言ってましたよね?」

 「あ?」

 「ほら! 修学旅行だって」

 「?」

 「ああ、言ってましたよね! 私が二年生の時だって言ったら残念がってました!」

 「あれは冗談だったろう!」

 

 「ということで、タカさんの修学旅行のお話を」

 「おい!」


 拍手が起こった。

 もう、しょうがねぇ。

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