第2290話 「カタ研」無人島サバイバル Ⅸ

 「ロボちゃん、どこに行ったのかな」


 以前に石神さんから、ロボちゃんがこの一帯の妖魔を退治してくれていると聞いた。

 今も、妖魔の接近を見つけたのだろうか。

 でも、うちにも霊素探知レーダーが備わるようになり、妖魔が来れば分かるはずなのだが。

 「ぴーぽん」からは何の警告もない。


 私はお昼にパスタを茹でて、魚介のスープパスタにした。

 ロボちゃんには夕飯で出そうと思っていたマグロのお刺身をあげるつもりだった。

 何故か今朝は食欲がないようなそぶりだったからだ。

 ちゃんと全部食べてくれたが、何か遠慮というか、躊躇している感じがした。


 「そうだ、買い物に行こう。ロボちゃんはホタテや貝類が大好きだから」


 昼食を終え、私は買い物へ出た。

 ランたちに言っておく。


 「ロボちゃんが戻ったら、すぐに中へ入れてあげてね」

 「はい、かしこまりました」

 「マグロのお刺身を切ってあるから、ロボちゃんにあげて下さい」

 「はい!」


 ロボちゃん、どこまで行ったんだろう。







 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■







 何とか気力を奮い起こし、立ち上がろうとした。

 ダメだった。

 身体に力が入らない。

 限界を超え、脳が私の身体を麻痺させていた。


 「柳ちゃん、寝てて! 私がやるから!」

 「ハーちゃん……」

 「絶対にみんなを守るよ!」

 「……」


 意識が薄れて行くのを感じた。

 もう指先も動かせない。

 僅かに耳がハーちゃんの必死に戦う音を拾っていた。

 情けない。


 何かが駆けて来るのを感じた。

 何とか目を開くと、トゲ人間だった。

 やっぱり防衛戦が緩くなっているんだ。

 何とか起き上がろうとしたが、身体が動かない。

 トゲ人間が、亜紀ちゃんを襲おうとしていた。


 「亜紀さん!」

 

 パレボレが亜紀ちゃんの身体に覆いかぶさった。

 パレボレの身体が真っ二つに裂かれた。


 「パレボレ!」


 坂上さん、壇之浦君、平君も来る。

 三人でトゲ人間を何とかしようとしたが、次々に切り裂かれる。


 「ダメ! 逃げて!」


 みんな致命傷だ!






 「あ!」


 ハーちゃんが何かに驚いて叫んだ。

 私の隣に何かが降りたような気配がした。


 何かが私の身体に擦り寄っていた。

 柔らかい毛。

 いい匂い。

 それは私の顔をペロペロ舐めている。


 「ロボ!」


 次の瞬間、暗くなった視界が物凄い光で覆われた。

 

 「!」



 ドッゴォォォォーーーン 



 凄い音が響いた。

 意識を喪った。






 気が付くと、ボートの残骸のシートの上で寝かされていた。

 みんなが楽しそうに笑っている声が聞こえた。

 身体をゆっくりと動かす。


 「柳さん!」


 陽菜ちゃんの声が聞こえ、目をそっと開いた。

 

 「良かった! 目が覚めましたか!」

 「えと、どうなったの?」


 割と意識ははっきりしていた。

 最後の瞬間に、ロボが来てくれたのか。

 みんなが駆け寄って来る。

 陽菜ちゃんが私に膝枕をしてくれた。

 ハーちゃんが私に聞く。


 「柳ちゃん! 身体は大丈夫?」

 「うん、ちょっとあちこち痛いのとだるいのだけ」

 「無理しないでね」

 「ロボが来てくれたの?」

 「うん、そうなの!」

 「パレボレや坂上君たちが……」


 みんなが私の所へ集まって来た。

 パレボレも、坂上君も、壇之浦君も平君も無事だった!

 どうして!


 ハーちゃんが説明してくれた。

 私が倒れた時に、ロボが飛んで来てくれた。

 そして目の前のトゲ人間たちをぶっ飛ばし、次に島の中心に向かって「ばーん」を撃ったそうだ。

 トゲ人間たちはいなくなり、島の中心に直径2キロ、深さ数キロの大穴が空いたそうだ。

 その直後に周囲のトゲ人間はみんな崩れて無くなった。

 

 「ほとんどのトゲ人間はね、幻影だったの」

 「えぇ!」


 どういうこと?


 「調べたけどね、海岸の周囲の黒いトゲも無くなってた。森にもね! あ、「花岡」ももう使えるよ!」

 「そうなの!」


 良かった。


 「ロボは?」

 「うん、すぐに帰った」

 「そうなんだ。お礼を言いたかったけどなー」

 「帰ったらね。本当にロボのお陰で助かったよ」

 

 私は考えていた。


 「ねぇ、ロボにはここのことが分かってたのかな?」

 「え?」

 「ここに誘った時に、ちょっと様子がヘンだったような気がして」

 「あー、床をこすってたよね?」

 「ここが汚い場所って分かってたんじゃないかな」

 「そっかぁー!」


 そんな気がする。

 ルーちゃんと亜紀ちゃんも目を覚ました。

 みんなが喜んだ。

 みんなで食事をした。

 前線で戦っていた私たちに、ナンを2枚食べさせてくれ、お菓子も優先で分けてくれた。

 みんなで戦ったのだからと言い、ナンはもらったが、お菓子はみんなで食べた。


 ハーちゃんが言った。


 「多分ね、ここは大きな妖魔の巣だったんじゃないかな」

 「え?」

 「狡猾な奴だよ。結界を張るまでの力は無かったんだけど、多分精神操作に長けてた」

 「どういうこと?」


 ハーちゃんが説明した。


 「あのね、私たちに、地球と切り離されたと思い込ませたの」

 「なるほど!」

 「後で気付いたけどね。どうしても精神支配を解けなかった。今後の課題だね」

 「うん。今度は負けないよ」


 食事の後で、みんなで確認に行った。

 黒いトゲが剥がれ、森の木々が見えていたがほとんどは倒壊していた。

 私と亜紀ちゃんとハーちゃんで、ロボが空けた大穴を見に行った。


 「スゴイね」

 「この下に妖魔がいたのかな」

 「多分ね」


 穴の周辺に降りる。


 「トゲ人間って、どれくらいいたんだろう」

 「多分、せいぜい100以下」

 

 ハーちゃんが言った。

 私と亜紀ちゃんが驚く。

 ほとんどが幻影だったのだと、また説明した。


 「え!」

 「そんな!」

 

 ハーちゃんが笑っていた。


 「多分ね、最初に亜紀ちゃんが島の建物で戦った数体は本物。でもその後で私たちが「花岡」が使えないと思い込んでからは、全部幻影だったんじゃないかな」

 「そんなバカな! あれだけ必死に戦ってたんだよ!」

 「うん。私たちが疲労で倒れてから、残りの本物が来たかもね。騙されたね!」

 「「もう!」」


 でも三人で笑った。

 

 時間はもう夕方になっていた。


 「これからどうする?」

 「「虎」の軍をルーが呼びに行ってる。ここの調査も必要だからね」

 「私たちは?」

 「もう一泊だね」

 「まだここにいるの!」

 「だって、サバイバルキャンプしてないじゃん」

 「ハーちゃん!」


 ハーちゃんが笑った。


 「大丈夫だよ。今日はみんなでバーべキューをして寝るだけ。「虎」の軍がいるから安全だよ」

 「でもなー」

 「私はどこでもいいよ。とにかくお腹減った」


 また三人で笑った。

 まあ、いっか。


 「食糧は?」

 「ルーなら抜かりないよ」

 「パレボレに美味しい物を食べさせてやろう!」

 「うん、そうだね。パレボレのお陰でいろいろ助かったよね」

 「そうだそうだ!」


 浜辺に帰ると、もう「虎」の軍が「タイガーファング」で到着していた。

 ソルジャーが50人と、10人の調査隊、デュールゲリエが200体、それに私たちの大量の食糧が降ろされる。

 バーベキュー台も5台あって、みんなですぐに食事の用意をした。

 みんなで美しい夕陽を観た。


 みんな空腹だったので、どんどん食べた。

 最初のバーベキューはパレボレの持って来たナンに挟んで食べて、みんなでパレボレに感謝し、美味しいと言った。

 パレボレが恥ずかしがっていた。


 みんな疲れていたので、食事を終えるとすぐに眠った。

 アラスカからエアマットと毛布を持って来てくれ、快適に眠った。

 一応見張りを立て、それは石神家で担おうとしたが、デュールゲリエがやってくれると言った。

 私たちはお任せすることにし、ルーちゃんが買って来たビールを飲んだ。


 「何とか生き延びたね」

 「絶対にって言ってたもんね」

 「みんな頑張ったよね」

 「「カタ研」の全員でね」


 真夜ちゃんと真昼ちゃんが勇敢に戦ってくれた。

 ジョナサンは一歩も退かずに最後まで前線に立ってくれた。

 戦う力の無い坂上さん、上坂さん、壇之浦君、平君、パレボレが、後ろでライトを照らし続けてくれた。

 陽菜ちゃんと茜ちゃんも怖かったろうに、負けずにみんなに水と食事を配っていた。

 みんなが一丸となって戦ったから生き延びたのだ。





 翌朝に「タイガーファング」で竹芝桟橋まで送ってもらい、家に帰った。

 「カタ研」のみんなを誘ってまたバーベキューをした。

 その前に私たちはすぐに早乙女さんのお宅へ行き、ロボに熱烈な感謝をした。

 何も知らなかった早乙女さんに事情を話すと驚かれた。


 「そんなことになっていたのか!」

 「ロボに助けられました」

 「そうだったか」

 

 ロボにマグロ大会を開き、ロボが喜んだ。


 後に「黒神島」のことが分かった。

 あそこでは軍の妖魔召喚の実験が行なわれていたようだ。

 多分、道間家と何か関りのある人間がいたのだろう。

 しかし実験は失敗し、島ごと見捨てられた。

 戦後の混乱の中で、あの島は放置された。

 

 地元の漁師はあの島に近づかないようにしていた。

 何人かあの島の近くで行方不明になっていたそうだ。





 「カタ研」の集会で、毎回パレボレに一番美味しいものが渡されるようになった。

 パレボレは遠慮して困っている。

 でも、みんながそうしたがった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る