第2230話 《ハイヴ》襲撃
「虎蘭(こらん)! ちょっと来い!」
「はい!」
長い髪を後ろで束ねた虎蘭が走って来る。
顔は高虎に似て美しい。
年齢は25歳で若いが、新たに剣士になった人間の中では優秀だ。
「高虎から連絡があった。今度、ブラジルのジャングルで妖魔の掃討戦がある」
「はい!」
「お前にも同行させるからな」
「え、本当ですか!」
虎蘭の顔が輝く。
女ではあるが、やはり石神家だ。
闘いが何よりも好きなのだ。
「お前も最近、どんどん伸びているからな。この辺りで実戦を経験しておけよ」
「はい! ありがとうございます、虎白さん!」
「ああ、頑張れよな」
虎蘭が嬉しそうに鍛錬に戻っていく。
剣聖の虎月が相手になっている。
虎月が虎蘭を随分と買っており、努力とセンスの良さを褒めていた。
石神家の剣士は、ほとんどが男だった。
それは、体力的に男性の方が優位であるためだが、女が剣士になった事例が無いわけではない。
石神家の血は、男女を問わずに発動する。
時に、女性の身で男性を遙かに上回る者もいた。
昔、当主になった女もいる。
その人間も「虎蘭」という名前だった。
虎蘭はその話を知り、自分も剣士になるべく、修行を続けていた。
そして、先日ついに剣士として認められた。
「虎名」を付けるにあたり、本人が「虎蘭」を望んだ。
反対する者もおらず、誰もが虎蘭の努力と練り上げた剣力を知り、「虎蘭」が与えられた。
虎蘭は、一層鍛錬にのめり込んだ。
若い剣士の中で、頭一つ抜けている。
きっとそのうちに剣聖にもなるだろう。
才能と努力を兼ね備えた人間だった。
顔は高虎に少し似ている。
高虎の子ども時代を知っているが、女のように美しい顔だった。
後に高虎は男性らしい要素が加わって行ったが、虎蘭はあの時の高虎の顔のまま成長したようだ。
非常に美しい。
背も高く、180センチ以上ある。
骨格も太く、やせてはいるが逞しい身体をしていた。
長い髪を後ろに束ねて、剣を振るっている。
剣までが美しい動きで、虎蘭の心が顕われているようだった。
一度高虎にも会っており、虎蘭は高虎に一遍で憧れた。
虎蘭も高虎の高さが分かったようだ。
人間には辿り着けない領域だが、それが虎蘭の憧れになった。
また一層、虎蘭は鍛錬に励むようになった。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
高虎から連絡があったのは、4月の下旬だった。
「虎白さん、また戦場を頼みます」
「おうよ!」
「今度はブラジルです。アマゾンの大ジャングルですよ」
「そうか!」
「「業」の《ハイヴ》らしい施設を発見しました。「御幸5号」の情報です」
「はいぶ?」
高虎が、ジェヴォーダンやバイオノイド、それにライカンスロープなどを飼育研究している施設のことだと説明した。
「大きな施設です。それに、恐らく周辺は妖魔がガードしている。施設そのものもです」
「そうか」
「敵戦力は、恐らくジェヴォーダン100、バイオノイド1000、妖魔は未定です」
「バイオノイドってなんだ?」
「改造人間です。通常の人間よりもずっと速く力もある。恐らくは知性も。武器も操りますよ」
「ほう」
「「花岡」も使います」
「そうかよ」
高虎は作戦の概要を話した。
「最初に殲滅戦装備のデュールゲリエで施設と周辺を空爆します」
「そうか」
「虎白さんたちは、自由なタイミングで入ってください」
「なんだよ、そんなほんわかした作戦なのか」
高虎が言った。
「あのですね。虎白さんたちって、俺の言うこと聞きませんよね?」
「ワハハハハハハハ!」
まあ、その通りだ。
それに、戦場は刻々と変化する。
「それと、ヤバい時には撤退して下さいね」
「なんだよ」
「俺たちも何度もそういう場面があったんです。幸いなんとか突破しましたが、撤退した方がいい場合もあります。絶対に今落とさないといけない施設ではないんで」
「わかったよ。でも、その時はどうすんだ? 走って逃げんのかよ」
「聖の部隊が待機してます。聖がすぐに突っ込んで、同時に「タイガーファング」が回収に行きます」
「そうか、分かった。じゃあその流れでな」
大体把握した。
高虎の話は分かりやすいし、余計なことも言わない。
だから俺もすぐに自分なりに組み立てることが出来た。
「はい。人選は虎白さんにお任せしますよ」
「ああ、40人ほどで行くよ。半分は残す」
「そうですか。え、また増えましたよね?」
「若い連中を中心に行く。戦場を経験させたいからな」
「お願いします」
高虎は俺らのことをよく考えてくれている。
最初にデュールゲリエに攻撃させるということも、敵戦力や迎撃の様子を探らせて、俺たちに少しでも安全な強襲をさせたいのだろう。
撤退の話もそうだ。
もしも予想外の反撃があったのならば、撤退して次回の攻略法を考える。
基本、足で動く俺たちを心配してのことだ。
その後、作戦は5月の4日に決まったと高虎から連絡があった。
「もっと早くてもいいぞ? 俺らはいつもうずうずしてんだからよ」
「いや、俺が丁度休みなもんで」
「なんでお前の休みに合わせんだよ」
「仕事中だと、万一があったら飛んで行けないじゃないですか!」
「お前なんかいらねぇよ」
「虎白さん!」
「まあ、簡単にぶっ潰してやっから、のんびりしてろ」
「もう!」
高虎の奴、どこまでも俺たちのことを考えてやがる。
まあ、石神家の当主であり、「虎」の軍の最高司令官だ。
いろいろ考えちゃみるんだろう。
だから、せめて俺らは負担になりたくねぇ。
高虎が行けと言えば、戦場を平らげて来る。
そう高虎に思ってもらえるようにしなきゃな。
俺は剣士を集めて、作戦の決行日と連れて行く人間を言い渡した。
「作戦名は「オペレーション・ブローウィング」、穴掘り作戦という意味だ」
高虎からいろいろと説明は受けているが、うちの連中は何も考えないで突っ込む。
だから俺も資料は置いて、好きな奴が見ればいいようにした。
虎蘭が熱心に読んでいた。
まったく真面目な奴だ。
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