第2228話 久し振りの御堂家 Ⅴ

 シャワーを浴びて、オロチのべとべとを洗い流し、庭に戻った。

 浴衣に着替えている。

 御堂が心配して駆け寄って来た。


 「石神、大丈夫か?」

 「まったく、こいつのとばっちでよ!」

 「タカさん! 私のせいじゃないですよ!」

 

 柳が駆け寄って来る。


 「亜紀ちゃん! ごめんなさい!」

 「もう絶対にやめてくださいね!」

 

 亜紀ちゃんも半笑いで許していた。


 「亜紀ちゃん、私が柳ちゃんに頼んだの!」

 「柳ちゃんは嫌がってたんだよ!」


 双子も来る。

 

 「もういいよ。なんか、貴重な経験みたいのもしたし」

 

 みんなが笑った。


 「俺はとばっちりだぁ!」


 子どもたちが謝って来た。


 「しかし、凄いよね。興奮した亜紀ちゃんが黙っちゃうんだから」

 「そうだよなぁ」


 オロチはまだいて、ニジンスキーたちも集まっていた。

 俺が一匹ずつ頭を撫でてやる。

 どれが誰だか分からん。

 四色に分かれているので、今度亜紀ちゃんに確認しよう。

 まあ、どいつもカワイイのだが。


 澪さんが酒の用意を始め、俺たちと入れ違いに風呂に入って来た正巳さんと菊子さんも来る。

 子どもたちがつまみになりそうなものを集めてきた。

 子どもたちのバーベキュー台のものは野菜類以外は全てなくなっているが、俺たちのまともな人間台の方は結構余っていた。

 ルーとハーが中心になって焼き物や炒め物を作っていく。

 まあ、ほとんどがうちの子どもたちのために用意したようなものだ。

 俺は薪を貰って焚火を作った。

 照明の替わりだ。


 皇紀と双子は大人しくジュースを飲む。

 正利も一緒だ。

 うちで持って来た千疋屋のフレッシュジュースだ。

 いつものように、でかいアイスペールに瓶を入れている。


 大人たちは俺が持ってきた菊理媛を飲んだ。

 澪さんが燗にしてくれる。

 ゆっくりと飲むためだ。

 御堂が先ほどの柳の催眠術を褒めた。


 「柳の催眠術は凄いね」

 「もう、お父さん、やめて!」

 「俺も驚いたよ。ほとんど用意がなく掛けられるようになったんだな」


 催眠術は相手をリラックスさせ、こちらを信頼させなければ難しい。

 だから静かな空間で目を閉じさせ、身体に触れてリラックスさせながら暗示を掛けて行く。

 柳が先ほど実演したのは、一瞬でそういう状態に出来る、ということだった。

 そんなことが出来るのは、果たして世界に何人いることか。

 相当な才能だった。


 「練習はしましたけど。上手く行くかどうかは分からなくて」

 「誰かで実験しなかったのか?」

 「多少は。友達とかで」

 「あー! 柳は友達一杯いるもんな!」


 亜紀ちゃんが俺を睨んでいる。


 「別にお前のことは言ってないじゃん」

 「私もお友達、たくさんできましたもん!」

 「あー、「カタ研」な」

 「ほ、ほかにも……」

 「誰よ?」

 「え、皇紀とか……」

 「兄弟じゃねぇか!」


 みんなが笑う。


 柳は他人と仲良くなるのが得意だ。

 親しい人間は俺たちの事情のために敢えて限定しているが、本来は誰とでも親しくなり、幾らでも友達は出来る。

 うちの連中がちょっと変わっているので、逆に柳が浮くことも多いが。

 でも、亜紀ちゃんたちももちろん柳のことは大好きで、大事にしている。

 あの獣の食事の最中も、柳には手加減し、亜紀ちゃん以外はちゃんと肉とか渡している。


 「石神さんが来ると、本当に驚くことばかりだよ」

 「本当にすみません!」


 俺が立って正巳さんに頭を下げ、みんなが笑った。


 「今回は特に、あの《ミトラ》だね」

 「あれは、まあ」

 「オロチがいきなり石神さんを呑み込んだのも、《ミトラ》のこともあるんじゃないかな?」

 「あぁ! そうかもしれませんね!」


 オロチは独自の超感覚で、俺が持ってきたものを感じていたのかもしれない。

 オロチが名前が出たからか、俺の背後に近づいてきた。

 亜紀ちゃんが緊張する。

 ニジンスキーたちが、俺の足から登って来る。

 俺の腹や肩を這い回り、巻き付いて行く。

 一匹、俺の頭に上ってとぐろを巻いた。

 両腕と首と頭。

 立ち上がってゆっくり一周して回ると、ニジンスキーたちが喜んだ。

 まあ、本当は分からんが。


 「タカさん、なんかショーで食べて行けそうですね」

 「やめれ」


 御堂が俺を見て、笑いを堪えていた。

 澪さんも俺と目を合わせようとしない。


 亜紀ちゃんにギターを持って来るように言った。

 柳と一緒に家に入り、すぐに抱えて戻って来た。

 亜紀ちゃんがニコニコしている。


 「さー! CD3枚目の練習ですね!」

 「違ぇよ!」


 俺はニジンスキーたちを足元に移動し、『ベルガマスク組曲「月光」』を弾いた。

 そして『遠き山に日は落ちて』を歌う。

 モモが好きだった歌だ。

 この土地によく似合う。

 だから、何となく思い出して歌った。

 もう辺りは暗くなっている。

 バーベキュー台と、俺が作った焚火の灯だけだ。


 オロチが後ろから俺の頭に近寄り、顔を舐めて来た。

 ニジンスキーたちも、俺の足をまた昇って来て顔を舐めてくる。


 「お前ら、なんだよ!」

 

 みんなが笑って見ていた。

 気に入ったのか。


 「石神は誰にでも好かれるね」

 「そんなことはねぇ!」


 御堂がちょっと遠い目をした。


 「ん? どうしたんだ?」

 

 俺を見て微笑んだ。


 「いや、ちょっと思い出してね」

 「そうか」


 俺はそのまま流そうとしたが、亜紀ちゃんが許さなかった。


 「御堂さん、話して」


 俺が頭を引っぱたいた。


 「御堂に生意気言うな!」

 「いいよ、石神」


 御堂が笑っていた。


 「そろそろいいだろう。別に誰かに止められていたわけでもないしね」

 「なんだ?」






 御堂があの優しい声で、静かに話し出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る