第2218話 新人ナースのマンション Ⅲ
3日後の土曜日。
麗星から届いた御札を持って、赤城も一緒に4人で出掛けた。
双子を紹介し、お互いに挨拶した。
「二人とも美人さんですね!」
「そうだろう!」
「「ワハハハハハハハ!」」
一瞬で打ち解けた。
まあ、双子は誰とでも仲良くなるし、赤城もいい奴だ。
ハマーを出す。
「スゴイ車ですね!」
「うちのファミリーカーなんだよ。家族が多いもんでな」
「そうなんですか!」
赤城を助手席に乗せ、後ろのシートに双子が座る。
「赤城さんのお部屋って、何かあるの?」
ルーが聞く。
「ああ、ちょっと変わった素敵な部屋なんでな。お前たちも一緒にな!」
赤城が話そうとするので、俺が遮って言った。
ここで騒がれると面倒だ。
「「そうなんだー」」
ヘンに思ってるだろうが、まだ大丈夫だ。
俺が他の話題で盛り上げ、楽しくドライブした。
40分後に、赤城のマンションに着いた。
8階建てで、120世帯が住んでいるそうだ。
大きなマンションだった。
最上階に大家のペントハウスがあるらしい。
4階に上がる。
「ここです」
赤城が鍵を開け、俺たちを案内した。
「「!」」
流石に気付いたようだ。
霊能者め。
「タカさん! ここって!」
「あー! また騙したんだぁー!」
「うるせぇ!」
もうその時には、「Ωワイヤー」で二人を俺に繋いでいた。
赤城が驚いて俺たちを見ている。
赤城は何のことか分からないでいたが、リヴィングへ案内し、コーヒーを淹れてくれた。
一服している間、俺にも雰囲気が感じられた。
まだ昼間のせいで、それほどでもないが。
「じゃあ、やるか」
「タカさん、それは?」
「ああ、麗星に頼んで作ってもらった御札だ」
「なんだよ! じゃあ私たち必要なかったじゃん!」
「怖ぇだろう!」
「「もう!」」
俺たちの遣り取りで赤城が少し笑った。
俺は麗星に言われた通り、御札の裏側に糊を塗って東に向く壁に貼った。
ドッドォーーーーン!
突然爆発音のような音がし、大きなマンションが激しく揺れ始めた。
「おい、なんだ!」
「「タカさん!」」
「石神部長!」
揺れは2分程も続いた。
ルーがスマホで地震情報を探ったが、やはり何も出ていなかった。
大勢の人間が騒いでいる声が聴こえて来た。
部屋から飛び出しているのだろう。
しばらくして、マンションのドアが激しく叩かれた。
チャイムがあるのだが、使わない。
俺がドアを開けた。
「赤城さん! 何をしたんですかぁ!」
「大家さん!」
大家のようだった。
顔を真っ赤にして怒っている。
「何をしてくれたんだぁ! あぁ! これでまたぁ!」
「大家さん、何があったんですか!」
「あんた、ここでお祓いをしたでしょう!」
「え?」
俺は興奮する大家を中へ入れた。
赤城がコーヒーをすぐに淹れて来てソファに座った大家の前に置いた。
「あぁー! 僕が話して置かなかったからかぁ!」
「あの、大家さん、どういうことですか?」
大家はカップを握りしめたままで言った。
「ここはね、お祓いの度に霊が増えるんだよ」
「「「「えぇ!」」」」
「しかもね、今回のは相当不味い」
「なんですか!」
「お祓いをすると、大きな音がするんだ。それで分かるんだけど。今回はマンション全体が揺れたよね? 音も今まで聞いたことも無い大きな音だったよ!」
「「「「……」」」」」
大家はうなだれていた。
「ああ、もう終わりかもしれない……一体これからどんなことが起きるのか……」
俺のせい?
「あの、ちょっと連絡してみますね?」
大家は一瞬俺を見たが、興味を喪ったようにまたうなだれた。
「だから他人に貸したくなかったんだ……」
小さな声で呟き始めブツブツ言い始めた。
麗星に電話した。
「おい、あの御札を貼ったらでかい爆発音がして……」
状況を話した。
お祓いのたびに霊が増えていくのだということも。
「申し訳ありません! そういうものでしたか!」
「おい!」
「立体交差のインターチェンジでございました!」
「なんなんだ?」
霊道の話らしい。
霊たちの通る道があるらしく、一部では稀にそれが複雑に交差しているということだった。
マジかよ。
「そういう場所では、一部を堰き止めるお祓いなどの行為が、何らかの予想外の現象を引き起こすのです」
「なんだと!」
「これまでも、恐らく。出口を喪った霊がそこに溜まっているのかと」
「どうにかしてくれよ!」
「申し訳ありません。お話を伺うと、相当大規模なインターチェンジのようでして」
「おい!」
麗星にも手が出せないらしい。
「最後の手段かー」
俺が呟くと、双子が騒ぎ出した。
「たっくさんいるよ!」
「ギュウギュウだよ!」
「ここだけじゃないよ!」
「なんか、でっかいのもいるよ!」
俺には見えないが、増えたどころの騒ぎではないらしい。
何となく俺も赤城も大家も感じ始めた。
なんか一杯いる。
「クロピョン!」
リヴィングにいきなり真っ黒い触手が現われた。
「ここにいる霊を全部消せ! 霊道のインターチェンジを遠く離せ!」
触手が「〇」を描いて消えた。
赤城と大家が驚いている。
クロピョンの触手が見えたのだ。
次の瞬間、マンションが真っ暗になった。
一瞬無数の触手が窓の外に見えたが、暗闇に閉ざされ、俺以外は見ていない。
闇になったので、赤城と大家が慌てる。
「すぐに終わりますから!」
10秒ほどで明るさが戻った。
「これで大丈夫ですよ!」
部屋の空気が違った。
清々しい感じになり、先ほどが如何に淀んでいたのかを反対に実感した。
大家が呆然としたまま俺に聞いた。
「あ、あの、これで本当に?」
「ええ、俺が保証します」
「あなたは優秀な霊能者なのですか?」
「はい!」
面倒なのでそういうことにした。
大家は信じられないという顔をしていたが、実際に信じられないものを目にしていたのだ。
俺はソファに右足を乗せ、膝に乗せた手で顎を支えた。
カッチョイイ姿に見えるに違いない。
大家はそんな俺をジッと見ていた。
やったね。
その後高木が都立大学駅でいい物件を手配してくれ、赤城はそこへ引っ越した。
もう大丈夫だと言ったのだが、赤城はあのまま引っ越しまで俺の手配した中野の家に住み、学芸大のマンションには戻らなかった。
赤城の引っ越し後、大家が自分であの部屋で寝起きしてみて、本当に何もなくなったことを喜んだ。
赤城の次のマンションの引っ越し費用と次の部屋の敷金礼金まで出してくれ、感謝していた。
優しい方のようだった。
赤城は希望通りにオペ看になった。
鷹を心酔し、二人が姉妹のように仲良くなった。
「赤城! オチンチンが痒い!」
「え! は、はい!」
鷹が笑って赤城を止めた。
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