第481話 鷹との別荘 Ⅲ
「あの日、阿久津先輩と一緒に見た炎は忘れないよ」
「ちょっと悲しいけど、美しいお話ですね」
「そうかな」
「そうです」
「俺はいつも何も出来ないんだ。自分が凄い人間だなんて思ったこともないけどな。でも、あまりに情けない」
「そんなことありません」
「そうかな」
「そうです」
「じゃー、そういうことにしよう! 鷹、俺ってすげぇのかな!」
「アハハハ、本当にそうですよ」
「でもな、真面目な話。大事な人間のために、なんとかしたいっては思ってる」
「はい、そうですね」
小雨が止んだ。
雲の隙間から、美しい月が顔を出した。
「山岸先生のことだって」
「ああ、山岸なぁ」
「あんなに一生懸命にやってらしたじゃないですか」
「あんなの。上司として当然だ。むしろ今まで何もしてこなかったことが申し訳ないばなりだよ」
「石神先生は頑固ですね」
「お前も大概な」
二人で笑った。
俺たちは片付けて寝ることにした。
「今日はちっちゃいお化けだっけか?」
「いえ、ちょっとだけ大きくないお化けがいいです」
「分かった」
俺たちは愛し合った。
鷹の美しい裸身が、月に照らされた。
翌朝。
目が覚めると、また鷹がいなかった。
リヴィングへ行った。
「おはよう」
「おはようございます」
鷹が微笑みながら挨拶してくれた。
「すぐに用意ができますから」
「ああ。食材は余ったかな?」
「少し。持ち帰りましょう」
「そうだな」
俺も冷蔵庫を見た。
大丈夫だ、積めるだろう。
焼き鮭。
里芋の煮物。
納豆。
目玉焼き。
レタスのサラダ。
味噌汁は豆腐とネギだった。
鮭には程よく脂がのっている。
俺が美味いと言うと、鷹がもう一切れ焼いてくれた。
二人で、簡単に掃除をし、シーツなどを洗って干した。
「じゃあ、帰るか」
「はい。本当に楽しかったです」
「俺もだ。また来ような」
「はい、必ず」
俺たちはアヴェンタドールに乗り込み、出発した。
鍵は後で郵送するので、中山夫妻には会わない。
帰りの車で、また楽しく話した。
「そうだ。鷹はまだロボに会ってないよな?」
「はい。ネコを飼い始めたのは知ってますが」
「じゃあ、ちょっと俺の家に寄れよ。紹介しよう」
「是非」
家に着いたのは、丁度昼時だ。
事前に連絡し、ウナギを取るように亜紀ちゃんに頼んだ。
「一人一人前ですよね?」
「良い子は二人前でもいいぞ」
「分かりましたぁー!」
アヴェンタドールをガレージに入れ、玄関を開けるとロボが飛び込んで来た。
俺の車の音を覚えたらしい。
鷹を見ている。
リヴィングで、響子たちと同じ儀式をする。
鷹をソファに座らせ、ロボに匂いを覚えさせる。
「ロボ、俺の大事な恋人なんだ。仲良くしてくれな」
ロボが鷹の肩に前足を乗せ、頬を舐めた。
鷹が喜んでいる。
亜紀ちゃんがコーヒーを持って来る。
ロボの儀式が終わるまで待っていたのだ。
「何も変わったことはないか?」
「はい、大丈夫です。タカさんたちは?」
「ああ、でっかいお化けが出たな」
俺が鷹に向かって笑って言った。
鷹がちょっと赤くなっている。
「「エェッーーー!!」」
双子が後ろで大声を出した。
「タカさん、アレを見たの!」
「平気だったの?」
「なんだよ?」
「だって、アレって相当でかいでしょ?」
「うん。山よりも大きいじゃん!」
「なんだよ、だから」
「あ、でもタカさんのことは気に入ってるって言ってた」
「そうだけど、アレはヤバイよ、やっぱ」
「おい、お前ら。俺がでっかいお化けって言ったのは冗談だからな」
「「エェッーーー!」」
「一体何の話をしてるんだ?」
「え、なんでもないよ」
「だから冗談だって」
双子は勉強を始めた。
ロボが大きな口を開いてあくびをした。
俺はロボの身体を撫でた。
どうやらとんでもないものが、別荘の近くにはいるらしい。
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