第72話 栞、告白 激辛
六花を連れてリヴィングへ戻ると、双子はもう部屋へ下がっていた。
時間は夜の十時を回っている。
俺は亜紀ちゃんと皇紀にも風呂に入って寝ろと言った。
亜紀ちゃんは、最高のクリスマスでした、と俺に礼を言い、皇紀もありがとうございましたと頭を下げた。
「じゃあ、大人たちだけになったことだから、ちょっと飲むか」
「!」
栞の顔が変わる。
「いや、やめておこう」
「エェッー!」
子どものように頬をふくらませ、だだを捏ねる栞に笑い、俺はワイルドターキーを取り出した。
栞と六花に水割りを作ってやる。
「ええー、割っちゃうの?」
大いに不満そうだったが、俺は無視。
「丸い氷なんてあるんですね」
六花はグラスを掲げて珍しそうに見ていた。
「ああ、そういう製氷器があるんだよ」
俺は冷凍庫から取り出して見せてやった。
「なるほど」
俺は普段は自分でクラッシュしたものが好みだが、女性にはこういうものもいいだろう。
亜紀ちゃんもその存在を知ってから、もっぱら梅酒に入れている。
「花岡さんはお酒がお好きなんですね」
六花が言う。
「花岡さんは好きなんてもんじゃねぇ、なぁ」
「もう、石神くん、やめてよぉ」
俺は栞のあたふたが面白いので、先日の醜態を六花に暴露してやった。
栞は何度も止めに来たが、無視。
六花は笑いながら言う
「じゃあ、花岡さんは結構力が強いんですね?」
「え、うん、まあね」
栞は長身だが細身だ。
胸は凄いが。
「そういえばそうだよな。どうしてその細い身体で、柔道部だった大森を押さえつけられるんだ」
「え、あのね。私合気道四段なの」
「「エェー!」」
俺たちは驚いて大きな声を挙げた。
そうだったのかよ。
「うん、でもね、正確に言うと違うの」
「「ん?」」
「それは他所の道場のもので、本当は私の家は古流武術の家系なのよ」
「「!!!!!!!!!」」
「だから子どもの頃から、両親やお祖父ちゃんに教わってきたのね。父からは「流派始まって以来の天才」なんて言われてたこともあるんだ」
俺と六花は理解が追いつけないでいた。
六花は喧嘩が好きだった。
だから強さというものに反応して、何気なく栞に言ったのだろう。
とんでもない闇を掘り起こしたように感じた。
「え、二人とも、なによ」
固まっている俺たちに、栞が言う。
「ああ、いや。ちょっと驚きを通り越したからな」
「びっくりしました」
「あのね、この話はどうか他の人にはあんまり……」
自分が思わず告白してしまったことに気付き、栞は必死で言う。
ああ、一江に電話してぇ、一江に電話してぇ、一江に電話してぇ。
「それにしても、その細い身体で、どうしてそんなに強いんですか?」
「いえ、石神くん、私は決して力は強くないのよ、ね?」
力は、かぁ。
「ただ、自然に身体が動いちゃうっていうか、どうやったら押さえ込めるとか関節を極められるかとか外せるかとか分かるだけだから」
外しちゃうのかよ!
「ほら、合気道って相手の力を使って投げたりするじゃない。あれのもっと実戦的なのがうちの流派なのね」
「「……」」
「うちは本来、「砕き」っていう、関節を極めるよりも骨ごとバキバキいくのが本来だから」
「「!!!!!!!!!!!!!!!!」」
「あ、でもね、でもね、父からも絶対に他人に見せるなって言われてるの。だから子どもの頃から誰かに使ったことはほとんどないからね!」
使ったことあんのかよ!
「うちの流派は暗殺拳だから」
「「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」
子どもたち、特に亜紀ちゃんを寝かせておいてよかった。
俺が学生時代、栞はよく俺の喧嘩を見に来ていた。
そして、俺の喧嘩が美しいと言っていた。
その謎が解けた。
サンシャイン・ビルで、分厚いテーブルを真っ二つにしていたのは、栞の「暗殺拳」の技だったのだろう。
人死にが出なくて良かった。
「花岡さん、すいませんっした!」
「え、何を謝ってるの?」
「それにしても、花岡さんみたいなお綺麗な人がまさか……」
「お前が」「あなたが」
「「一番綺麗だよ!」」
俺たちの大声に六花は目を丸くした。
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