第38話 アキラ 早業救出劇
あの三人組に違いないアキラは夜中にも関わらずホテルに宿泊費を前払いして荷物を置いたままホテルを出て車に飛び乗った。
しかし何処をどう探せばよいのか時間は深夜の二時、街は人の通る姿もなく時おり車がすれ違うだけ。
あせったアキラは『やっぱり一人にするのじゃなかった』と後悔した。
数時間も湯の街を探したが、まったく分からない。まして深夜に、その辺にタムロしている筈もなく。アキラは駅の前に行ってみたが夜中に電車が運行されているわけもなく、こちらも手がかりは皆無だった。
アキラは、まさか組の姉御なら殺されることもあるまい。そう思ってホテルに引き返した。
翌日の早朝、ホテルに話して彼女の荷物を持って行く承諾を得てアキラは有馬温泉に別れを告げて再び車を走らせた。本来なら旅での知り合い探す義務はないのだが高知にいる友人の所まで連れて行く約束がある。きっと彼女はアキラに助けを求めている。アキラは応えた。それも「まっかせなさい」とアキラは男で御座る約束は命をかけても守る。もう任侠の世界だなぁ、アキラ男だねぇ
約束を守りたくても、何処に消えたか連れて行かれたのか見当もつかない。
閃いたぁ。そうだ真田小次郎のインチキ占いに聞いてみよう。
こうなったらワラにでも縋りたい気分だった。早速とっつぁんの携帯電話にコールする。しかし出ない、三回電話してやっと受話器から声が聞こえた。
それも迷惑そうに「だれ?!……」と来た。
「とっつぁん俺だ! アキラだよっ。なんだ寝ていたのかぁ」
「誰かと思えばアキラかぁ、あんなぁこっちは夜中の商売だ。まだ眠ったばかりなのに一体どうしたんだ」
「そうか、とっつぁん悪かった。朝だと思ったが熟睡している時間だな。起きたついでに悪いんだけど頼みがあるんだ」
「なんだい頼みって、金が以外だったら相談に乗るがな」
「ヘヘッ、とっつぁんらしいや。でさぁ頼みは人を探しているんだけど。それを占って欲しいだ。とっつぁんは都内一の占い師だから」
アキラは心にもない事を言って受話器の前で、笑みを浮かべた。アキラは簡単な、経緯と松野早紀の特徴を話した。真田は少し時間を置いて電話を掛け直しと言って一度電話を切った。
十分ほどして電話がアキラに掛かって来た
「あぁ分ったぞ。たぶん京都じゃ! 近くにお寺がある」
「とっつぁん、なに言ってるんだ! 京都は寺ばっがりじゃねぇか」
「おう、そうじゃったなぁ……川が交わった辺り……その辺だ」
「そっそうか? 他には? 建物の特長とか」
「そこまでは分かんないよ。そうだアキラ浅田美代って人を知ってっか?」
「美代さんの事か知っているよ。ホラ俺の為に社長に取り入ってくれた人だよ」
「その人が俺とアキラが知り合いだと、どこで聞いて来たのか電話があって」
「ほっ本当か! それでなんて言ったんだい」
「今、旅に出ているって言ったよ。携帯の番号教えたけど、不味かったかなぁ」
「ヘヘッとっつぁん気が利くじゃないか。ありがとうよ。じゃ又電話する」
おもわぬ朗報だった。アキラは心の中で彼女の事がモヤモヤと燃え上がっていた。
真田小次郎の占いはあまり信用出来ないが人間は信用できる。しかし今は真田を信じて、また逆戻りして京都に向うしかない。アキラは車に備え付けてあるカーナビを見た。
京都の川が流れている所、そして川が交わっている場所……今出川・出町柳この辺しかなかった。アキラは目的地をナビに登録して京都へと車のスピードをあげた。
車は今出川通りに差し掛かった。左に京都大学、右に知恩寺が見える。
そこを過ぎたら私鉄の出町柳の駅がある。その先に鴨川? あった! ここで川が交差している駅、駅? もしかしたら。アキラは車を端に寄せると駅に走った。
辺りを見渡した……居ない? ……いや何処かで見た顔が? 居た! あの時の三人組の一人だ。まさに奇跡。いや天才真田占い師様。今はそんな気分だ。
アキラは、その男の後ろに廻り背中越しに肩を抱いた。仲間のように「おい俺だ」
男は驚いて声をあげそうになったが。仲間どころか、あの時の大男が不気味な笑みをして立っていた。
「オイッ元気か! 動いたらこの場で絞め殺しぜっ」
その一言で男はおとなしく首を縦に振った。蛇に睨まれた蛙と同じだった。まさか、まさかの大当たり。真田小次郎の占いが当った。大まぐれか、はたまた神業か。
占いは当るも八卦、当らぬも八卦と云われる。それが当ったのだから、不思議と云えば不思議だ。
「オイッ、姉さんは何処に居るんだ。案内しろ!」
どうして分ったのか、男は信じられない表情でコクリと頷いた。
アキラの怖さは充分に知っている男は逆らうことさえ出来ず素直に歩き始めた。
居た! この男の仲間一人が時刻表を見ている。長崎までの特急の時間を調べているのか? もう一人が松野早紀の腕を抑えている。早紀は顔を強張らせている。
アキラは小走りに二人に近づくと電光石火の如く早紀の手を取っている男の腹に強烈なパンチを浴びせた。駅には二十人ばかりの人が居た。余り見せたくない光景だ。アキラ男を殴っておいてこう言った。
「オイッ大丈夫か!」と酔っている友人を快方しているように見せかけた。
意識が朦朧としている男を構内の隅に寝かせた。周囲の人は気分が悪いのかと思うだろう。もう一人は時刻表に気をとられていて気がつかない。アキラは素早く後ろに忍び寄った。
すかさずアキラの得意技が飛び出す。頭を取って自分の方に引き寄せ頭突きを喰らわせた。男は声を発する事も出来ずアキラの前に崩れ落ちた。この間数秒の出来事だった。
早紀は何が起きたのかと後ろを振り返った。そこには大男が不敵な笑みを浮かべ手招きしている。アキラと早紀は脱兎のごとく走り出して停めてある車に辿り着いた。
周囲の人は唖然として倒れている男達とアキラ達を見比べた。まさにアキラの超が付く早業救出劇である。
つづく
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