第24話 やっぱり身の丈にあった居酒屋が一番
「やっぱり俺には此処が似合っているよ。根っからの貧乏性かもな」
小次郎はいつもの梅サワーを飲みながら生き返った顔をした。
「とっつぁん聞いてくれるかい。俺さぁ、お袋とケンカしてさぁムシャクシャして、この間、会社辞めたんだよ。で相談出来るのは、とっつぁんしかいないんだ」
真田小次郎は、アキラがいつも違うのは分かっていたが、まさか会社まで辞めるとは思っていなかった。
「そうか、何かはあると思っていたのだがな。まぁ相談事は得意分野だ。なんでも相談に乗るぜ。こう見えても、ちょっと前はセンセイをやっとったわい」
「えっ、ほっ本当かよ! 先生って学校の……へエー驚いたなぁ」
「まぁな、別に自慢するほどのもんじゃないが二十年間、高校教師だった」
「で、なんで辞めたんだい?」
「それを聞かれるとなぁ……好きな女に振られてよ。みんな捨てたって訳さ」
「好きな女って? とっつあんいくつの時だい」
「それを聞くな。年齢は関係ない。まぁあれが最初で最後だ。もういいよ、一人の方が気楽さ」
「そうか、それにしても思い切った事したもんだなぁ。一世一代の恋だったんだ」
「オイオイ、俺の話をしてどうなるんだ。悩みがあるの山ちゃんじゃなかったのか?」
「まぁな、でもさぁ、とっつぁんと話てると悩みが吹っ飛ぶぜ」
「いやいや今日はとんでもない大金使わせて」
小次郎は、あの大金どうしたかと聞きたかったが控えた。
多分聞いても答えないだろう。悪い金じゃなければ聞くこともないと。
「とっつぁんは、今一人で住んでいると言っていたよな?」
「ああ、そうだがそれが、どうしたんだい」
「どうだい俺と一緒に住まないか、あぁ金は全部俺が出すから」
「……どうしてまた? やっぱりなんか今日はヘンだなぁ」
アキラも大金の理由を打ち明けたかったが、どうしても切り出せない。
誰でも、そう思うだろう。俺、三億円当ったなんて言ったら大変な事になる。
親にでさえ言えず誤解されて喧嘩になったのだから。しかしアキラはそれが故に苦しかった。
小次郎に話そうと喉まで出かかっているのに言えない大金ってヤッカイなものだ。
「俺と一緒に住もうってか? それは有難い話だが……俺はどうやら一人暮らしが合っているみたいだ。出来ればこのままがいい。親子ほど年が違うがな、お前はいい奴だ」
しばし沈黙がつづく、やがてアキラは吹っ切れたように語る。
「そうだな、俺もセンチになっていたみたいだ。まぁ気が向いたら遊びに来てくれ」
その日は、その居酒屋で小次郎と別れた。
つづく
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