第6話  銀行強盗発生!!!

 それから更に一ヶ月が経った勤務中の事だった。

 いつもと変わらぬ平凡な勤務のはずが、アキラの出番が突然とやってきたのだ。

 あっては成らぬ事だが、銀行強盗が現れたのだ。

 銀行が閉店となる午後三時二分前の事だ。

 閉店のシャッターが閉まる寸前、二人組の男が入って来た。

 一人がカウンターに飛び乗るやいなや、女子行員にナイフを首筋にあてた。

 もう一人の男は早くも、中の行員にバックを投げつけて「金を入れろ!」と怒鳴った。

 人質に捕られては、空手を取り入れて自信があったアキラとはいえ手が出ない。

 店長が行員の生命には代えられず渋々バックに札束を積め始めた。

 なんとかならないかとアキラはイライラした。


  同僚の先輩警備員がアキラの反対側で、やはり気を揉んでアキラを見た。

 それが、まずかったアキラは(行け!)と指示されたと勘違いしてしまった。

 状況も考えずに止せばいいのに、アキラは犯人に向って突進したのだ。

 あぁーこのアキラに足りない物、脳味噌のグラム数が少し不足していたのだ?

 女子行員にナイフを向けている強盗の男を見て、我を忘れて頭に血が上りアキラは強引に飛びかかって行った。慌てた犯人は女子行員を片手で抑えたままアキラに向き直りメチャクチャにナイフを振り回した。その弾みで女子行員は腕の辺りから血が吹き出た「キャアーーー」と、大きな悲鳴があがる。

 銀行内はパニックになった。アキラも女子行員に怪我をさせて、またまた冷静を失う。

 もはやこれ以上の怪我をさせてはならない。アキラは猛然と強盗に挑みかかる。

 ガムシャラにアキラは強盗の腕をわしづかみしてナイフを掴み取ったまでは、良いが自分の手を切られてしまった。

 それでも女子行員の前に立ちはだかり身を呈し必死に守ったが、怪我を負わせる失態を犯した事実には変わりはない。


 そのスキを突いて、別の警備員がナイフを落とした男に飛びかかり、なんなく取り押さえる事が出来た。アキラは犯人を取り押さえるよりも怪我をした女子行員を庇う事を優先した。拠って手柄は別警備員に取られてしまった。それを見た男子行員が、仲間が取り押さえられ怯むも、もう一人の犯人を三人がかり取り押さえた。あっと言う間の事件解決だった……が。ここで整理してみると。

 さて一番の手柄はと言うと、アキラが発端になったが、ひとつ間違えば女子行員の命さえ危ない。で、手柄どころか状況判断ミスで失格の烙印がアキラに付き大きな減点。こうなるとベテラン警備員の優勢勝ち? いや完勝?


 アキラは女子行員に怪我をさせてしまった。側で怯えている女子行員の浅田美代にアキラは詫びた。

 「僕のせいで申し訳ありません。大丈夫ですか」

 アキラは自分のシャツを破り、その布で腕をきつく縛ってあげた。しかしアキラの掌からは血が滴り落ちていた。ともあれ浅田美代の軽い怪我だけで事件はスピード解決された。浅田美代はアキらをマジマジと見た。外見と違い優しい、犯人逮捕よりも私をかばってくれた。本当はお礼を言いたかったが恐怖と安堵で言葉に出せなかった。

翌日の新聞にはベテラン警備員の顔写真付きで報道された。

 ”お手柄ベテラン警備員。銀行・強・盗・逮・捕”大きな見出しで載っていた。

 その下の記事に”新米警備員のミスをベテラン警備員がカバー冷静な横田さんの行動が光る”と書いてある。


 この事件について早速、本社から呼び出しが掛かった。ここは警備総括部長の部長室、大きな体を小さくしたアキラの姿があった。今回はお茶も出て来ない。その代わりに総括部長のカミナリが落ちた。どこでどう話が伝わったかアキラが一方的悪い事になって報道された。その記事を鵜呑みにした総括部長が怒り本社に呼びつけたのだ。

 「キミィーいったい! この記事はどうなっているだ! アアアッ」

 と新聞を叩いて怒鳴った。

 「聞くところに依ると君は社長、直々の入社だそうじゃないか、アアアッ社長の立場はどうなるんだぁアアッ、アアッアア~~~まごころ銀行さんはカンカンだよ。女子行員に、もしもの事があったら、どう責任をとるとな!」

 まるで機関銃のように、まくしたてる部長だった。

「今回はベテランの横田君の活躍で逮捕出来たが君の責任は重いぞ! アアッ」

 もうこの部長アアッ、アアッの連続である。早く辞めて出て行けと言っているように聞こえてくる。怒りまくる部長も社長が見込んで採用したゴリラだ。いや社員だ。

 自分の権限でこの社員を即刻解雇出来ずに余計に立腹していたのだ。


つづく

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