14.発展クエスト

 ワンアースはログインすると、ログアウトした場所からのスタートとなる。

 つまり、祠の入り口に立っているおじいさんの真横からのスタートだ。


「おかえりなさいなのにゃ!」

「おう! 早速行くぞ、ニャーチ!」

「少しだけ待つのにゃ!」


 俺が始まりの村を出てレベリングを行おうとしたのだが、何故かニャーチから止められてしまった。


「……どうしたんだ?」

「どうやらおじいさんから話があるようだにゃ!」


 ……おじいさんって、このNPCのおじいさんか?


「……何か困ったことはないですか?」


 ニャーチが言うのだから何かあるのだろうと思い、俺はおじいさんに声を掛けた。


「おぉっ! あなたはゴブリンを討伐してくれた方ではありませんか! ゴブリンの集落を壊滅させた実力を見込んで、お願いがございます」


 おや? この展開は初めてだぞ?

 そんなことを考えていると、目の前に予想外のウインドウが現れた。


【■発展クエスト:ゴブリンの巣ダンジョンの攻略 ■クリア条件:ゴブリンの殲滅 ■クエスト難易度:C ■クリア報酬:100ゴールド、ランダム装備BOX ■Y/N】


 ……はい? 発展クエストだって?

 しかもこれ、レベリングを目的にしている俺にとっては最高のクエストじゃないか!


「もちろん受ける! YESだ、YES!」

「おぉっ! ありがとうございます! 場所はゴブリンの集落をさらに奥へと進んだ先にある洞窟でございます!」


 俺が『Y』をタッチすると、おじいさんがゴブリンの巣ダンジョンの場所を口にする。すると、場所の確認のためか入れ替わるようにして始まりの森のマップが表示されると、目的地の場所にピンが立てられていた。


「こんな場所にダンジョンなんてあったっけ? ……まさか、発展クエストのおかげで始まりの森が変化したのか?」


 これも攻略サイトに載っていなかった情報だ。

 発展クエストが発動するのにも何かしら条件があったに違いないが……まあ、それに関しては何となく察しがついている。

 ほとんどのユーザーが難易度Fのサブクエストなんてさっさと攻略してしまいたいだろう。

 そんな時にあえてゴブリンの集落を壊滅させようなどと考える者がいなかった、ただそれだけだ。

 きっとゴブリンの討伐数だったり、集落の壊滅が発展条件だったのだろう。

 とはいえ、まさかレヴォで初めて一日も経たずに未確認のイベントやクエストに二回も遭遇することになるとは……はは、さすがはワンアース、面白すぎるだろう!


「しかし、クエスト難易度がCか。普通ならノービスから別の職業に転職して挑戦するべきなんだろうけど……」

「どうするのにゃ?」


 正直、危険しかない。

 ゴブリンの集落の壊滅に難易度を設定するならば、おそらくEになるだろう。

 ということは、あれよりも難易度が二つも高いことになる。


「……だがまあ、やらないって選択肢はないか」


 ここはワンアース。【100を超える職業から、誰にも縛られずに新しい自分を見つけよう!】がテーマのゲームの中だ。

 いってしまえばノービスだって一つの職業だし、ノービスのままで難易度Cのクエストをクリアした動画を配信すれば、まあまあの稼ぎにもなるはず。

 ……ようは、なるべく早くにお金が欲しいのだ、お金が。


「現状、全身希少級以上の装備になっているわけだし、俺ならいけるだろう」

「さすがはご主人様なのにゃ! 早速出発するのにゃ!」

「いや、待ってくれ。その前に一応、ポーションは買っておかないとな」


 俺ならいけると思っていても、可能な限り安全にいきたいのが俺の本音である。

 最初のサブクエストで手に入れた10ゴールドを使って、一つ3ゴールドするポーションを三つ購入する。

 残り1ゴールドになってしまったが、発展クエストをクリアすれば100ゴールドも手に入るので問題はない。

 それに、俺としてはあぶく銭になる100ゴールドよりも、もう一つの報酬の方が気になっていた。


「ランダム装備BOX。こいつは確率で神話級だって出る可能性があるからな。手に入れておいて損はない」


 まあ、本当に低い確率なんだけどな。

 攻略サイトによると、一般級が60パーセント、希少級が25パーセント、伝承級が10パーセント、伝説級が4パーセント、神話級が1パーセントだったか。

 ランダム装備BOX自体がそこまで出回っているアイテムじゃないし、まあ伝承級が出てくれたら御の字って感じだけどな。


「とはいえ、始めたばかりのレヴォとしては、可能性があるだけでもありがたいってもんだ」


 装備も整っているし、ポーションも手に入れた。

 あとは――ゴブリンの巣ダンジョンにいるゴブリンを殲滅するだけだな!


「行こうぜ、ニャーチ!」

「もちろんだにゃ!」


 こうして俺たちは再び始まりの森へ足を踏み入れたのだった。

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