誠実 二〇二一年 四月一日 ②

 さくら信用金庫、学生動画流出 行員の不手際で謝罪


『さくら信用金庫は新卒採用でマイページ上に『一分半の自己PR動画をアップロードする』という形で動画選考を行っていた。しかし、三月三十日ごろから、動画投稿サイトYouTubeで同社の動画選考と名付けられた動画がアップされ、同日夕方頃からインターネットで話題となった。これを受けて同社は四月二日、ホームページ上に頭取名義で謝罪文を発表。『行員の不手際でこのような事態になってしまったことを、深くお詫び申し上げます。学生の皆様、御家族の方には誠心誠意対応し、傷ついた心の傷のケアに努めて参りたいと思います』と謝罪した。同社人事部新卒採用課は三月一日から下旬にかけて新卒採用の案内を行い、千名以上の応募があった。うち百名ほどの動画が現在も公開されていることが確認されており、削除依頼を行っている』


 どうして。

 画面から目を動かせなかった。決意したあの日から、いつかこの瞬間が来ることを恐れていた。したくもない想像を妄想に変えて働かせれば、今とぴったり重なる。この後に待っているのは、無理解と糾弾だけだ。

 それでも、妄想の中にはいくつかの希望もあった。呆れた顔をした真子が、「仕方ないなー」と俺をしばらくからかって、ふとしたタイミングで思い出すときはあれど、すぐに忘れていてくれれば――、

「……それは私も訊きたいよ」

 蒼白な真子の声が、聞いたことのない憤怒を帯びていた。

 どうして、よりにもよって、一番ばれたくなかった人に、それが回ってきてしまったのだろう。

 終わりだ。こうなってしまったら、言い訳もさせて貰えないだろう。数年の付き合いで、この類いの不正が許容されないのは知っていた。

 俺は頭を下げる。だが、肩を掴まれ中途半端な動作に終わった。

 拓実だ。いたことを記憶から消してしまっていた。

「なんか勘違いしとるみたいやけど、真子ちゃんが向ける怒りの矛先は、僕の方だよ」

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