第85話


エレナとアリウスが敵陣を荒らし回っている一方その頃。


エラトール軍は、見捨てられ孤立した冒険者たちと戦っていた。


後衛からの援護を失った冒険者たちは失速し、1人又1人と倒れていき、ついに最後の1人になった。


「ぐ…ここまでか…」


そしてついに最後の1人が騎士に胸を穿たれて絶命する。


「はぁ…はぁ…」


「これで最後か…」


「こっちも結構やられたな…」


「しぶとい奴らだった…」


冒険者たちを殲滅した騎士たちは周囲を見渡す。


血に染められた大地には、自軍の騎士も相当数横たわっている。


日々モンスターと鎬を削っている冒険者の戦闘力は凄まじいものがあり、こちらにもかなりの犠牲が出てしまった。


「よし…このままカラレス陣まで突撃だ…!!」


「ああ…カラレス側は今、相当混乱しているはず…」


「数で劣る俺たちがこの機を逃せば、勝ちはない…!」


「全員で突撃し、奴らを殲滅する!!」


「エラトール家に勝利を!!」


「「「おおおおおおお!!!」」」


雄叫びが上がる。


冒険者たちの死体を踏み越えて、エラトール軍はカラレス陣へと突撃していった。


大地を踏み鳴らし、勇猛果敢に前へと進む。


連日連夜の戦いでエラトール軍も相当疲弊していたが、しかし指揮は落ちるどころかむしろ高まっていた。


カラレス兵駆逐し領地を守る。


エラトール側の騎士一人一人が、固い決意を胸の内に秘めていた。


「なんだこれ…?」


「カラレス軍が…壊滅寸前?」


「立て直しどころか…統率すら取れてないぞ!!」


「どう言うことだ?」


だが、いざカラレス陣へと踏み入った彼らは拍子抜けすることになる。


てっきりカラレス軍に迎え撃たれると思っていたのだが、実際は彼らはあっさりとカラレス陣の懐に侵入することに成功していた。


周囲にはカラレス兵の死体が大量に転がり、敵は戦意を喪失して四方八方に逃げ回っていた。


「一体何が…」


予想外の事態に騎士たちが首を傾げる中、1人が前方を指差して声を上げる。

 

「あ、あれを見ろ…!!」


「「「「…?」」」」


騎士たちが一斉にそちらをみる。


「あれは…!!」


「まさか…!!」


「アリウス様だ…!!」


騎士たちの視線の先では、次期領主の青年が、黒いモンスターの背中に乗って逃げるカラレス兵たちを圧倒的な魔法で蹂躙していた。

 


「「「うわぁああああああ!?!?」」」


「「「ぎゃぁああああああ!?!?」」」


あたりにカラレス兵たちの悲鳴が響き渡る。


クロスケ、クロコに乗った俺とエレナとルーシェは、魔法と魔剣を駆使して逃げるカラレス兵に追い討ちをかけていた。


「随分片付いてきましたね」


「そうだな」


時間が経てば向こうも体勢を立て直し、再び大勢で反撃してくるかと思ったが、もう完全に敵軍は統率を失っていた。


もう生きている兵士もまばらで、大地のあちこちにカラレス兵たちの死体が転がっていた。


「もはや敵は再起不能でしょう」


「そうだな」


「敵将はどこでしょう?」


「ガレス・カラレス……あいつがここにきている可能性があるか…?それともすでに領地に逃れたか?」


この侵攻を企てたのは明らかにガレス・カラレスだろう。


だが奴が直接ここに乗り込んで指揮をとっているかはわからない。


兵士たちのみを送り込んで自分は領地の屋敷に引っ込んでいるかもしれない。


もしそうならかなり厄介だ。


今回の件でカラレス家とエラトール家には決定的な溝ができた。


両家はどちらかが滅ぼされない限り永遠に敵対することになるだろうし、そうなれば兵力増強のために互いの領地が疲弊する。


欲を言えばここでガレス・カラレスを打ち、カラレス領を併合したい。


帝国全土に適応される帝国法では、領地を収める貴族領主一家を滅ぼせばその領地を収めてもいいと言うことになっているからな。


「探しましょうか、敵将を。逃げられる前に殺してしまいましょう」


クロスケから降りたエレナが周囲を見渡す。


俺もガレス・カラレスを探すためにクロスケを降りようとしたその時だった。


「「「「うおおおおおおおお!!!」」」」


遠くから雄叫びが聞こえてきた。


「あれは…」


「エラトール軍です!!」


ルーシェが嬉しげに声を上げた。


大地を踏みならす行進と共に進んできたのは、エラトールの騎士たちだった。


冒険者たちを倒し終えて、カラレス陣へと進軍してきたらしい。


「終わったな」


チェックメイトだ。


あとは放っておいても、彼らがカラレス兵の残党を全て狩殺してくれるだろう。


「我々の勝ちのようですね」


「そうだな」


大地に降りた俺にエレナが言ってきた。


俺は勝利を確信し、ほっと安堵の息を吐いたのだった。





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