第83話


「見間違いではないはずです…あの魔法は確かに…」


戦場をエレナが突き進む。


すでに取り残された冒険者たちはエラトール軍があらかた倒し、まだ立っているのはせいぜい数十人というところだ。


「行けぇええ!!冒険者どもを全滅させろ!!」


「カラレスの臆病者どもは完全に引いたぞ!!今のうちに冒険者を叩くんだ!!」


「うおおおおおおお!!!」


エレナの援護で勢いづいたエラトール軍が、残った冒険者を殲滅すべく突撃していく。


「ひゃっはああ!!こうなったら最後の最後まで足掻いてやるぜ!!!」


「俺たちが簡単に死ぬと思うなよ!?」


「冒険者の最後なんてダンジョンでモンスターに殺されるか、人に殺されるかそれだけの違いだ!!冒険者の底意地を見せてやろうぜお前ら!!」


一方で生き残ることを完全に諦めた冒険者たちは、それでも自らの生に筋を通そうと降伏することなく交戦の構えを見せる。


「「「うおおおおおお!!!」」」


「「「おりゃああああ!!!」」」


エラトール軍と冒険者たち。


二者が激突し、混戦を極める中、エレナはその間を縫うようにして進んでく。


「へぇ!!戦場に女か!!なかなかの別嬪だ

な!!」


そんなエレナの前に冒険者が立ち塞がる。


「最後にあんたみたいな美女を拝めるなんてついてるぜ!!だがな……俺は女だろうと容赦しねぇ!!その命、もらいうけ」


「邪魔です」


エレナが手を横に薙ぐと、冒険者の首が飛んだ。


「アリウス……帰ってきたのですか?」


エレナは倒れる冒険者の死体には目もくれずに、カラレスの陣地目掛けて戦場を疾駆する。



一方その頃。



「うわぁああああ!?!?こっちに来たぞおおおおおお!?!?」


「ひぃいいいい!?勘弁してくれえええええええええええ!?」


「来るなぁ!?こっちに来るなぁ!?」


「あっちに行けぇええ!?」


『ガルルルルル!!!』


「いいぞクロスケ!!そのまま突っ込め!!」


カラレス兵の泣き叫ぶ声が周囲に響き渡る。


クロスケに乗ってカラレスの陣地を駆け回る俺は、四方八方に離散した騎士たちを追い回していた。


カラレス兵は、武器を捨て馬に乗って戦いを放棄し、我先にと逃げていく。


そんなカラレスの兵士たちを、俺は馬よりも早いクロスケに乗って追い回し、魔法で吹き飛ばす。


「わ、私も…役に立って見せます…!!く、クロコちゃん!!」


『ワフッ!!』


一方で、並走するルーシェも負けてはいかなかった。


最初は悲鳴をあげてクロコの背中にしがみついていたのだが、慣れてきたのか、少し姿勢を起こして、魔剣による攻撃をし始めていた。


「えいっ!!」


すでに意気投合したクロコに進路を示し、カラレス兵たちを魔剣の魔法を持って倒していく。


クロスケ、クロコの二匹に乗った俺たちは、カラレスの陣地を駆け巡り、兵士たちを蹂躙し、陣地を混乱へと陥れた。


この状態の陣地へさらにエラトール軍が攻め込んで来れば勝利は確実にこちらのものとなる。


俺たちの役目は、エラトールの騎士たちがここに到着するまで、カラレス兵たちに体制を立て直させないことだ。


「向こうのほうはどうなっている……?お、冒険者たちはだいぶ減っているな」


俺はカラレス兵たちへの攻撃を続けながら、エラトール側の陣地へと目を移す。


そこでは、逃げたカラレス兵たちに取り残された冒険者たちが、エラトール側に全滅させられつつあった。


あの様子ならエラトール軍はすぐに冒険者たちを全て倒し、こちらへと来てくれるだろう。 


「いいぞルーシェ!!2人でこのまま陣地を撹乱しよう。もうじきエラトールの騎士たちがここに到着するはずだ!」


「は、はい…!」


状況は明らかにこちらの優勢。


あと一押しで価値が決まる。


そのことを確信した俺はルーシェを顔を見合わせて頷きあう。


…そんな時だった。


「アリウス!!やはりあなただったのですね!」


「…!?その声は…!」


聞き覚えのある声に、俺はそちらの方を向く。


「アリウス!!」


「エレナ…!!」


敬愛する懐かしい師匠の顔がそこにあった。






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