第77話
「急ぐぞ、ルーシェ。もう戦いは始まっている」
「は、はい…!!」
ようやくだ。
ようやく領地に辿り着いた。
御者を必要以上に焦らせて、本来の到達日数より一日早く領地に到着した。
家族は無事だろうか。
使いのものがエラトール領を出発して帝都に向かった時にはすでに戦闘が始まっていたというから、残念ながら現在は戦い出して一週間が経過している。
エラトール領とカラレス領の兵力の差は歴然。
もしかしたら一週間も経たずに全土を制圧されてしまうのではという不安があった。
だが…
「この分だと……まだ耐えてくれているようだな…」
「みたいですね…!!」
走りながら俺とルーシェは周囲を見渡す。
遠くからの戦闘音は聞こえてきているものの、あたりは相変わらず平和で長閑な景色が広がっていた。
領民たちは家の中に隠れているのか、姿は見えない。
どうやらこちら側の騎士たちがエラトール領を守り、これまで耐えてくれていたらしい。
「早く参戦しないと……被害は少しでも小さくしたい…!」
「あ、アリウス様…やっぱり戦うんですか…?」
俺の呟きが聞こえてきたようだ。
ルーシェがそんなふうに訪ねてくる。
「当たり前だろ!!領地の危機なんだ!!戦わなくてどうする!?」
「き、危険です!!あなたは領主の息子なのですよ…?後方にいるべきでは…?」
「騎士たちは今日まで兵力差がありながら領地を守って耐えてくれているんだ。そんなことは出来ない」
「…っ」
そういうとルーシェが泣きそうな顔になる。
「大丈夫だ。必ず生きて帰ってくる」
これは強がりでもなんでもなく、俺にはこの戦いを生き延びられる自信があった。
「約束ですよ…?アリウス様。くれぐれも油断しないでください…今回の相手はモンスターではなくて数万人の人間の軍勢なのですから」
「もちろんだ」
俺は頷き、先ほど隙を見て地面の土を使って作っておいた短剣を取り出した。
「それより、ルーシェ。これを」
「え…?」
「お前にこれを託す。いざというときはこれで身を守れ」
「こ、これはまさか…?」
「ああ。魔剣だ。降れば上級魔法が発動する」
「…っ!?」
ルーシェが目を見開く。
「い、いいのですか…?私がこんなもの…」
「ああ。威力が高いからあまり周りに人がいない時に使うんだぞ。敵に囲まれた時なんかがおすすめだ」
「わ、わかりました」
「よし」
俺は頷き、さらに走る速度を上げる。
「それじゃあ、一気に行くぞ!!」
「は、はい…!!って、アリウス様!?そういえば一つ疑問が…!」
「なんだ?」
「どうしてさっきから私はアリウス様のスピードについていけているのですか!?」
「ああ、それは俺がずっと光の支援魔法かけてるからだぞ」
「…っ!?ど、道理で体力が尽きないと…」
「それよりもほら!!行くぞ!!」
「きゃあっ!?」
ルーシェの手をとって俺はさらに速度を上げる。
ルーシェが軽く悲鳴を上げたが、今は構っていられなかった。
「ひゃっはぁあああああ!!!皆殺しだぁあああああああ!!!」
「おらぁあっ!!テメェらも戦闘職だろうが!!!実力はこの程度かぁあ!?」
「これじゃあモンスターどもの方が数倍強いぜ!?冒険者舐めんじゃねぇえ!!!」
「テメェらを殺して俺たちは女と金に困らねぇ生活を手に入れんだよ!!!」
夜明けと共に始まった戦闘の最前線。
そこではカラレス側に雇われた冒険者たちが、暴れに暴れていた。
「うああああっ!?」
「くそっ、こいつら化け物だ!!」
「カラレス側が冒険者たちを雇いやがった!!」
「「「「ひゃっはぁああああ!!!」」」」
それぞれの戦闘スタイルを持ち、日々モンスターと命懸けの戦闘をして生き残ってきた屈強な冒険者たちにエラトールの騎士たちは苦戦を強いられていた。
「おらぁああ!!」
「ぐおっ!?」
「死ねぇえ!!」
「がはっ!?」
1人、また1人と吹き飛ばされ、殺され、脱落していく。
戦況は明らかにエラトール側の劣勢だった。
それに加えて…
「放てえぇええええええ!!!」
ドドドドドドドド!!!
「「「「「ぐあぁあああああ!!!」」」」」
厄介なのは冒険者たちの背後から飛んでくる遠距離の魔法だ。
「畜生…!!卑怯な戦いをしやがって…!!」
エラトール兵たちが憎々しげに冒険者たちの背後を見る。
そこには何百人というカラレス側の魔法隊が列を成して一斉に魔法を放ってきていた。
単純なぶつかり合いで勝てないと判断したのか、カラレス兵はここへきて一気に戦い方を変えてきていた。
「おらぁ!!よそ見してんじゃねぇ!!お前の相手は俺たちだろうが!!」
「ぐっ…!!荒くれ者の冒険者風情がぁああ!!!」
「くはははは!!!騎士どもは皆殺しだ!!」
冒険者たちは切ろうが焼かれようが簡単には倒れない。
エラトール兵を蹴散らしてどんどん陣形の中心部へと食い込んでいった。
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