第64話


「お、大砲の音がなったな…」


三桁人目の生徒を撃破し終えたところで、俺は大砲の音を耳にする。


確かこの音が鳴ってから半時間後に、魔導祭は終了するはずだった。


つまり制限時間が近づき、魔導祭は最終盤を迎えているということだ。


「これだけ倒せば大丈夫だろう」


数百人が参加する魔導祭で現在俺は百人以上の生徒を撃破した。


おそらく一チームの撃破数では間違いなくトップだろう。


あとは…全員で生き残り減点がなければ優勝は間違い無いだろう。


「やることはやった。合流するか」


もう生徒をこれ以上撃破する必要もないため、俺はシスティとヴィクトリアを探して森の中を彷徨く。


どうか生き延びていてくれと願いながら歩いていると、前方から悲鳴のような声が聞こえてきた。


「あれは…!」


間違いない。


システィの声だった。


俺は声の下方向に向かって全力で疾駆する。



「ギリギリ間に合ったってところか?」


果たして現場に辿り着いてみると、そこではシスティとヴィクトリアが上級生三人に襲撃され、危うくダウンさせられそうになっていた。


俺はすぐに三人を始末して、2人の元に駆け寄る。


「アリウス…!!」


「アリウスくん!!」


2人が俺を見て表情を輝かせる。


「大丈夫か?ひとまず回復魔法をかけておくぞ」


俺は2人に魔力と体力が回復する魔法を使った。


2人はすぐに元気を取り戻し、座り込んでいたシスティは立ち上がる。


「助かりましたわ、アリウス。でもどうしてここが?」


ヴィクトリアが礼を言いながら、そう尋ねてくる。


「2人を探していたらシスティの声が聞こえたんだ。間に合ってよかった」


「わ、私たちを探していたの…?」


「あなたの役目は他の生徒の撃破ですわよ…?大丈夫ですの…?」


不安げに尋ねてくる2人に俺はいった。 


「百人以上倒してきたから問題ない」


「「…」」


2人は絶句してしばらく言葉を喋らなかった。


やがて我に帰ったようにヴィクトリアが言った。


「そうでしたわ…アリウス。あなたの実力は化け物クラスだということを忘れていましたわ…」


「ははは…すごいね、アリウスくん…」


2人とも賞賛するような、どこか呆れるような反応を見せる。


「そっちはどうだったんだ?何か変わったことはあったか?」


「そうですわね…作戦通り逃げに徹していましたが、それでもいろんなことがありましたわ」


ヴィクトリアは上級生の仕掛けた罠にかかりかけたことなどを話す。


「あなたは大丈夫でしたの?アリウス」


「あー、俺か?俺も罠にかかったりはしたな。戦ってると思ってたら誘き寄せられて待ち伏せされてたぞ」


「ええっ!?大丈夫だったの!?」


「ああ。返り討ちにした」


「…す、すごいね」


ポカーンと口を開けて俺をみるシスティ。


「あとはそうだな……お前が言っていた皇子にあったぞ」


「え…私が言っていた王子?ですの?」


「ほら、始まる前に、強い王子が飛び入り参加している噂がどうとか言ってただろ?なんだったっけ…確か名前は…」


「ブロンテ皇子にあったんですの!?」


ヴィクトリアが大声を上げる。


「あ、あぁ…会ったが…?」


「戦ったんですの?倒したんですの?」


「いいや、なんとか戦わずに済んだよ」


俺はことの経緯を話す。


「なんか俺と戦うためにこの魔導祭に参加したらしいな。俺の話を第一皇子のクラウスから聞いたらしい」


「く、クラウス皇子…その名前をきくことになるとは思いませんでしたわ…」


ヴィクトリアが心底驚いたという表情になる。


「クラウス皇子は今最も次期皇帝に近いと言われている人ですわよ…?そんな人とあなたはまさかコネクションを…?ひょっとしてクラウス皇子があなたを学院に斡旋した噂は本当だったのですの?」


「まぁ、そうだな」


「「…っ」」


またしても絶句する2人。


俺は慌てて話題を漏らす。


「ともかく、俺はアリウスじゃないって嘘をついてブロンテをなんとか騙したんだ。おかげで戦わずに済んだ」


「ええっ!?皇子様を騙しちゃったの!?」


「あなた…どこまで命知らずなのですの!?」


2人が呆れたように俺をみる。


「しょ、しょうがないだろ…?なんか強者の雰囲気出してたし、戦って時間食ったら撃破する生徒減って困るだろうが」


「「…」」


「2人とも…?」


突然無言になり動きを止めるシスティとヴィクトリア。


2人の視線は俺の背後に注がれているようだった。


「まさか…」


嫌な予感がして俺は背後を振り返る。


「やっぱり君がアリウスくんだったんだね」


「あ…」


そこには影の差した笑みを浮かべたブロンテ皇子が立っていたのだった。









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