二 夢 アフガン
この頃よく父の夢を見る。あまり楽しい夢ではない。
四坪ほどの土間に
「父さん」
電動織機がガシャンという大きな音をたて小さな風をおこす。モーターの音が、その風に溶けるようにスーッと消える。しばらく静寂が続く。わずかな響きさえない。
しかし、
「何だ」
経営していた織物会社が倒産した。その後、亡くなるまでの半年間、友人から借りた古い
農家に織機を貸し出し、そこで織らせた
夢の中の父は、うらぶれた貧乏職人のようだ。
「父さん、死んだんじゃなかったっけ」
僕が訊くと、
「その紬、何時織りあがるの?」
上下する
「
しかし、その紬は永遠に織りあがらないと僕は思う。
地面に杼が落ちて、転がる。
「父さん、シャトルが落ちたよ」
「ああ、落ちたな」
土間に転がった杼を、父はじっと見る。
何かを思い出そうとしている。そんな顔だ。
「しまった。子供がほったらかしだった」
僕がそう言って居間に向かおうとすると。
「男親なんて、そんなもんさ」
父はボソッと言う。
辛い夢だ。僕は夢覚めの
……父さん、ごめんよ。また格好悪い父さんの夢を見てしまった。
「悲しい夢でもみたの?」
美子に訊かれ、僕は
「お父様の横顔、貴方そっくり」
何もしないでじっとしている時の僕の顔に似ていると美子は言った。
「この子、隼人かしら」
美子はアフガンに包まれた赤ん坊を指さした。
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