帝都終末戦争②

 ー帝都 中央ー


 処刑台の刃が大佐を貫き、胴体から出血している。


 その隙を突いて、勇者は剣を拾った。


(胴体から出血。今が好機だ。一気に決める......!)


 勇者が大佐に剣を振り下ろす。


「第二章『断罪』」

「第四章『執行』」


 二重の光が、剣から解き放たれて大佐を貫かんとする。


 大佐は、右腕を、真っすぐにしたまま、風を集めた。


 そして、全身全霊の風と、二重に輝く光が衝突する。


「がっ!?」


 勇者は風圧で飛ばされ、住居を何戸も貫いていった。


(こいつ......まだこんなに動けたのか......!)


 ゆっくり立ち上がり、帝都の中央へと戻っていく。


(かなり喰らったが、致命傷じゃない。まだ戦える)


 そして、帝都の中央で、二人が向かい合った。


 そのとき、燃える家から、一人の少女が出て来た。


「た、助けて......」


(生き残りか。こいつは使えるな)


「そこを動くと、こいつが死ぬことになるぜ」


 勇者は、真っ先にその少女を人質にとった。


「そうだな、お前が死ねば、こいつは助けてやるよ」


 勇者は、大佐にそう言い放つ。

 大佐はそこを動かない。


(いくら大佐でも、さすがに目の前の奴を見殺しにはできないだろ)


 勇者は、少女の喉元に剣を固定していた。



「ぐっ!?」


 そのとき、勇者の腹に包丁が突き刺さっていた。


「な......に......?」


「人類は、必ずお前を打倒する」


「ま......さか......」


 その少女は隙を見てどこかへと逃げていった。


(僕が吹っ飛ばされたときに、言いくるめたのか! 家から出るところから策略の内か。くそっ!)


 そのとき、周囲の所々から、声が聞こえた。


「大佐! 頑張って!」


「そんな奴に負けないで!」


「私たちは大丈夫ですから! 気にせず戦ってください!」


(五月蠅いな......耳が腐るよ、愚民共)


(......?勇者の顔色が悪くなった.....? なら、このまま奴の精神的動揺を誘ってみるか)


「どうした、ルード。顔色が悪いな」


「......知らないよ」


「見ての通り、お前は人類全ての敵だ。誰もお前の勝利を望んでいない」


「......だったらなんだよ」


「神の意志とか言っていたが、自分で考える能力がないだけじゃないのか」


「......違う」


「ずっと一人で修行してきたようだが、お前の人生は、全て無駄だったようだな」


「......違う!」


 勇者は激昂し、走り出す。


「第五章『審判』!」


 剣を振り下ろし、地面から光を放出させる。


(やはり集中が途切れたな)


 右手を45度回し、旋風の嵐を放つ。


 光は消滅し、勇者は嵐に飲み込まれた。


「がっッ!?」


 建物の壁にぶつかり停止する。

 体のあちこちが大きく損壊していた。


「......終わりだ。やはりお前の人生は、無駄で無様で無意味だったな」



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「私がいなくなっても、いい子にしてるんだよ、ルード。いい子じゃないと、天国に行けなくなっちゃうからな」


 姉は軍の人間だったのだろう。きっと魔族に殺されて死んだんだ。


「なんで。なんで天国に行けないの」


 無知だった僕は、そんなことを言ったんだっけな。


「神様がそう言ったの。いいことしたら救われるんだってね」


 だったら、きっと姉は天国に行ったんだろうな。


「......行かないで、姉ちゃん」


 そう引き留めた僕を、姉は優しく撫でて、玄関を出た。


「じゃあね。また、会えるから」



 それから、姉は帰ってこなかった。



 僕は、生きる意味も見つからず、ただ無気力に生きていた。

 ゴミ箱の中の食料に、無理矢理娯楽を見出しては、それをただ貪る毎日。


 でも、そんな僕でも、軍に引き取られてからは変わった。



「聖典第一章第四節、穢れなき魂は、死後救済の地へと導かれる」


「うむ。よろしい」


 僕が聖典を読み上げ、教育係が頷く。


 そして僕は、魔族害虫を皆殺しにしようと決意した。


 そうだ、良いこと、聖典に書いてある通りにしていれば、天国に行けるんだ。


 そのためには、間違いを犯すわけにはいかない。


------------------------------------------------------------------------------------------------


 でも、僕は失敗した。


 目の前の敵、大佐に負けそうになっている。


 もう、駄目なんじゃないのか。


 ああ、悔しいな。もっと上手く、できていれば。



 ー後悔は、次はもっと上手くできる、二度と失敗しないという、自信の現れだ。


 ふと、誰かの言葉を思いだす。


 ーなら、それは失敗じゃない。次への布石さ。


 ローゼマリー中佐が僕にくれた言葉だ。

 そうだ、僕は......


 立ち上がり、剣を構える。


 ー見ての通り、お前は人類全ての敵だ。誰もお前の勝利を望んでいない。


 だったらなんだよ。

 誰かの望みなんて、叶えてやる義理はない。


 ー神の意志とか言っていたが、自分で考える能力がないだけじゃないのか。


 違う。誰かに押し付けられた思想でも、思考を放棄したわけでもない。

 僕は、僕が信じたいものを信じるだけだ。



 ーずっと一人で修行してきたようだが、お前の人生は、全て無駄だったようだな。


 違う。

 たとえ僕一人だけだったとしても、お前ら全ての人生より有意義だ。

 それに、僕の人生は、無駄なんかじゃない。だって......



 ー......終わりだ。やはりお前の人生は、無駄で無様で無意味だったな。


 だって......!



 炎の町の中心で、敵への歓声が響き渡る中、ただ一人、立って叫ぶ。



「僕は、生まれてから一度だって、間違えたことなんてしていない!」


 傍にあった石を、大佐に向かって思い切り投げる。


「なにっ!?」


 光魔法が込められ投げられた石を、大佐は咄嗟に躱した。



 その人生に、一つだって無駄は無く。


 ただ一人だって立ち上がる。


 たった一つ、信じたものがあったから。


 我が身全てを、捧げて立ち向かう......!



「その体で何ができる。もう諦めろ」


 次はもっと上手くやれ。

 これまでの失敗は、そのための布石だ。

 間違いなんかじゃない。



「次こそお前を殺す。もう結果は




 To be continued......

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