ルガーデ殲滅戦①

出発から数時間。

 こちらから見てルガーデ峡谷の入り口にあたるところへと突き進んでいく。


 僕と、人類ほぼ全ての戦力が集結していた。

 今回、足場が悪く、樽型爆弾は使えない。


 そして到着する。


 目の前に見えるのは巣穴から無数に顔を出す顔のない蛇と魔族の群れ。


 対するは人類のほぼ全てとも言える兵力。


「散開! 奴らを蹴散らせ!」


 戦いの火蓋は落とされた。


 なら僕がやるべきことは一つ。


 一人でも多く、死なせてやる。






 ==BOSS BATTLE  ~Lindwurm~ ==================


 ールガーデ峡谷 北東部ー


 素早く周囲を見渡す。目についたのは西の方にある比較的高い崖の上。

 まずそこに行って周囲を把握。そして可能な限りの妨害工作を行う......!


 魔族どもを蹴散らしながら突き進んでいく。


 その途中で遭遇した、リントヴルムの一頭が顔を覗かせていた。

 ここを突破しなくてはならないが、迂闊に実力を見せるわけにはいかない。


 そのまま周囲を見渡す。すぐ横にいたのはゲルハルト少佐とフランク、フリッツ少佐だ。こいつらに倒させて、その隙に突破する......!


「兄さん、まずは雑魚から倒そうよ」


「わかってるって!」


 フランク少佐が上空に大きな氷の塊を作り出し、細かく分解する。


 そして、そこへフリッツ少佐が風を使い、細かい氷を魔族の群れへとぶつけた。


 この氷と風の合体攻撃こそが、二人が少佐となった所以だ。



 兄弟は一頭の周囲の魔族に攻撃するが、その数はまだまだ多い。


「ゲルハルト! 任せていいか」


「......うむ」


 少しの怯えを振り切って男は返事する。


 前屈みになり、足を地につけ、目の前の敵を睨む。


「ボディファイア!」


 身体に炎を纏い、鎧を形成する。そして...


「ファイアタックルゥゥ!」


 炎を纏った男はさながら爆弾の如く周囲を薙ぎ払っていく。


「うおおお! すげー! けどなぁ」


「技名だせぇな! なんだよボディファイアって」


「仕方ないだろ。いいの思いつかねぇんだから」


「残るはこいつだけだな」


 フランク少佐がリントヴルムの一頭を見据えて言う。


「ファイアァ......タッチィィ!」


 ゲルハルト少佐の放った炎が敵の頭で爆発する。


「こいつかってぇな!」


 フランク少佐がそう叫ぶほどにその外皮は頑丈だった。


「い、一頭でこんなに強いの!?」


 フリッツ少佐が弱音を漏らしたその時、


「フリッツ! あぶねぇ!」


 氷の割れる音がしてフリッツ少佐は振り向く。


「兄さん!」


 敵個体がその頭をフリッツ少佐目掛けて斜め上から振り下ろしていたのだ。

 それをフランク少佐はすんでのところで防御した。


「俺は大丈夫だ。今だ! 隙だぞフリッツ!」


「了解!」


 フリッツ少佐はそのまま風魔法を発動して殴りにかかる。


「うらあああああ!」


 全力の拳は敵個体にダメージを与えられない。

 それどころか、敵がフリッツ少佐に狙いを定めた。


「残念。二対一じゃないんだよ」


 敵個体の背後からゲルハルト少佐が姿を現す。


「「三体一なんでね」」


 ゲルハルト少佐は手に持つ氷の剣を敵の頭に振り下ろす。


「ファイアァ......ボムゥゥ!」


 貫いた箇所から炎を注ぎ込み、敵をたちまちのうちに爆破した。




 よしっ、今だ。


 機を窺うのを止めて目的地へと突っ走る。


 その途中、気になるものを見つけた。


 ここから一段下の空間に巣穴が見える。

 これは前回見たな。確か近づくと巣穴から出てくるんだ。


 しかも足場が不安定だ。気を付けないとな。

 そのまましばらくして、高所へと辿り着いた。


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 ールガーデ峡谷南東部ー



「いやあああああああ!」



 足を負傷した少女の兵士の前にいるのはリントヴルムの一頭。


 その兵士は必死で炎魔法を飛ばすが、効果は薄い。


 死を悟りつつ、できる限り役立とうと炎を浴びせ続けていた。


「そんなすぐに諦めるなよ。今助けてやるからさ」


 そこへ現れたのはローゼマリー中佐だった。

 そして両手を炎で包んでいく。


「中佐! ここは引いてください! こいつの皮膚は厚いですから」


 その兵士は泣きそうになりながらも懸命に主張する。


「なんだ、心配か? 大丈夫だ、お前を害するものは今、私が排除してやる」


 両手を前へ突き出し、炎で敵個体を覆う。


「蒸し殺してやるよ」


 その熱さに耐えきれず、敵個体は口を開けた。


 その隙を見逃さず、中佐は一気に覆わせていた炎を口の中に流し込んだ。


「そんな動かし方ができるんですか!?」


 兵士が驚いて声を上げる。


「砕け散れ。『桜嵐(サクラアラシ)』」


 そのまま敵個体は内部から崩壊した。


「あの......ありがとうございます」


「仲間を助けただけだぜ? 気にすんなよ」


 そう言って中佐は去っていった。



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 ールガーデ峡谷 南部ー


「囲め! 押さえろ!」


 リントヴルムの三頭を複数の兵士が取り囲む。


「大佐、行けますか」


「上出来だ」


 兵士たちが炎で注意を引いている隙に大佐が攻撃を仕掛けようとする。


「いくぞお前らぁ!」


 と、一人が叫び、周囲の風魔法部隊が大佐に風を集める。


 大佐はそれら全てを右の拳で受け止め、拳を握り、三十度手首を左に回した。


 イメージの固定化を命名ではなく、手の型によって行っているのである。


「ふんっっ!」


 拳を振り、それによって三頭の首が飛んだ。


「すっげぇええ!」


「......別に大したことではない。次に行くぞ」


(なんとか誰も死なせずに突破できたか。良かったよ)


 そして、大佐は次の獲物を獲りに向かった。



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 ールガーデ峡谷 北部ー



「くそっ、向こうからの砲撃が痛い!」


 北部の兵士たちを苦しめているのは孤島のようにそびえる場所からの闇魔法だ。


 しかし、その孤島にはリントヴルムの二頭が居座っており、迂闊に手を出せないでいる。


「私があいつらを仕留めてきます」


 そう言ったのはブリュンヒルト中佐だ。


「俺も行かせてください」


 そしてアルフレート少佐が助力を申し出る。


「なら俺もついていくぜ」


 と、他の奴らも声を上げる。


 そうしてそれなりの数が集まり、孤島への進軍を開始する。


 孤島へ行くには橋を渡らなくてはならない。

 しかし、橋から大量の魔族が向かってきていた。


「どうする。このままじゃ行けないぞ」



「僕がこいつらを落とします! 皆さん離れていてください!」


 橋のちょうど横のあたりの場所でフリッツ少佐が叫ぶ。


 放たれた風は、橋の上の魔族をまとめて谷底に突き落とした。


「このあたりの魔族は一通り蹴散らした。僕はこのまま橋を警戒するから、兄さんは別の場所の援護を」


「あ、ああ。わかった!」


 戦いが始まり、急に逞しくなった弟に驚いたのか、兄は少し狼狽えた。

 そのままその場を去っていく。



 ーでも、その隙を僕は見逃さない。


 立っていたところの足場を切り崩し、フランク少佐の頭上へ落とす。

 これでまず一人、落とすッ!





 This could be just the beginning......

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