第5話 割り込む者。

問題はまだまだある。

何せ肝心の少年は今だ人語を解さず──いや、理解はしているようだが、自分が発音するのには単語と知識が足りず、衣服のうち下穿きを穿くことをひどく嫌がった。

上から被れば良いということで、神官見習いの長い上着と祈りの時間に身に着ける法衣は難なく着用できるようになったのだが──

「コラァッ!!その格好で外に出てはいかん!!」

今日も見習い着の下は丸裸という格好で野ウサギと追いかけっこを始めてしまった少年を諫めるが、言葉がわからずとも怒られているのは理解して、「ピャッ!」という意味不明な鳴き声のような声を出して、その細い身体は別の入口へと飛び込んでしまった。

いつものようにいつの間にか自室に戻って来るだろうとは思うが、変な気を起こした神官の誰かに捕まらないように、念のため見回りに行かなくてはならない。

耳が聡く、動きも素早いあの少年ならば、師匠の足音以外を聞きわけて隠れてしまうだろうとは思ったが、僧兵として上位にある者ならば気配を消すことも可能だ。


やれやれと思いながらも少年が消えたあたりから探すと──まさしくその『心配』が現実となってしまっていた。


「何をしている!!」

聞くまでもない──両手を頭上に纏めて持ち上げられた少年はあまりにも軽すぎ、抵抗することもできずに壁に押し付けられていた。

さすがにコトが終わったということはなく、まさしく今から『痛い目』に合わせようと魂胆が見え見えである。

「なぁに……この蛮人に、ここでの『ご奉仕』を教え込むところさ。どうせ『お役目』を果たしていないお前では、『指導』ひとつできなんだろうからなぁ」

ゲヒゲヒと気持ち悪く笑いながら、僧兵隊の副隊長は靴も履いていない細い足の覗く裾から腕を差し込み、「おほッ」と気持ちの悪い笑みを浮かべた。

「何だ何だ……お堅い輩と思いきや、お前もご同類か……何のことはない、抱き心地の良いぬいぐるみになるより、自分がツッコむ方がご所望だったというわけか……ならばお歳を召して若い熱を欲しがるご高僧に媚びれば良かったもの──ガフッ!!」

ネチネチと少年の陰部を弄りながらいやらしく笑っていたその顔は、風圧に歪みながら吹っ飛ばされた。

為す術なく落下しかけた少年はふわりと逞しい腕に受け止められ、突然現れた別の神官の顔を見上げてキョトンとするばかりである。

「……弱い者虐めどころか、懲罰坊行き確定な案件か?あぁ?」



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