第3話 異なりし者。

レベル1とはいえ、仮にもステータスプレートに『勇者』と記されているバルトロメイが、まだ職業名も決まらないような駆け出し冒険者のように小銭稼ぎばかりしているのには訳がある。


というか、訳ありばかりだ。


まずは孤児であるというのに、物心ついた時にはドワーフ族の『父』とエルフ族の『母』、巨人族の『兄』と『姉』、様々な種の獣人族の『弟妹』たちと『家族』だった。

人間族とは異なる種の中でもとびきり異質で、劣っており、体力・知力・魔力・筋力・属性──ありとあらゆるものでみそっかすだったのである。

しかしそんな出来損ないの子供でも『家族たち』は『短き者』と名付けて愛してくれ、肯定してくれ、13歳の歳まで一緒に暮らした。

理由はわからないが、13歳の誕生日を祝ってもらった翌日、『短き者』は妖精語で書かれた手紙と共に見知らぬ土地の神殿の前で目を覚ました。

驚いたのはこちらだけでなく、赤ん坊でもない少年の『捨て子』を厳しい目で観察していた神官もである。


わ た し は よ う せ い に そ だ て ら れ た す て ご


その『文字』をひと音ずつ話せと妖精語で書いてある手紙の通りに読み上げると、さらに薄気味悪そうな目で見られた。


きっとその時から、彼はまた別の不幸を呼び込んだに違いない。

何せ『母』が手紙として残した言葉通りに話したのに、その見たこともない建物からゾロゾロと出てきた者たちは、誰1人として子供にわかる言葉で話してはくれないのだ。

まるで獣人族の弟妹が家を出てしまう前、同じカタチをした者たちがやってきて言葉を教えるのに似ている──そうか!

[ひょっとして、あなたが僕に言葉とか教えてくれる先生ですか?]

『短き者』が丁寧に尋ねたのに、残念ながらその妖精語を理解してもらえなかったらしい。

仕方がないので、同じことを違う言語で話したが、ドワーフ語も巨人族の共通語も猫耳族の共通語も犬狼共通語も何もかもが通じなかった。


こ、これは困った……


最後の手段であり、『母』だけでなく『父』もなるべくなら使うなと言われたとっておきの言語──


<我 妖精を母と崇め 土精霊を父と崇め 数多の種族を兄姉弟妹と呼ぶ者 汝 我の師と仰ぐ 尊ぶべき方か?>


その言葉を話すべきではなかったのだろうか──

不審者扱いをしていた未来の『師匠』たちが、皆揃って目の前に跪くなんて。



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