第26話 ドラゴンの焦り

 私は一週間後、スピネルにドラゴンの世話をお願いして、森に向かったのだ。

 そう、アクアに会うためにだ。


 森の入り口に着くと、何度も通ったまっすぐな一本道を通り抜け、大きな木のある広場に出たのだ。

 すると、何も声をかけなかったのだが、草木がざわつき出して、人一人が通れるトンネルが出現したのだ。 

 私はそこを駆け抜けると、久しぶりに見る二人が待っていたのだ。

 

「舞、久しぶりですね。

 ドラゴンをこの国に迎えたことまではわかってましたよ。

 あれからブラックはどうなりましたか?」


「舞、一体どうなっているのだ。

 ブラックは何をやっているのだ。」


 精霊の作った空間に入ると、精霊とアクアが駆け寄ってきたのだ。

 

「ブラックの身体にドラゴンがいるのよ。

 でも、ブラックもちゃんと存在してるから大丈夫よ。

 アクア、良く聞いて。

 これはブラックからの言葉と思って・・・」


 私はブラックから言われた計画について話した。

 話していくうちに、アクアの顔が曇っていったのだ。


「何でせっかく封印したものを渡さなければいけないのだ。

 ブラックは何を考えているのだ。

 例え契約を破らないとしても、私は共存を認めないぞ。

 納得がいかない・・・。」


 そう言って顔を背けたのだ。

 アクアの気持ちを考えればそうかもしれない。

 だが、私はアクアをどうにか説得したかったのだ。


 その時、精霊が顔色を変えて言ったのだ。


「舞、ドラゴンが後をつけて来たようですね。

 ・・・まずい、森を焼き払うつもりか。」


 森の入り口の草木が燃え出していると言うのだ。

 私の気配を探ってここまで来るなんて、何か感じるものがあったのだろうか。


 私は精霊にトンネルをまた作ってもらい、急いで大木のある広場に走った。

 アクアからドラゴンのエネルギーを貰っていない状態では契約は出来ないのだ

 しかしどうにか、やめさせなくては。

 絶対にハナさんが守った森が焼かれるわけにはいかないのだ。

 それは精霊も同じで自分の体の一部のような森が痛めつけられているのを放っておく事は出来なかった。

 アクアは黙って私達を見ていただけで、精霊の空間から動こうとはしなかった。


「娘、どこにおる。

 今までずっと側にいたお前が私から離れ、城を出るなどおかしい。

 それにこの場所で急に気配が消えたのは何故だ?

 お前はただの人間の娘ではないな。

 ドラゴンの民に会いに来たのではないか?

 お前は何か知ってるのではないか?

 聞こえているなら出てくるのだ。」


 そう言いながら、森の木々を焼き払い広場に向かって来たのだ。

 私はトンネルを抜けると、向かってくるブラックの姿のドラゴンの前に立ち、真っ直ぐに見たのだ。


「ここは精霊の森よ。

 私は精霊に会いに来たのよ。

 この森を痛めつけるのはやめて。

 私を探しに来たのなら一緒に帰るから、もう燃やさないで。」


 私はドラゴンに向かい、今までと違って強く叫んだのだ。

 するとブラックの姿のドラゴンは火を操作し、炎を小さくしたのだ。


「・・・いや、違うな。

 我にはわかる。

 お前は隠している事があるだろう。

 それにあの精霊とは気に入らないな。

 我をこの魔人と入れ替えた者であろう。」


 私はそう言われるともう嘘をつく事が出来なかった。

 私は意を決して話したのだ。


「・・・わかったわ。

 本当のことを言うわ。

 私はあなたの封印されたエネルギーの在処を知っているわ。

 でも、それを教えるためには条件があるわ。

 それを聞いてくれるなら教えてあげるわ。」


 私がそう言うと、ドラゴンは怒りで炎を大きくしたのだ。


「何で、我が弱い人間と取り引きをしなければいけないのだ。

 お前も死にたくは無いだろう。

 我の言うことを聞いた方が良いぞ。」


 そう言って私の近くに炎の塊を投げてきたのだ。

 私はブラックの石で守られている事もあり、火の粉を受ける事もなかった。

 青白い光が結界のように私の周りを囲んでいたのだ。

 それに、ドラゴンも私に直撃させようとは思っていないのがわかったのだ。

 私は投げてくるドラゴンに向かって歩いていった。


「それ以上来ると本当に消滅させるぞ。

 弱い人間では当たればひとたまりもないはずだ。」


 投げながら焦っているのはドラゴンの方であった。


「お願い、私と約束をしてほしいの。

 そうすれば、あなたは自由だわ。

 悪い話では無いはずだから、話を聞いて。」


 私は躊躇なくドラゴンに向かったのだ。


「来るな!」


 そう言って私を見ずに放った炎の塊は、私を直撃しそうになったのだ。

 私は目をつぶって、結界の効果がある事を祈るしかなかった。


 その時である。

 私の前に立ち、炎の塊を炎で追いやった者がいたのだ。

 それは、成長して私よりも背の高くなった、あのアクアであったのだ。


「舞を傷つけることだけは絶対に許さない。」


 そう言って私の前に立ったアクアの手には封印の石があったのだ。

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