第12話 洞窟の試練

 森の精霊が微笑むと、その冷たい表情をした支配者は諦めたようにため息をついたのだ。


「そうですね。

 あなたがいれば持ち出す事は可能でしょうね。 

 ・・・人間、ドラゴンの民、魔人、そして自然から生まれし者。

 何だか不思議ですね。

 種族が違う者達なのに、助け合っているとは。

 ・・・わかりました。

 石をここから持ち出す事を許します。

 ・・・しかし心して行くのです。

 ドラゴンの封印の洞窟ではまた試練があるでしょうから。」


 試練?

 封印だけが大変な訳では無いのかしら?

 私はその言葉が少しだけ気になったのだ。


 しかし、この支配者の言うように色々な種族が助け合っている事は不思議なのかもしれないが、だからこそ上手く行く事があると私は思ったのだ。

 一番無力な人間の私でも、きっと役に立つ事はあると思い、この先もブラックがなんて言おうが一緒に行く事を心に決めたのだ。


 支配者が両手を広げて目を閉じると、私はあっという間に白い何も無い空間から、先程の洞窟の中に意識が戻ったのだ。

 そこには心配そうに、スピネルとシウン大将が私達の様子を伺っていたのだ。


「ああ、みんな戻れたんだね、良かったよ。

 ずっと心配していたんだよ。」


 スピネルは、みんなの意識が戻り本当に安心したようだった。

 そして、アクアはその光る水晶のような石を持って立ち上がり、私達に言いづらそうに話したのだ。


「実は、ドラゴンの封印の洞窟にいくつかの仕掛けがあるらしいのだ。

 関係のない者が勝手に封印の場所まで行かないようにするためだが。

 本来はそこを通らなくても良い道を、長老から代々伝えられていたようなのだが、私は聞いたことが無いのだ。

 当時、まだ子供だったからな。

 だから、その仕掛けに真正面から向き合わなくてはいけないのだよ。

 まあ、ブラック達がいれば問題ないかと思って今まで言わなかったのだがな。

 ははは。」


 そう言いながら軽く笑ったのだが、スピネルやユークレイスはため息をついて呆れた顔をしたのだ。


「それは、聞いて無いですね。

 石を取りに行く方が大変と言ってましたよね。

 ・・・まあ、どうであれ行くしかありませんが。」

 

 ブラックはそう言った後、私の肩に手を置いて顔を見て話したのだ。


「舞、出来ればここは危険だから帰った方が良いと思うのだが。

・・・一緒に行くつもりだね。」


 さすが、ブラックは私の事がよくわかっているらしい。

 私は笑顔で答えたのだ。


「ええ、もちろん。

 ここまで来たなら私も行くわ。

 大人しく戻ることなんて出来ないわ。」


「そう言うと思いましたよ。」


 ブラックはそう言って、苦笑いしたのだ。


 私達は来た道を戻り、洞窟から外の草原に出たのだ。

 そこは来た時と同じで明るい日差しで照らされていて、暗闇から出てきた私達にはとても眩しかった。

 しかし、頬に当たる爽やかな風はとても心地よかったのだ。  

 前回来た時は冬の気候であったが、今は暖かな春の陽気である事に今更ながら気付いたのだ。

 やはり、この世界も私にとっては大事な場所である事を実感したのだ。

 

 私達は右手にあるドラゴンの封印されているもう一つの洞窟に向かった。

 いち早くアクアが洞窟に駆け寄り、中を覗いたのだ。

 何百年も放置されていた割には、問題なく歩ける状態であった。

 

「じゃあ、入るぞ。

 途中、石の扉がある所までは、難なく進めるはずだ。」


 アクアはそう言うと、躊躇なく洞窟の中に進んだのだ。

 中は真っ暗であったが、アクアの持っている石の光とスピネルの作る炎の剣が灯りとなり、問題なく進む事ができた。

 私はブラックの後ろを歩き、胸ポケットには森の精霊がいたので、全く不安は無かったのだ。

 もちろん、胸元のブラックからもらったペンダントと右手の指輪がある事も安心の理由ではあった。


 少し歩くと、目の前に古めかしい石の扉が出現したのだ。

 私には読む事ができない文字が刻まれていたのだ。

 どうやらアクアには読めるようで、ドラゴンの民で古くから使う文字のようなのだ。


「うーん、先に進みたければこの部屋の火を攻略するようにと書いてあるな。

 火だったら、私やスピネルが得意とするものでは無いか。

 案外、簡単かもしれないぞ。」


 アクアは楽天的に考えたが、はたしてそうだろうか。

 ドラゴンの民が火に強いのは周知のこと。

 そう考えると、そんな簡単な事では無いのではと私は思ったのだ。

 そんな心配をよそに、アクアが扉に力を込めるとガタガタと音を立てて、重たそうな石の扉が開いたのだ。


 中は通路のようにも見える細い部屋となっており、奥には同じような石の扉が見えたのだ。

 ここから奥の扉まで進むのだろうが、見たところ炎はどこにも見ることが出来なかった。

 どう見ても怪しいと思うのだが、アクアは何も考えず一歩その部屋に足を踏み入れたのだ。

 その途端、部屋中が炎の波で包まれたのだ。

 多少の火には問題がないアクアでさえ、その炎の中を通り向こうの扉まで行くのは困難に感じたのだ。


「アクア、ここは任せておくれ。」


 スピネルがそう言って炎を操作しようとしたのだが、この部屋の炎は残念ながらスピネルの言う通りにはならなかったのだ。

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