第1話 焼失
今は死の大地と呼ばれる、かつて魔人の国が存在した場所がある。
その先には人間が立ち入る事が出来ない険しい岩山があったのだ。
飛行船のような物で近くまでは行く事は出来たが、いつも強風が吹いており、気流の乱れから墜落しかねない場所だったのだ。
そのため人間はもちろん魔人でさえも、ほとんど近づく者はいなかったのだ。
魔人達がこの世界を去って500年、その岩山に異変が起きたのだ。
ある夜、大きな地震が起きた。
この世界ではあまり地震というものが起きる事は無かったので、人間の国の人々は不安と恐怖で騒ぎとなったのだ。
そして、その岩山から噴石や火山灰が噴き出したのだ。
その一部は人間の国まで飛んで来て、建物が破壊されたり、燃えてしまった場所もあったのだ。
カクの家も例外ではなかった。
お屋敷自体は立派なレンガで作られていたため、大きな被害はなかった。
しかし隣の薬草庫は木造であり、火の粉や噴石により屋根が破壊され、一部が燃え始めたのだ。
それを見たカクは、ヨクの止める声も聞かず駆け出したのだ。
何とか火を消そうとしたが、乾燥した薬草に火が付くとあっという間に広がったのだ。
このままでは舞とのつながりが消えてしまう・・・
何とか舞の世界に光の鉱石を送らなければ、二度と会う事は出来ない・・・。
カクはそう思い、まだ無事な秘密の扉に急いで書いた手紙と光の鉱石を入れたのだ。
しかし床にひいていた魔法陣の布を取ろうとした時、屋根が崩れてきたのだ。
間一髪で、お屋敷の使用人により助けられ、カクは無事だったが、もう中に入る事は出来なかったのだ。
○
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舞は自分の部屋で光る種を取り出したのだ。
私はブラックからもらったペンダントと同じように、いつも身につけていた物がもう一つあった。
それは何度も助けられた精霊の種なのだ。
小さな袋に入れていつも身につけていたのだ。
種を一粒取り出し手のひらに置くと、種からあの精霊が現れたのだ。
小さいながらも、最後にお別れした時と同じ素敵な青年の姿であった。
「舞、お久しぶりですね。
困った事があるようですね。」
私はその姿を見て自然と涙がポロポロ出てきたのだ。
「ああ、もうあなたにも会えないと思ってました。」
「舞、私は世界が違っても種さえあればいつでも会えますよ。
だからもう泣かないで。」
そう言って、優しく微笑んだのだ。
私は転移の扉の中身が燃え尽きたことや、転移するための魔法陣が起動しない事を話したのだ。
そして、カクのいる世界に何かがあったとしか考えられないと。
精霊の話だと、魔人の世界は特に問題は無いらしい。
しかし、人間の世界とつながる洞窟の人の出入りが少し前から激しくなっていると言うのだ。
私は魔法陣が、移動する世界にも無ければ行く事が出来ないと話したのだ。
すると精霊は簡単に話したのだ。
「では、私の森にその魔法陣があればいいのですね。
舞のところにある物を見せてください。」
精霊は部屋にある魔法陣の布を隅から隅まで見たのだ。
私には何て書いてあるかもわからないし、複雑な記号のような文字が沢山縫い込まれているのだ。
精霊はふむふむと頷いた後、私を見て微笑んだのだ。
「大丈夫。
これは場所を示す座標のようですね。
全て記憶したので、今から森の中に同じ物を作ります。
少し待ってて下さいね。」
そんな簡単に出来るのかと、相変わらず精霊はすごいと思ったのだ。
「待って、私も準備をします。
この世界から急にいなくなると問題になるので。」
「ではいつでも来れるようにしておきますね。
舞の準備が出来たら転移して下さい。
きっとこちらに来れるはずですから。」
そう言って精霊は消えたのだ。
私は案外簡単に転移できる事を知り、少し拍子抜けしたのだ。
もちろん、カクが送ってくれた光の鉱石があるからなのだが。
私は父に何と言って出かけるか悩んだ。
つい一ヶ月前にも海外に行っていたことになっているのだ。
だが、父の方から1週間ほど出張で家を開けると言う話があったのだ。
なんて好都合なのだろう。
私は入れ違いで友人と旅行に行く事を話し、家にいなくても気にしないように伝えたのだ。
10日くらいで帰ると考えると、向こうの世界には一ヶ月はいれることになる。
きっと何とかなると思い、荷物の準備をしたのだ。
いつものように漢方薬をある程度持っていき、今回はガーゼや包帯、消毒薬なども持っていくことにしたのだ。
カクから送られてきた物が燃えてしまった事から、何となく火傷や怪我に必要な物を多めに持っていこうと思ったのだ。
もちろん、使う事がなければ良いのだが・・・
次の日父を見送った後、私も行く事にした。
前日に仕事の方の申し送りを急遽行い、どうにか仕事を休んでも問題がないようにしたのだ。
私は前回と同じように、薄水色の白衣とスニーカーを履き、赤いスーツケースを準備したのだ。
そして魔法陣の中心に立ったのだ。
手には綺麗な光の鉱石の粉末を入れた袋を持った。
灰を一緒にかぶるのは嫌だったので、ちゃんとふるいにかけて光の鉱石のみにしたのだ。
そして私は魔法陣が上手く起動する事を願って、以前と同じく頭上に粉末を投げたのだ。
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