第197話 秘密の会話
5000mのレースも終わり仲間の応援も終わった夕方、家に帰った俺は風呂に入った後部屋に戻りベッドに横になっていた。
「はぁ。今日は疲れたな」
ここ2日間で様々な事があった。昨日は大会で優勝して嬉しかったが、今日の試合で司に負けてしまったせいで全く気分が晴れない。
「そういえば結衣は何をしているだろう」
昨日は俺に連絡してくれたけど、今日は結衣から俺にメッセージはない。
スマホの画面を開くとそこには昨日結衣に連絡した履歴が残っていた。
「電話するのはいいけど、結衣と何を話せばいいんだろう」
司に負けてしまった手前、正直彼女と何を話せばいいかわからない。
昨日大会で優勝した時とは違い、特に報告することはないのでどうしよう。
「そうだ! こんなに話す話題に悩んでなくても、文化祭の事を聞けばいいのか!」
今日は文化祭の前日である。なのでクラス中が準備に追われているはずだ。
だからきっとその事をネタにすれば結衣とも話せるはずだ。俺はなんでこんな簡単な事を今まで思い出せなかったのだろう。
「そうと決まれば、まずは電話だな」
表示されている画面から通話ボタンを押して、結衣に電話をする。
電話のコールが数回なった後、結衣が通話に出た。
『もしもし』
「こんばんは」
『しゅっ、俊介君!?』
「よう、昨日ぶりだな」
電話を出た結衣は俺が電話してきたことにものすごく驚いていた。
「(電話口でも結衣が慌てている様子なのが凄く可愛いな)」
俺から電話が来ると思ってなかったのだろう。
電話口からでも慌ててる様子が手に取るようにわかる。
『どうしたの!? 急に連絡して!?』
「ちょっと文化祭の準備がどうなっているか気になって電話をしたんだ
これは嘘偽りのない俺の本心である。
ずっと委員長の手伝いをしていたので、クラスの出し物の進捗も気になっていた。
『今の所順調だよ。今日体育館で初めてリハーサルもしたけど、何も問題はなかった』
「そうか。それならよかった」
『俊介君は‥‥‥レースの結果はどうだった?』
「たぶん茉莉から聞いてると思うけど、予選は通ったよ」
『そうなんだ。よかったぁ』
電話口から聞こえる結衣は安堵しているようだった。
何故彼女が安心しているのかわからないけど、先程とは違ってだいぶ落ち着いたみたいだ。
「昨日茉莉が俺のレースを動画で撮って、結衣に送っていたらしいな」
『うん。昨日の俊介君も凄く格好良かったよ』
「そうか。格好良かったか」
『やっぱり俊介君の走っている姿って、凄く格好いい」
「結衣にそう言って貰えて嬉しいよ」
こうして電話していても、結衣はきっと俺の事をずっと応援してくれている。
それに対して俺は感謝しかない。だからもっと頑張って司を超えなくてはいけない。
「昨日の俺のレースも見ていたって事は、今日の俺のレース動画も見たんだよな?」
『うん。茉莉ちゃんからもらった俊介君のレース動画は全部見たよ』
「そうか。格好悪い所を見せちゃったな」
やっぱり俺の予想通り、結衣は俺の試合を見ていたらしい。
でも、そんなに落ち込んでないようで良かった。正直俺以上に気に病んでいるような気がしたから、元気そうでよかった。
『そんなことないよ。頑張っている俊介君の姿は、凄く格好良かった』
「ありがとな。そう言ってくれて、俺も嬉しいよ」
例えそれが慰めであったとしても、結衣にそう言って貰えて凄く嬉しかった。
こうなると次の試合も頑張らないといけない。
『俊介君は大丈夫?』
「大丈夫って、何が?」
『うんうん、何でもない。決勝レース頑張って』
「あぁ、明後日もう1度司と戦うから、その時は絶対に勝つよ」
『うん、頑張って』
「結衣も明日の演劇、頑張ってくれ」
『うん。頑張る』
「そっちは明日朝早いだろう? そろそろ切るよ」
『待って!!』
「えっ!?」
『私、まだ俊介君と話したいんだけどダメかな?』
「駄目じゃないよ!? 明日はレースがないから、少しだけ夜更かししても大丈夫」
『そう。ならよかった』
夏休みの少し前から結衣は少し変わった気がする。
どこが変わったか言葉で言い表すことは出来ないけど、しいていうなら葉月と絡むよりも俺と一緒にいることが増えたことのように思う。
「(もしかして結衣は‥‥‥俺の事が好き?)」
いや、そんなことはないだろう。
結衣は葉月の事が好きなんだ。俺の事が好きなわけじゃない。
『俊介君?』
「いや、何でもない」
この後結衣と1時間ぐらい雑談をしてこの日は寝た。
結衣と話していてふさぎ込んでいた気持ちが少し晴れやかになった。
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