三つ目のパーティー

 寄り合い馬車の停泊所。

「今を時めく金剛猿アンチラと一緒出来るとは、光栄である」

 そう言って髪を短く刈り込んだ、鎧に身を包み清潔感に溢れた男が手を差し出して来た。

「いえ、こちらこそ。護人タリスマンの噂はかねがね」

「む、恥ずかしいことだ。金剛猿アンチラの偉業とは比べるべくも無いことだ」

「そんな、ご謙遜を! あなた方の堅実で地に足のついた情報のおかげで、何人の冒険者が救われたことか」

 アズはにこやかに男の──護人タリスマンのリーダー、ロッドの手を取った。

 ブレアが選んだ、見るからに怪しげなクエストはアズ達が受けるにあたって大きなネックがあった。

 ──十名以上という人数制限である。

 多くの冒険者パーティーは、大体が四名から六名ほどでパーティーを組んでいる。これは攻略のし易さと報酬の分け前の関係でそれぐらいが目安になっているだけで、特にギルドが制限を掛けている訳ではない。

 故に十名というのは、二つのパーティーの合同を想定された人数であるが生憎金剛猿アンチラは四名で三女神ミューズも少数精鋭の三名で、合わせても足りない。

 そこでレイラが「信頼のおけるパーティーに声を掛ける」と言って連れて来たのが、護人タリスマンである。

 二名の神官戦士に僧兵モンク斥候スカウトと、若干前衛に偏っているがその働きは堅実であり、「現在Aランクに最も近いBランクパーティー」と言われている。

「お互い挨拶も済んだようですし。さ、行きますわよっ」

 複数パーティーでの合同の作戦時、指揮を取るのは大抵一番ランクの高いパーティーのリーダーが音頭を取るのが──実力から見ても経験から見ても──恒例であった。

 故にアズもロッドも不平を漏らすことなく、レイラの命令に従った。


 ◇◇◇


 二台の馬車が城門を潜り王都を離れてゆく。

 整備された街道を走る内は揺れも少なかったが、王都近郊にあるという目的地に向けて街道を一本逸れると途端、振動が激しくなり尻肉を襲った。

 一行は二台の馬車に、五人と六人という形で分かれた。内訳は三女神ミューズとアズとマリオン。護人タリスマンの四人と、ブレアとミルドレッドという、金剛猿アンチラが面子を割ける形である。

 こうなったのは一応のリーダーであるレイラが、どうしてもマリオンと乗ると譲らなかったからだ。

 否を唱えることも出来たが、依頼前から無駄な体力の消耗を嫌いアズはその要求を飲んだ。

 が──今度はマリオンが文句を言い出した。「アズと一緒じゃなきゃイヤだ」と。

 まぁそういう訳で、この面子なのだが──。

 では、馬車の中を覗いてみようか。

 まずは、そう、無難そうな護人タリスマンの側を見ていこう。


「もしや、ブレア殿は蓮天道の者かな?」

「わ。知ってるんですねっ」

 ロッドがブレアの持つ棍をしげしげと見、興味深そうに言った。

 霊山を降り、自身の信奉する宗教がマイナーだと気付いたブレアは嬉しそうに笑う。

「無論だとも! 信奉する神は違えども、我らは世のため人のため無私の奉仕を行う身である。知らぬ筈がない」

 そう息巻くロッドに対し、ブレアは曖昧な笑みを返した。

 蓮天道は自己研鑽の宗教である。故にロッドの認識と実情は大きく違うのだが、否定するとややこしそうなので沈黙で応えたのだ。

 ここで少し護人タリスマンについて話そう

 四人組のパーティーであるのは先にも語ったが、そも神官戦士とは? 盾とメイスで、タンクとアタッカーを兼任するのは騎士にも似ているが、忠誠の先であろう。

 即ち神か、国かである。

 そして戦い方だが、これも騎士に似ているが一点、明確な違いがある。

「へぇ~。皆さん回復魔法が使えるんですね」

「うむ。これも神の奇跡の為せる御業よ」

 神官戦士だが、自身に限定して自己回復魔法が使える。

 前衛で敵の攻撃を受け、自己回復をし、殴る。これが神官戦士の戦い方であった。

 僧兵モンクも似たようなものだが、神官戦士が物理盾に対し僧兵モンクは回避盾である。これこそ、ブレアと似た戦い方だ。

 もう一人の神官戦士はジルドと言う。僧兵モンクの名はタスクと言い、ロッドを含めて三人は同じ教会で育った幼馴染であった。

「紹介しよう。彼がウチの生命線のダガーだ。ジョブは斥候スカウトである」

「っす。ダガーっす。よろしくっす」

 そう言ってハンチング帽を目深に被った男が頭を下げた。

 斥候スカウトとは索敵や地形の把握、罠の解除などを行う、パーティーの先導役である。

 迷宮ダンジョンではミス一つが命の危険に繋がる。故に斥候スカウトの有無は生死を左右する。ロッドの紹介が、彼がダガーにどれだけ信頼を寄せているのか分かろうというもの。

「マジ幸運っす! 三女神ミューズと一緒に仕事出来るなんて!」

「落ち着けダガー。昨日からそればかりではないか」

 ダガーが鼻息荒く立ち上がった。

「しかも三女神ミューズだけじゃなくて、ミルドレッドさんみたいな綺麗なねーちゃんとも一緒だなんて! 超ラッキーっす!」

「あん?」

 会話に加わらず、興味なさげに外の景色を眺めていたミルドレッドだったが、自分の名前が呼ばれれば流石に意識がく。

「超エロっす! そのおっぱい、マジたまらんっす!」

「……おい。アンタらのとこの神様はセクハラを推奨してるのか?」

 ダガーの直接的な物言いに、ミルドレッドは不快で顔を歪めた。

 元男であるが──いや、男であるからこそ獣欲に塗れた視線を向けられるのは堪ったものではない。

「ハッハッハッ。ミルドレッド殿は余り宗教にご興味がない様子。確かに、我が宗派は清貧を美徳としているが、禁欲までは謳っていないのだよ。欲とは、抑えるものではなく上手く付き合うものである、と」

「……ちっ」

「しかしミルドレッド殿の言うことも尤もである。ダガーよ、元気が有り余っているのは良いが、他人様に迷惑を掛けるのは関心せんぞ。それではお主の憧れの三女神ミューズにも嫌われてしまうぞ」

 しかしてロッドは快活に笑い、やんわりパーティー面をたしなめる。

「それは困るっす! 自分、ドーラ様命っすから!」

 先ほどまでミルドレッドの胸に心奪われていた男の発言とはとても思えない。

 随分と軽い命だと、ミルドレッドは眉を潜めた。

「それにしてもドーラかよ。随分趣味が悪いんじゃねぇ?」

 よりにもよって──。ミルドレッドが皮肉げに口元を歪めるとダガーはムキになって反論してきた。

「何言ってるっすか! あの胸あの尻あのくびれ! 男の願望を形にしたかのようなムチムチプリン! あぁっ、あの太ももに挟まれて死ねたらどんなに幸せか!」

 臆することなくダガーは叫ぶ。

 こうまでハッキリと下心を見せられると、呆れを通り越していっそ感心してしまうほどだ。

 ミルドレッドとて、分からないでもない。何せつい先日までは心身ともに健常な男だったのだから。

 ダガーの熱意を前にして、改めてドーラを想像する。

 ……確かに。魔導院のださいローブの上からでも分かるは垂涎モノである。女好きを自負するミルドレッドの食指が動かないハズが無い。無いのだが──。

「……」

 だが、ピンと来ないのだ。彼女と男女の仲になるという想像が。

 彼にとってドーラは魅力的な女性と言うより口うるさい、揶揄からかい甲斐のある同期という印象が強いからなのだろうか?

 はたまた──。

「えと。ダガーさんはどうしてドーラさんに執心してるんです? 太ももで死にたいってどういうことです?」

 ブレアの曇りなき眼がダガーに向けられる。

「おっと。お子様にはまだ早かったっすね。大丈夫っす! ブレアきゅんもっきくなったら自然と分かるようになるっす!」

「ぷぅ! 子供扱いしないでください! 僕ももう、きちんと成人してるんですからね!」

「マジっすか⁉」

 ダガーという人物。随分と軽薄な印象を受ける。

 ミルドレッドは他人事ながら護人タリスマンが心配になったっが、今の今まで生き延びてBランクにまで昇りつめたのだから、実力は確かなのだろう。

 何せアズが認めているのだから。それならと、ミルドレッドは思考を打ち切った。

 そもそも今回の依頼は病気の治療なのである。迷宮ダンジョンに潜る訳ではない。斥候スカウトの出番があるか果たして。

「何を驚くことがあるダガー。冒険者の登録は成人でなければできぬだろうに──ん? どうしたジル度?」

 ロッドが己がパーティー面に呆れる一方、寡黙な幼馴染の微かな変化に気づく。

 自然、馬車内の視線は、もう一人の厳つい神官戦士に集まった。

「……可憐だ」

 ポツリと。巌の如き大男が呟く。

 ジルドの視線の先は、誰あろうブレアがいた。

「ジルド、お主まさか……」

「意外っす! でも納得っす! ジルドさんが女性に興味ない訳っす!」

「マジかよ……」

 呟きの意味を皆が察する中、当のブレアは分からないと謂わんばかりに首を傾げた。

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