11.5時限目 泥酔の一幕
「ねーぇ~っ! いっしょ寝よ?」
「いやっ!? あの!? 満弦さん!?」
──────時刻は少し遡り、午後一〇時を回った頃。
俺は零を外に逃がし、同様に女子の階を見張っていた満弦さんも卯月をホテルの外へ出していた。
が、問題はそこから。何故かヘロヘロに酔った満弦さんが男子の階に居る俺の所まで降りてきて、絡んで来たのだった。
千鳥足で歩いてきていたため咄嗟に肩を抱き安定させる。
見たところ、ドレス姿のままであることから、部屋に戻った後に洋酒か何かを呑んだのだろう。至近距離にいるため香水とアルコールの匂いで頭がいっぱいになる。
どうにか理性を保ち椅子に座らせた。が、こちらをずっと物惜しげに見ながら細い指で袖を掴んできている。
かくいう俺もスーツの上を一枚脱いだだけなので、中はこの通りワイシャツを着崩している格好だ。
上目遣いなのが普段の印象と違い余計に危なくなる。これでも今は教職活動中。理性は保たないといけない。
実際、俺とて相当危ない状況である。零のことを気にかける必要がある上に他の教員に見逃したことをバレてはいけないのだ。それに加え、こんな朦朧としている年下の美女が甘えているなんて、夢の中であってくれと思うばかりである。
ふと満弦さんに水を買ってこようと提案してみるも、「やだ」と子供っぽい返事で袖を掴むのを止めない。
「どうしたものか……」
「ねーぇ~っ!」
と、冒頭に戻る。
俺はつい二、三秒ほど硬直してしまっていた。仮にも今は満弦さんとて看守の仕事があるのだ。仕事や規律に厳しそうな満弦さんがまさかアルコール一つでこんなにもとろけるとは思っていなかった。この人は人前でアルコールを摂取させるべきでないと痛感した。(そもそも俺は共に呑む機会が少ないが)
このまま椅子で寝かせる訳にもいかない。かといって満弦さんのポーチや身をまさぐってカードキーを使うわけにもいかず……運の悪いことに俺の部屋はここから一番近いという最早何かの間違いといえる欠陥。
だが、残り一時間弱もこの状態にさせていてはある意味俺に責任問題が追及される。
意を決して自分の頬を叩くと、満弦さんへ話しかけた。
「満弦さん、今俺の首に手を回すことできますか?」
「んー」
俺がかがむと、すぐに首に手をかけ身体の力を抜いた。俺は改めて深呼吸をすると、満弦さんの華奢な肢体を両腕で持ち上げる。
(柔かっ……!)
なんというか、罪悪感でいっぱいだった。
だが当の本人は気にするどころか更に力を強め身体と身体を更にくっつける。鼻腔に良い匂いが充満し呼吸をするのさえ申し訳なく感じる。
「細いし軽いし……」
「ん~ふみゅぅ~♪」
何の動物か分からない鳴き声を発しているが、心地よさげなのだけは見てとれた。
だが、突如接近していた俺の身体に、思わぬ感触が。
視線を落とそうとするが、そこには満弦さんの頭があるため落とせない。
だが、肩の────具体的には胸の上辺りの肌に柔らかなモノが当たっている。
そしてそれは恐らく─────いや間違いなく唇である。
顔の向きが悪いせいだろう。後ろめたさが心中を蔓延する。
だがようやく俺の部屋へ辿り着いた。
カードキーで無理くり部屋を
だが、下ろした瞬間彼女は眼をゆっくりと開き、再度ねだる構え。両の手は俺の腰に周りそうになるが、飛び退いて
不満気な表情を見せていたが、ベッドの上に放置していた俺のスーツの上着を見つけると、羽織るようにくるみ、安らかに就寝された。
……普段から峻厳な人柄であるため、人に甘えることが少ないのだろう。ギャップは中々見ていてクるものはあったが、和やかに感じてしまうだけだ。
夜中だからだろうか、それとも満弦さんが甘えていたからだろうか、寝ている彼女の頭を僅かに撫でると、気持ち良さそうに唸った。
そして最後に、夢の中でだろう────
「さとる……くん……」
と、寝言を呟いていた。
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