7時限目 炎天晒す。白く輝く
「っしゃ! 念願のビーチだぜぇ!」
「うるさいぞ雷斗……。まぁ、楽しみなのはわかるけどさ」
ホテルへ荷物を置いた後、現在時刻は昼の三時辺りだろう。
僕らは全体で、南国のビーチリゾートへ身を投じていた。
女子等は新調した水着を身に纏い、僕らも海水用水着に着替えている。
だが、僕の耳は変わらずインカムを装備したままだ。
肝心のマイクはないのだが、インカム越しにどうにかこうにか先生が気苦労してくれているそう。僕はそんなことを気にも留めずビーチを楽しもうとした。
そこで、意中の集団へ偶然にも邂逅する。
ともあれ、荷物を置く場所は大抵限られているせいだ。偶然というには少しおかしい気もする。
ふと周囲を見渡すと、ビーチパラソルの下に居るジンドー先生を見つけた。
何やら先ほどの茶髪の女性とともに向かい合った椅子に座っており、小言半分、指示意識半分といったところだ。
『ほら零。偶然に会ったんだから、それなりの発言ぐらいしたらどうだ?』
「ぅっ……分かりましたよ」
「あ、さっきの」
すると、集団の中に紛れていた卯月さんが前に出てきた。
僥倖と思いながら彼女の手を見ると、ハンカチで手の甲がまかれている。
ほっとした安堵とともに僕は声を漏らしてしまった。
「あぁ。使ってくれてたんだ」
「まぁ……折角だし?」
「え、ナニコレ私たち退散した方が良い感じ!?」
彼女らの集団の一人が煽り立てるように発言すると、卯月さんは慌てふためいたような雰囲気で煽った人物をぽこすかと叩いた。
一人、「押し倒すならあそこがオススメだよ!」とビーチの陰を指し示す者もいたが……卯月さんによって止められていた。
恥ずかしかったのか、本当に嫌だったのか分からないが、当人の意識を乖離し周囲の状況のみで推察するならば、好感触であることは間違いないだろう。
「もうっ……」
「──────! レー。オレ達向こうで泳いでっからよ!」
「ちょっ、雷斗!?」
すると今度は雷斗が声を張りわざとらしく宣言する。
男女とも、どんどんと周囲に流され皆が一様に去っていく。望んでいたとはいえ、まさか急激にこんな展開になるとは思いもしなかったため、二の句を接ぐことができない。
『都合良いじゃねぇか。適当に周りのヤジに応えといて、相手に選択させてみろ』
「(……了解です)」
ふと耳に直接入ってきた声に、心中で謝辞を述べる。
指示されるのなんて御免だとは思っていたが、一応の礼くらいはしよう。未だに解せないが。
フレーズは自分で考えるものの、そう大して当たり障りのない言葉を紡ぐことはそう難しくはなかった。
「ったく……アイツらも困ったことするよな」
「う、うん……」
「戻っても良いけども……どうする? 適当にぶらつくとか話し合うくらいとかなら、多少時間とるくらいだけど」
「……? ―――――――んえぇ!!?」
気の落ち着かない前方の少女は、決して眼を合わせることなく口を結んでいたが、意味を理解し呑み込んだ僕の発言に咄嗟に言葉が継げず、しどろもどろになっていた。
機転が利いたはものの、僕とて女性を口説いた経験なんぞない故正気の沙汰ではない。
「も、もちろん嫌なら嫌でいいし! 僕なんかと話してるよりしたいことあるならそっち優先で――――」
「別に、いいけど……」
「……へ?」
再度同じ言葉を聞こうとしたが、聞くよりも前に耳に衝撃が走る。そうだ。完全に先生が見聞していることを失念していた。
冷静な先生は変わらず浮き足だった口調で進言する。
『女に同じことは言わせんな』
「(! はい)」
口元を隠しながら、再度同じ発言をしようと努力している彼女を振り切るように、僕は焦って口火を切った。
「じゃあ、どうしようか。その手傷だと……海水は傷みそうか?」
「いや、大丈夫そうだけど……氷室君は良いの?」
「良いって?」
「わたしと話してるより――――ってこと」
「……? あぁ」
さっきの僕と同じことを言いたいのだろう。だが、そこで食い気味に先走った所で胸の内を勘繰られてしまう(これだけ行動している分隠す意味はないのだが)。
だが、こういった修学旅行中に恋愛が発展して彼氏彼女の関係になるということは、現実ではありえないことだ。そこが、ゲームとこの世の大きな隔たりだろう。
一拍置いて、深呼吸をした。
「平気平気。僕も置いてかれた身だし。こういう時ぐらいじゃないと話す機会なさそうだから。────って言うと、口説き文句になるかな?」
「ふふっ。まぁ確かに、女の子を手玉に取ってそうな感じはするかなぁ」
「手玉って……元よりあんまり話さないけど」
「えぇ~!? 勿体ない。可愛いよ、女の子達」
「……まぁ否定はしないけども」
何故やら熱烈に女子高生の話題に食い付いてきた卯月さん。彼女自身も女子高生ではあるのだが……口調からして自分を範疇に入れてなさそうだ。
海辺の方へ指を指されたため、歩きながら会話をすることになった。
そこはかとなく、彼女から話題が振られたことに嬉しさを感じつつ、返答する。
「卯月さんって遊戯の授業受けてるよね?」
「? うん」
「それって何でか、聞いてもいいかな?」
「何でって言われると……やっぱりいっぱい女子高生に触れあいたいから?」
「! 何それ♪」
「なっ!? 今笑った!?」
詰問気味になるが、気迫の感じられないといった口調で話す卯月さん。野暮だとは思いつつも、そればかりは笑うしかなかった。
同様の質問を、僕へ投じられる。
「僕はまぁ、友人がたまたま入ろうって言われて、仕方なくかな。
でも、まさか本当のトップゲーマーが教師になるだとは思いもしなかったけど」
「確かに、あれはちょっと驚いちゃった」
微笑混じりに会話をする光景は、中々サマになっているのではないかと心の中でガッツポーズを作る。
何分話す機会が少なかった故、素直に嬉しい。相手方がどう感じているかは少し気にはなるが、それはまた後程先生に聞いてみるとしよう。
「で、どうだった? あの授業で可愛げな人は見つかった?」
「たっくさんだよ! かなでん―――じゃなくて、
「それは何より」
矢嶋……という人物に心当たりがなく、不思議に思いつつも、自分の勉強不足だと思い思考を切った。
落ち着いた空気を取り戻し、和やかに海辺を歩く。
周囲の生徒も多少なりとカップルで時を過ごしている例があるため、大して注目の的になることはなかった。
――――先生から再度、進言をされる。
『向こう自身、話に乗り気そうだな。順調そうで良いじゃねぇか』
「(仕組まれてる感覚が否めないんですけど)」
『はっ。そんな邪推今は捨て置け』
そうこう案じているよりも、今置かれている状況を楽しんだほうが好機だ。再度思考をシャットダウンし、僕は再度隣の彼女へ気さくそうに声をかけた。
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