A-44

 料理の準備も出来上がり、僕はみんなの元へ料理部の自慢の料理を届けてあげた。


「おまたせっ!ゆっくり食べていってね?」


「あれ~?紡は、一緒に食べないの??」


「僕は、やる事があるしブースからみんなが見えるから大丈夫!」


 僕は、後片付けや裏方の仕事が残っていて、みんなに声をかけたあと、ブースに戻ることにした。

 片付け中もワイワイ楽しそうに食べてくれる5人の姿が僕の心を温かくしてくれる。

 僕は、その光景が嬉しくてたまらなかったんだ。


 ―ピコン!

 僕のLINEが鳴った、ん?誰からだろう??


《今日の帰り、家まで送らせてくれないか?》


 みんなの目を盗み先輩は、僕にLINEを送ってくれたんだ。


《先輩が良ければ…是非お願いします…!》


 LINEを返して僕は、先輩に目を向けるとそれと同時に先輩もLINEの通知に目をやり、そっと僕にニコッとアイコンタクトを送ってくれたんだ…。


《18時、駐車場で》

《わかりました、楽しみにしています》


 そうやりとりをして僕は、ブース内の片付けを続けることにしたんだ。


 ◇ ◇


 ―18時


 体育祭も終わりを迎えてすっかり辺りも暗くなっていた。


 今日はみんな各々で帰ることになっていて、洸は灯里と、深結は陽翔先輩と、一緒に帰ったようだ。


(僕も、先輩のところに行こう…!)


 料理部の撤去作業が終わった僕は、先輩の待つ駐車場まで足を向けた。


 駐車場に着くと、車の前で先輩が立って僕を待ってくれていた。やばい、ちょっと遅れちゃった…。


「ごめんなさい、待ちましたか…?」


「…うん、5分ぐらい?」


「あ、先輩ごめんなさ…「罰として明日も休みだし、俺とドライブ…付き合ってくれるか?」


「…はいっ!もちろんです…!////」


「ふふっ、良かった。さ、乗って?」


 僕は、助手席に座ってシトラスの匂いに包まれる。僕の大好きな空間の一つになっていた。


 ―ドライブ中


「紡?コンポいじれるか?」と先輩は、機械音痴の僕にいじってほしいと頼んできたんだ。


「…えっ?!こ、壊れても知りませんよ!?」

 と慌てて返すしか無かった僕…。その返答にあははっ!と笑う凌空先輩は「大丈夫、ちゃんと教えるから」と操作の手順を教えてくれた。


 その手順通りに頑張って押そうとしたその時…空いてる先輩の手が伸びてきて、僕の手を握りしめ「ここだよ」と何個かボタンを押して、最後に再生ボタンを一緒に押してくれたんだ…。


 ドキっとする僕にニコッと微笑む先輩…。


 再生して流れてきたのは、僕の大好きなアーティストの歌…「約束しただろ?今度、車で流してやるよって」


 僕の家で交わした約束を忘れずに叶えてくれた先輩に僕は、ありがとうと返したけれど…まだ今の今になっても先輩に対して緊張しいままなことに苛立ちを覚えた。


 それでも先輩は、ずっと僕の事を待ってくれている…。ちゃんと先輩に、想いを伝えなきゃ…!もう、覚悟は決まっているんだから…!


 そんな気持ちになりながら僕は、膝の上で手をギュッと握りしめ、聴き慣れた音楽と歌詞を聴き入っていったんだ。

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